632手間
パンと肉とスープというシンプルな、カルロに言わせればそれでも十分豪華な食事をとり、そのまま食堂で騎士たちの報告をフレデリックが受け取りワシがそれを聞く。
「やはり、といいますか、セルカ様が書斎で回収なされた書類も大半が取引証書でした。普通は証書を作らないようなかなり細かいモノまでありましたが、大きい取引は地下の書類と同様全てフロイス商会との物でした」
「細かいというか何と言うか、まぁ何も無いよりはマシじゃな。しかし、地下でも聞いたのじゃが、武器はともかく鉄鉱石はどういうことかのぉ?」
「そこまで大量ではありませんでしたし表からは隠れていましたが、獣人用の建物の裏にかなり立派な工房がありましたので、そこであの機械弓などの部品を作っていたのでしょう」
「なるほどのぉ、ふむ……ではそこで働いておった者はどうなったのかえ?」
「はい、それでしたら工房を調査した際に三名ほどの鍛冶職人を見つけましたので現在は他の者と同様に捕縛しております。幸いその三人とも寝ておりましたので双方ともに死傷者はおりません」
「ふんふん、そうかえ。ではその者たちには何処から機械弓の知識を教わったか聞きだしておいて欲しいのじゃ」
「かしこまりました」
自分で発明がどうのといっていたし十中八九ここの主であるあのゾンビ男が知識の元だろうが、万が一という場合もある。
「あの機械弓なのですが、騎士らに試射させたところ装填に力と時間がかかる以外は弓より扱いやすく威力も高く狙いもつけやすいとのことでして、我ら騎士団としましては是非とも導入したく」
「確かにアレがあれば魔物や盗賊退治などがやり易くなるじゃろうのぉ……しかしじゃ、あれが盗賊やよからぬものの手に渡れば危なくなるのは民じゃぞ?」
「その点に関しましては陛下と詳しく話さねばなりませんが、我ら騎士団以外の者の使用に厳罰を、そして作成にも許可されたお抱えの鍛冶工房のみとすればよいかと愚考いたします」
「ふむ、後は相手が犯罪者でない限り対人に用いるのも禁止にした方がよいじゃろうな」
「確かにアレを人に向ける事態など、ぞっとしないですな」
あの人を魔物にする魔石は論外だが、クロスボウは使う者さえ誤らなければ魔物という明確な敵がいる以上頼もしい戦力になってくれるだろう。
そんな事を考えていると、俄かに外が騒がしくなってくるのだった……。




