1342手間
坑道で繋がる、もう一つの砦についてからは、実にスムーズに事が進んだ。
何せそこの指揮官らしき男が丁度外に出ており、ワシが話をするや敢闘精神溢れる勢いで、帝国の者にしては珍しく剣で斬りかかって来たので、返り討ちにしたのが効いたらしい。
もちろんその剣は魔導具だったが、魔晶石よりも濃くマナを張り巡らされたワシの体に、たかだか晶石一個二個程度のマナで傷一つ付く訳もなく。
薄緑の火花越しに見えた、指揮官らしき男の絶望感を漂わせた顔など噴飯ものだった。
そして王太子妃に斬りかかって来たのだ、ワシを斬りたいのであればせめてこの程度のマナを込めねばと、軽く振るった魔手にてなます切りになった指揮官らしき男の姿を見たのも、ここの砦の者たちが大人しく話を聞く要因の一つだろう。
「んむんむ。最小限の犠牲で、最大の結果を得られるのは、お互い実にありがたいことじゃのぉ」
「は、はい」
砦の執務室の一番奥の最高責任者が座るであろう椅子に座りふんぞり返り、この砦の幹部連中を集めこの一帯の帝国軍は神国に下ったのだと突きつける。
こちらの砦の被害と言えば、精々が指揮官だけの犠牲で他の兵士たちは五体満足という、彼らにとって実に喜ばしい結果だというのに何故だろか、彼らは断頭台に頭を乗せているかのように震えている。
「ワシに逆らわず、跪き裏切らぬのであれば、ワシは実に慈悲深く寛容じゃぞ」
「その様なことは決して……」
その態度が気に入らず、右手で頬杖をつきながら子供に諭すように言えば、それでもなお斧が振り下ろされたかのように頭を垂れ声を震わせる。
そこでワシはハタと気が付いた、そう言えば右腕が魔手のままだった、先ほど凡そ人の死に方としては最悪な部類のモノを見せつけられたのだ、なるほど抜身の剣を首に当てられている気分にもなろうというものか。
「ワシとしても童を怖がらせるのは心外じゃからの、これでよかろう」
「あ、ありがとうございます」
魔手を戻せばやはりこれが原因だったのか、彼らはようやく息継ぎが出来たかのようにほっと息を吐く。
「さて。兵が十万にゴーレムが二十万じゃったかな?」
「その通りでございます」
「まぁその程度、ワシにとって物の数ではないがの。先ほど見た通り、おぬしらご自慢の魔導具も、ワシからすれば子供が手にする玩具でしかない。じゃが問題はおぬしらの攻め方じゃ、ここに集中するのは分かっておる、聞きたいのはおぬしらが敵を前にどう攻めるかじゃ」
砲兵ゴーレムの砲撃や、投石機による爆弾投下からの歩兵の進撃であろうことは予想が付くが、それはもしかしたら砦に籠っている場合はかもしれない。
「と言いますと」
「そうじゃな、先鋒が誰かということじゃ。騎兵であろうと何であろうと、先鋒が挫かれれば勢いを失するのが常じゃからの」
「恐らくはゴーレムに合わせての、随伴の歩兵による突撃になるかと……」
「実に常識的で手堅い手じゃな。ふむ、かわいそうじゃが先鋒の兵らには犠牲になってもらおうかの」
尋常ならざる者には尋常ならざる手を使うしかない、如何に手堅く鋭鋒による必死必殺の突撃だろうと、ワシにとっては小指一本で受け止めれるものでしかない。
とはいえ気炎を吐く者たちを黙らせる必要がある、その為には最初に突撃してくる者たちには犠牲になってもらう他ない。
文字通りワシの手で送られるのだ、間違いなく世界樹の御許に逝けることは保証する。
他ならぬ神国の平和のためだ、それだけを慰みに、せめて一撃で苦しまずに送ってやろうと、まだ見ぬ帝国兵らを憐れむのだった……




