631手間
室内とはいえ地上に戻った解放感から伸びをしようとして、それを窘めるかのようにフレデリックがワシの肩にいつの間にか回収したのかそれとも新たに用意したのか、極力ワシに振れぬよう注意しながらケープをかける。
「セルカ様こちらへどうぞ、少々昼食の頃合いは過ぎてしまいましたが食事を用意させておりますので」
「ふむ、そうであったか」
てっきりこのまま外に出るかと思ったのだが、丁度地下から出た所に居合わせた騎士に何事かを申し付けたフレデリックがベテラン執事を思わせる優美な立ち姿で先導するのでその後に付いていく。
正直なところ全くお腹は空いていないというよりも空かないのだが、用意されているというモノを残したり食べないと言うのは罰が当たる。
貴族の食事と言えば無駄に作って無駄に余らせるというイメージがあるかもしれないが、厳しい気候のせいだろうか、この国では貴族といえど体調不良などでもない限り食事を残すのはマナー違反。
立食パーティーなどで余剰分が出ることもあるが、それは使用人などに振舞われたり平民に配られたりして一切捨てることは無い。
それはさておき何かを運び出してるのか、それとも逆に運び込んでいるのか、木箱を抱えた騎士たちと何度かすれ違い、その度に木箱を脇に置きビシリと見事な彫像のように敬礼をする彼らと何度か出会った後にたどり着いたのはこの屋敷の食堂だろうか、広いとは言えないが数人で会食するには十分な部屋。
するとそこには何故か料理こそ無いものの、綺麗に整えられたテーブルクロスの上に綺麗な刺繍が施されたプレースマットと銀製のカトラリー。
確かにここは屋敷といえる大きさではあるが、それでも一般家庭……いや、流石にそれは無いか、かなり裕福な家といえるだろうがそれでも銀製のカトラリーは使われることは無いだろう。
「これはここにあった物かの?」
「いえ、我々が運び込んだものでございます。ここにあった食器類ではセルカ様にお使いいただける格には届きませんでしたので、食材に関しましても我々が持ち込んだものを使用しておりますのでご安心ください」
「そうじゃな、それでは捕まえた奴らからなんぞ聞き出せたじゃろうし、食事ついでにそれも聞くとするかの」
「確かにいくつかご報告出来ることは御座いますが、流石にお食事中にする話でもございませんので、今はどうぞごゆるりとお食事をお楽しみくださいませ」
「ふむ、それもそうじゃな」
あいつらの話である、きっと聞いてて気分が良くないモノも含まれているだろう、ならばフレデリックが言うことが最もだと気持ちを切り替え運ばれてくる食事を楽しみに待つのであった……。




