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彩る君に恋をした。  作者: 椎名 椋鳥
19/31

黒い宝石

「本日は休日にもかかわらず、同行していただき誠にありがとうございます」

 バスガイドのように後ろ歩きでアナウンスするヒヨリ。

今向かっているのは南西のコスタという鉱山らしい。

かくにも、この前の一件が解決した後に元の世界に戻されるのかと思ったが、どういうわけか物語が継続している。ということで城に帰り、王様へ報告した。

その後、休暇を頂いたのでレオナ、メルと共にヒヨリに付き合ってやっているのだが。


「今回の目的は……宝石を採りに行くことです!」

「宝石なんてただの石ころだろ?」

 不意に思ったことを口走ってしまったがその通りだと思う。

「そこ! 黙りなさい。今回狙う宝石は一味違うのよ。なんとブラックオパールの宝石なの!」

 ヒヨリは俺に指差し、したり顔で説明する。その説明を補足するようにレオナが口を開く。

「コスタのブラックオパールはとても希少価値が高く、王国内でもなかなか手に入らない代物なんですよ。それにあの宝石を見た時の美しさは格別です」


「だからそれを採りに行こうっていうことなの。メルちゃんも宝石見たいよね?」

「私も見たいぞ」

 メルは両手をいっぱいに広げてリアクションする。

絵画にも個人の価値観によって良いと思うものと悪いと思うものがある。

画家が渾身の出来だと思った作品でも評価されないことなんてざらにある。

更に売れなかった絵画でも将来高値がつく可能性がある。見る人によって価値が変わるのが芸術の世界。

そんなに石ころがいいものかね……とため息をついて目線を右に寄せると、草一本生えない荒野にどう見ても不可解なものが目に入った。


——白い鳥居?


 荒野にポツンと佇む一基の鳥居。どうしてこんなところに鳥居があるのか、そもそもこの世界に神社なんて概念すら無いはずなのに。それに鳥居の先に神社があるならまだしも、その向こうも荒野が広がっている。

立ち止まってあれこれ考えているとヒヨリに、

「湊君行かないなら置いてくよー」

 と言われたので慌てて追いかける。あの不思議な鳥居は俺をこの世界にいざなったことと関係しているはずだ。



 しばらく歩いていると小さな集落が見えた。王国やアムージュの街とは違ってこぢんまりとした村。

村に入ると小さいながらも、村人はのどかな生活を送っていた。レオナが再びこの村についての説明をする。

「この街で宝石を研磨して各国に売っているらしいのですが……」

「ですが?」

「最近は採掘量が減っていて村の元気もなくなっているらしいのです」


 鉱物なんて無限にあるわけでもなさそうだしな。

とりあえず村の人々に聞き込みをしてみると鉱山の手前の方はもう取り尽くされているらしいが奥の方はまだ残っているとのこと。

本日は誰も採りに行かないみたいなので自分たちでその鉱山に採りに行かなければならない。

 入り口からは冷気が出ており、洞窟内に灯りはあるものの薄暗い。

床にはトロッコが使われていたのか線路らしきものが敷いてある。

「は、入るよ……」


 中の薄暗さにビビりつつもハンマーとタガネを手に持ち、先頭をきって歩くヒヨリ。

 メルは珍しい場所に来たと感じ大はしゃぎ。

「真っ暗だ真っ暗だ!」

「あんまりはしゃぐなよ。ほい、手」

 危ないところへ行かないように手を繋いでおこうとメルに左手を差し出す。

「なんだ湊、また私と手を繋ぎたいのか?」

「別にそういうわけじゃないけど、ただ危ないかなと思っただけで」

「しょうがないなぁ」

 気怠そうに差し出すメルの右手を優しく握った。一見気の乗らない顔をしているメルだが彼女の握る手はとても力強い。

 照れ隠しということにしておこう。

「湊の手、冷たいな」

「メルの手は……暖かいな」

 俺はにっこりすると今度は目を逸らし、本当に照れたかのような仕草をする。


 歩き進めると、段々掛けられている灯りが減っていくのが分かる。

鉱山独特の寒気も強くなり、手も冷えてくる。地面を踏む音が洞窟内に響く中、俺たちはとある広場についた。いかにも崩れそうな壁と叫んだら響きそうな空間。メルは俺の手を離し、走り回る。

「この辺りにありそうですね。ブラックオパールはホワイトオパールと違って目をよく凝らさないと見つからないみたいですが……」

 レオナが後ろから話しかけてきた。

ヒヨリがじっくりと壁を見ていると、ハッと何かを見つけた様な顔をする。

「これ、そうじゃない?」

 壁に層になって黒光りする場所を指差した。

ヒヨリは壁に向けてハンマーでタガネを打ち付ける。採れた原石を袋に詰める。できるだけ上質な原石を持って帰りたいのか、ヒヨリはいろいろなところにある原石をせっせと採る。

その光景をただ眺めるだけの俺とレオナ。

「よし、採り終えたよ。帰ろっか」

 ヒヨリの言うままに俺たちはこの場所を離れようとした。

 小石がコロコロと流れ落ちる音がしたと感じたその時だった。


 レオナの横の壁が崩れだしたのだ。

「危ない!」

 俺はすぐさまレオナを押し倒し、崩れ出した壁の場所から離れさせる。間一髪、崩れ落ちた壁から避けきれたのだが……。

「み、湊君……」

 仰向けになるレオナとうつ伏せになる俺はゼロ距離で見つめ合う。

高鳴る鼓動が自分の体全体に響き渡る。

五秒ほどお互いをうっとり眺めていたが我にかえり、すぐさま立ち上がる。

「ご、ごめん……」

「い、いえ……助けていたただきありがとうございます」

「もう、早く行くよ!」

 ヒヨリの怒ったような声を聞き慌てて歩き出す。


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