1343手間
ワシがまだ見ぬ兵士たちを憐れんでいると、ドタドタと凄まじく慌てた足音が聞こえ、それはそのままワシらのいる部屋へとけたたましいノックの音と共に飛び込んできた。
「緊急につきご無礼をお許しください!」
汗すらも拭う暇すら惜しかったのか、滝のような汗を振りまきながら、部屋へと飛び込んできた兵士。
彼はワシを見て一瞬こいつだれだと瞠目するが、自分で言っていた緊急という言葉を思い出したのだろう、ハッとして姿勢を正してから、張り上げるような声で要件を述べる。
「巡回任務中、魔物の大群を発見したため、規定に則り報告に戻った次第であります」
「ほう、魔物の大群とな?」
「はっ、その通りであります。ところで、失礼ながら何方様でしょうか」
「ワシかえ? ワシはこの砦の主じゃ」
「はっ! はっ? えっ、指揮官殿は……」
「閣下は戦死なされた」
伝令の者の質問に、ワシが鷹揚に答えれば、彼は反射なのかパリッとした返事の後に、ようやく変なところに気付いたのか、頭に疑問符を浮かべ前の主はと聞いてくる。
それに答えたのは、ワシの前で頭を垂れていたこの砦の幹部連中。
彼らは重苦しく前の指揮官は死んだことを、最大限に飾り立てて言う。
あれを戦いと呼ぶのならば、まぁ、確かに戦死で間違いないだろう。
「では、副次殿が指揮権を引き継ぐのが道理では?」
「この砦は神国の手に落ちたのじゃ。いや、神国の領土に勝手に帝国が砦を建てたから、返してもらったと言う方が正しいの」
「なっ」
「ふむ、そこで銃やら剣を抜かぬのは正しい判断じゃ。とまれ、そんなことよりも魔物の大群なんじゃろ?」
すでに勝負はついた後、今から盤面をひっくり返せる訳も無し、そんなことより緊急事態では無かったのかと促せば、伝令兵はちらちらと幹部連中の方をうかがい何か言いたそうにしている。
「私が代わりに報告を聞いても?」
「んむ。かまわぬ」
「では……。貴様のみが返って来たということは、他の者は通常通りスリーマンセルで遅滞戦闘をおこなっている、ということか?」
「いえ、魔物の規模は視界一杯、遅滞戦闘は不可能と判断し、一番足の速い私が伝令に帰った次第であります」
「視界一杯、だと。それで砦までの距離は」
「凡そ数刻以内には砦から目視可能かと」
「数刻か……。殿下、お聞きになられた通りでございます、兵らを動かす許可を頂ければ、と」
世界の終りを語るかの如くの悲壮な声音で話す者たちが、ワシに水を向けてくる。
「そう悲観的にならずとも、おぬしらご自慢の魔導具で楽勝では無いのかえ」
「確かにそうではありますが、弾薬の備蓄には限界があります。視界一杯の魔物となりますと弾薬が持つかどうか」
「何じゃそんなことかえ。それで最初のおぬしの質問に戻るが、兵は一兵たりとも動かすことは許さぬ」
「も、もちろん殿下に武器を向けることはさせません、そうなれば即座に銃殺させますので、なにとぞ!」
「銃を撃たれたところで、そよ風ほどにも効かぬわ。ゆえにその様な心配をしているのではない、折角じゃからワシの力を見せつけてやろうではないか」
視界一杯の魔物、それがどれ程かは見てみないことにはどれだけの数かは分からない。
しかし、それらをワシ一人で倒せば、どれ程察しの悪い阿呆でも、帝国に勝利は無いのだと気付くだろうと、ワシは椅子から立ち上がり胸を張り高笑いするのだった……




