736手間
遠い目をしていたのを頭を降って戻しそこでふと気になったことを聞いてみる。何で今更ドレス、いや着物のことを聞いてきたのか、褒めるにしては遅すぎるし気に入ったのなら作れる職人を呼び寄せようかと言うのも貴族的な発想ではあるもののまだわかる、だが何故今このタイミングなのか。
ただ単にクリスがワシの説教じみた説明から逃げたくて咄嗟にという可能性も無きにしもあらずだが、そもそもドレスの新調など何かパーティなどでもない限りそこまで頻繁にするモノでも無いのだが。
「あぁそうだもう一つ、詳しい日取りはまだ決まって無いけどパーティがあるから。流石にシン皇国からそのドレスの職人を呼び寄せるほどは日にちが離れてないから、ドレスは我が国のモノでね」
「おぉ、それはまぁ何とも突然じゃのぉ、今まで無かったのにどうしたのじゃ?」
「猊下のことなどで色々ごたごたしていてね、最近はお隠れになられたのだから派手な催しは控えようとなってたんだけど……」
「ふむ、何ぞあったのかえ?」
「うん、空に見えた炎が猊下のお許しの証だとね」
「おぉう……」
ニヤリと笑ったように見えたクリスが告げた言葉にワシは軽く頭を抱える。
「それワシじゃのぉ」
「そう、だから父上もそれに乗っかって、パーティでセルカをお披露目して認めさせようっていう考えみたいだよ」
「ふむ、やはりワシを認めぬ輩がまだおるんじゃな」
「バカなことにね。どうしても神都や主要な領から遠い辺境は、自治領みたいにならざるを得なくてね。そのせいで保守的というか、未だに獣人は奴隷と扱うべきだと考えている者も居るくらいなんだよ」
「だからこの機会に認めさせようという訳じゃな」
なるほど納得したと腕を組みうんうんと頷けば、即座にクリスが「違うよ」と首を横に振るのでワシは腕を組んだままズルリと右肩をコケさせる。
「そのパーティに出るのは、神都や近郊の貴族たちだけだからね。ただ、その分だけ力や発言も強い、そんな者たちに睨まれたら流石に自治領に近いといえど強く反発できないからね」
「しかし、あまり無理矢理抑えつけるとまずいのではないかの?」
「その点は大丈夫さ。彼らは皆敬虔な信徒だからね、猊下から王権を下賜された僕たちをどうこうしようとまではいかないさ、今回のパーティでまず有力貴族に認められてそれを聞いた彼らも獣人全体はダメだろうけど、セルカを認めるくらいはしてくれるはずさ」
「そんなもんかのぉ」
その手の輩は自分の目で見ないと信じそうにないしそううまくいくのだろうかと思うが、あまり悲観が過ぎるのもダメだろうとクリスの話にふんふんと相槌を打つのだった……。




