3608手間
急にやって来たクリスに、侍女たちが慌ててお茶などの準備をしているのを横目に、クリスはゆったりと応接用のソファーへと腰掛ける。
「わざわざこっちに来るとはどうしたのじゃ?」
「丁度いま、香水の献上品を検分していてね。さすがにそんな匂いの中で試食をするわけにもいかないだろう?」
「ふむ、確かに香水の匂いが充満しておるのならば適さぬであろうが、ワシにはそんな話は一切来ておらんが?」
クリスの言う通り、部屋に香水の匂いが充満しているのであれば、その場で食べ物をというのは遠慮したいというのは分かる。
しかし香水というのならば、なぜワシの所に話は来ておらずクリスの所にだけ話が行っているのか。
「あぁ、今見てたのは男性用の香水なんだ、珍しいだろう?」
「ほう、それは珍しいのぉ」
「ただ香水といっても香りを楽しむものではなく、体を綺麗にするための物に香りを付けた感じだね」
「なるほどのぉ」
衛生用品に香りを付けた物と後付けで香りを付ける為の原液の二種類があったらしく、主にその原液のせいでなかなか濃い香りがクリスの執務室には漂っているので、わざわざこっちに来たらしい。
「ふむ、言われてみれば確かにすっきりとした香りじゃな」
「一応簡単に着替えたんだけれども、流石にセルカの鼻は誤魔化せないか」
「その程度なれば、そう気にするほどではないからの」
クリスはワシの為に直接原液などは触らず香りだけを確認し、さらにこちらに来る前に上着だけであるが着替えてやって来たというが、それでもワシの鼻を誤魔化すことは出来ない。
とはいえクリスの気遣いのお陰か文字通り鼻につくような香りではなく、ほんのり香るすっきりとした柑橘系と薬草を混ぜたような香りで不快感はない。
「セルカがそう言うのならば、献上するには十分な品だね」
「ワシよりも侍女やらに聞いた方が良いのではないかえ?」
「それはすでに済ませてあると報告を受けている」
「それもそうじゃな」
献上品というのはもうそこで完成しているのだ、当然あらゆる試しはすでに終えた後であろう。
もちろんクリスに献上されたという事は十分以上に好評だったようで、早速欲しがっている者も居るようだと話がある程度落ち着いたところで、頃合いを見計らっていたのか給仕の者がクリスの分の魚卵の燻製を持って入室してくるのだった……




