1340手間
つつがなくとは言えないが、降伏を選択したことにうるさく言いそうな者が大人しい。
そう思ったのだが、もがもがと何やら口を押さえられているかのような声が聞こえるので、あの白髪交じりの男は兵士たちに取り押さえられているのだろう。
そんなことを不敬を承知で行う兵士がいるあたり慕われているのだろうか、それとも舐められているのだろうか。
どちらにせよ、不慮な事故や名誉の戦死やらで、後ろから撃たれたり切られたりしないだけマシだろう。
「さてと仔細までとは言わぬから、我が国に差し向けられておる兵力を、まずは話してもらおうかのぉ」
「こちらが帝都を出発する以前の情報なので、数か月前のものですが非帝国民の兵士を中心に十万ほど各地より抽出し、さらに二十万のゴーレムを配備する予定でした」
「ふむ。ここから帝都まで数か月ということは、それを加味してもその数じゃと数巡りは先のような気がするの」
「恐らくは、この砦を拡張する予定も組まれていましたので」
どこまで本当かは分からないが、流石に抜き打ち監査に同行する兵士だけあって、なかなか有意義なことを知っているようだ。
それにしても兵士十万はともかく、ゴーレム二十万というのはすさまじい数だ。
それだけの数を用意できるのならば、なるほど確かに今まで帝国が無敗を誇っていなのも頷ける。
以前も聞いたが、それは技術者と言うか営業の者の言葉なので、あの手の輩は勝手に数を増やしたりするので話半分に聞いていたが、兵士が言うのであればなるほどと信じれる。
だからと言ってワシにとっては何ら脅威ではなく、問題はそれだけの数の兵をどう振り分けるかだ。
「それで、その数の兵を何処に置くのじゃ?」
「事前の偵察で進みやすい場所には全て砦があり、魔物の巣が点在しているのもあり、全ての兵をここに集結させるはずです」
「確かにこの先には、進路を塞ぐような砦はないからのぉ」
平原に面した砦は、全て道を塞ぐように建てられている。
しかも彼らは知らないだろうが、どの砦も魔物が頻繁に襲ってくる砦なので、詰めている者たちの士気も高い。
攻める軍からすれば例え兵力で勝っていたとしても、意気軒昂な者ばかりの砦など攻めたくないだろう。
さらに言えばこちらは補給などが容易いが、向こうは補給が滞りやすく更に大軍だ、短期決戦が出来なければ早晩潰れるのが目に見えている。
「ところで、この坑道の先には砦か何かはあるのかの」
「はい。町こそ付随してはいませんが、同規模の砦が築かれています」
「ほう。では今より行って砦を落すとするかの、おぬしら案内せい」
この先にも砦があるのならば、そこを落して帝国軍を迎え撃つのが良いだろう。
ワシとしても狭い坑道に攻撃するよりも、広い場所に攻撃したほうが気分が良い。
ひらりと椅子から飛び降りると、椅子を燃やして未だに赤熱している金属が散らばる場所を悠々と歩く。
時折じゅうじゅうと何かが焼けるような音がしているが、ブーツやましてやワシの身が燃えている訳ではなく、足裏についている土が焼けているだけだ。
「あぁそうじゃ。もし坑道の中でワシをどうこうなどと考えるでないぞ」
一応釘は刺しておこうかと、ワシは融けた金属を左手で拾い上げ、何かすればこうなるのは貴様だとばかりに、ぐしゃりと手の中で潰すのだった……




