1339手間
激昂し今にも爆発しそうな男を抑えたのは、先ほどかの者を羽交い絞めにした兵士たちだった。
ワシと話させてはいかぬと思ったのだろう、白髪交じりの男を宥めつつ下げさせると、他の兵士たちの後ろに隠すように移動させる。
そして代わりに、まるで立ちふさがるかのようにして、未だ赤熱した金属越しにワシと対峙する。
「これ以上、我らが偉大なる皇帝陛下を貶める発言は控えて頂けないか」
「ふむ。童を悪く言うのも、確かに大人げないかったの」
彼らも憤懣遣る方ないと言った様子だが、それでも抑えるだけの頭は持ち合わせているようだった。
「それと重ねて銃と魔導具を仕舞って頂ければ、我々としても安心して話し合いができますので」
「それも道理じゃな、よかろう銃と魔導具は仕舞ってやろう」
そう言って、ワシは魔晶石の銃を狐火で燃やし消すと、代わりに背もたれの長い玉座のように立派な椅子を創り出し、そこへどっかと傲岸な仕草で座り込む。
当たり前だが魔手はそのまま、何せこれは魔導具などではなくワシの腕そのものなのだから。
「何処から椅子が……。いえ、それよりもその右腕の魔導具も」
「はん、これは魔導具などという玩具と一緒にして貰っては困る。これは正真正銘、ワシの右腕そのものよ」
一度右の拳をゆっくりと握り、拳を開きながら腕を軽く振れば、兵士らに暴風が襲い掛かる。
火の粉を含んだ風に、ある者は顔を覆い、ある者は尻餅をつき、ある者は身を低くして耐える。
「さて、おぬしらにも聞かねばの。降伏か死か、どちらでも好きな方を選ぶがよい」
「我々が降伏しようとも、我らの背後には偉大なる皇帝陛下の軍が控えている。それに逆らえば、貴女方に未来などは無い」
「はっ、小童が吼えおる。おぬしらの背後に何千、何万、いや幾億控えておろうとも、ワシには赤子が玩具を並べておるのと同じよ。ワシの手に掛かれば、言葉通りの鎧袖一触にて帝国は滅びるじゃろうな」
「その自信はどこから」
「今までワシが為してきたこと故よ」
マナを喰らうという、万物万象の天敵たる力がある限り、ワシに敗北はあり得ない。
荒唐無稽な話に聞こえるだろう、だが聞こえるからといって、ワシから来る怖気には勝てないと見え、兵士たちは小刻みに体を震わせている。
「ふぅむ。その挺身、見事であるが逃がしはせぬ。おぬしらに許されておるのは降伏か死だけじゃ」
ワシと話す背後で、兵士たちの体躯の影に潜み、白髪交じりの男と幾人かの兵士がジリジリと逃げ出そうと動いていたが、ワシにはその企みの段階からの話し声がばっちりと聞こえていた。
なので彼らの背後に、彼らよりもやや大柄となるゴーレムを数体、剣と盾を持たせて創り出す。
「ワシ一人でも、帝国を滅ぼすは容易じゃがの。見ての通りいくらでもゴーレムを、つまるところ兵力を生み出せる。しかもワシには圧倒的に劣るが、そやつらにも銃や大砲などは効かぬ。ワシが言うとる意味は分かるの?」
果てず疲れず、情けに流されることなく主命を遂行する。それを輸送することも作ることすら必要とせず、いくらでも創り出せる。
流石にそこまで見せられては、ようやく彼らも悟ったのだろう、まるで城でも落ちたかのように頽れ、ワシに降伏すると告げるのだった……




