680手間
騎士たちの呼吸が落ち着いてきたところで休憩を止め、更に木々が密集している方へと歩き出す。
「セルカ様、先ほどから迷いなく進んでおられるようですが、こちらの方向に何かあるので?」
「んむ、こっちに水場と動物の気配があるのじゃ。ところでフレデリックや、何ぞ狩ってはいかんモノなんかは聞いておるかえ?」
「管理人によれば動物の子供と、羽の綺麗な鳥以外であれば大丈夫だそうです。他にもいるそうですがこの時期にはまず出てこないので、気にする必要もないと」
「ふむ、わかったのじゃ」
流石に商売にしているだけあってその手の事は厳しくしてるらしく、狩った場合は罰則があるそうだ。とはいえ客のほとんどは貴族、さらに言えば狩りを趣味に出来るほど余裕のある貴族が来るのだから、客はあまりその罰則に引っかからないらしい。主に破るのは密猟者の類だという、羽の綺麗な鳥とわざわざ明記してるのはその密猟者によって一時期乱獲されてしまい数が減ったかららしい。
「まぁ、ワシの狙いは鹿に猪、あとは熊かのぉ」
「何と言いますか……狩りというよりも、猟といった方が良い獲物ですね」
「いくら暇つぶしで来ておるとはいえ、食いもせん生活の糧にもならんモノを獲るつもりは無いからのぉ」
訓練や完全に娯楽としての狩りがあるのも知っているしそれを別段否定するつもりもない、むろん悪趣味な方法でやっていたらいい気はしないし口も出すかもしれないが……。
しかしまぁ、何と言えば良いだろうワシが獣人だからか、生活に結びつかない狩りというのは出来る限りやりたくはない、ただ命をとるだけならば魔物相手にすればいいのだから。
「セルカ様お話し中失礼します、あちらをご覧ください」
「ん? どうしたのじゃ?」
フレデリックと話していると、横から小声で騎士が呼ぶので彼が指し示す方を見る。するとそこにはホッキョクギツネに似た、雪景色に溶け込む真っ白な狐の姿が。
動物の気配自体は感じ取っていたが獲物には向かない小さなモノであり、流石にマナと気配だけではどの様な動物かは分からなかったので、ワシの姿に似た狐を見つけたからわざわざ教えてくれたのかと声をかけてきた騎士にむけてにっこりと微笑む。
「良い毛並みのキツネですし、獲物に如何でしょうか」
コイツハナニヲイッテイルノダロウカ。
ワシはにこりと微笑んだまま、ちょいちょいとふざけた事を抜かす騎士に手招きする。ワシの手招きに応じ跪くようにしてワシの前に屈んだ騎士に、ワシはにっこりとした笑顔のままズドンと割と本気で騎士の脳天目掛け鉄拳を振り下ろす。
「ようワシにそのような事を言えたもんじゃのぉ」
吹雪の夜の様な底冷えするような声でワシの鉄拳で地面に沈んだ男に向かって言えば、後ろに控えていた他の騎士たちが冷水をかぶったようにガクガクと震えはじめる。
「セルカ様、私が後でよくよく言い聞かせておきますのでお気を静めください。それにアレはもう気を失っております」
「ふぅ、まぁよい。おぬしらもワシの前で二度と同じような事を口に出すでないぞ。もしうっかりと口走れば……鹿の代わりにおぬしらが獲物になるからの」
腹の底の物を吹き飛ばすように大きく息を吐くと、後ろでガクブルと震えていた騎士たちを指差し忠告する。
「じゃがまぁ……畑を荒らされたりなんぞされて誰かが迷惑しておるというのならば、キツネであれど躊躇いなく、狩るがよい」
「それはよろしいので?」
「無論じゃ。おぬしらとて、同じヒューマンじゃからと野盗なんぞに情けはかけんじゃろう?」
「なるほど、確かにそれもそうでございますね」
なるほど、と頷くフレデリックと自分はあの二の舞にはなるまいとぶんぶんと首を縦に振る騎士たちにくるりと背を向けると鼻息荒く更に森の奥へと進むのだった……。




