700手間
ワシが仕留めた一匹とデイワズ前伯爵が仕留めたもう一匹を馬が引くソリに乗せ、狩りを始めてからかなり早い時間ではあるが引き上げるその段になっても、油でも指したかのように滑らかな口の猟犬の飼い主は話を止めない。ワシとしては子オオカミを育てるのになかなか有用な話もあるので、耳を傾けることに否やは無いのだが、それにしても話が長い。
どうも馬に比べ世話になる人の範囲が狭くイマイチどう凄いのか分からないからか、猟犬の飼い主というのは馬番などより一段低くみられるらしく、特にワシやデイワズ前伯爵のように身分の高い者から褒められることなど滅多に……いや、今まで無かったようでうれしさのあまりかなり饒舌になっているようだ。
その話の長さに子オオカミはワシの胸元でお腹いっぱいになったこともあるだろうがぐっすりと、飼い主の周りを固めている猟犬たちも、心なしかそんな主に呆れたような目を向けている気さえする。
「しかし、優秀なのは分かったのじゃが、その子らだけでは大変じゃろ」
「セルカ様とデイワズ様の為に最も優秀な者たちを連れてきましたが、施設には十数匹居りますので。すぐに狩りへと同行できる者が、ですので育成中の子を含めればもっと居りますが」
「ほほう、そんなにおるんじゃな」
「セルカ様がご希望でしたら何匹かお譲りすることも可能ですが」
「あぁ、いや。ワシにはこの子がおるから十分じゃ」
胸元で呑気に眠りこけている子オオカミを撫でればぴくぴくと動く耳に相好を崩す、それにお譲りするの下りでまるで嫁に行く娘を見守る父親の様な顔をされては、たとえその気になったとしても欲しいとは言えない。
「左様ですか、でしたらその子の教育係として施設に努めている者から、何名か派遣することも可能でございますが、いかが致しましょうか」
「ふぅむ、それは魅力的な提案じゃが……猟犬を育てる訳ではないからのぉ」
「そうだったのですか?」
任せるにせよ自分でやるにせよノウハウを持った者が近くに居るのと居ないのでは様々なことへの対処が変わってくるのは当然、しかしワシの場合はある程度は飼育のノウハウがなくとも意思疎通が出来る上に基本的にワシに逆らうようなことはしないので大丈夫だろう。
それにだ、同僚をワシの様な身分の高い者の傍に送り付けるというのに、要らないモノを処分してくれるぞみたいな笑顔で言われても……。
「それに雇用となると、ワシの一存では決められんしのぉ……」
ワシがそういった瞬間、フレデリックが若干胡乱な目をワシに向けたがそんなモノは見なかったとばかりに起こさないように眠っている子オオカミの足をいじったりしてようやく静かになった帰り道を行くのだった……。




