1336手間
ゆらゆらと人の歩みに合わせて揺れるランタンは、ゆっくりとだがワシを見つけても止まることなく動き、陽の光が差し込み始める辺りでようやく止まる。
いや、止まらざるを得なかったと言うべきだろう、何せそこらにまだ赤熱した金属が散らばっているのだ、そこを進むのは人には厳しかろう。
「何だこれは、晶石が爆発でもしたのか? 小娘、何か知っているか? むっ、そこで死んでるのは巻き込まれた奴か?」
「いやいや。どちらもワシの仕業じゃよ」
こちらに来るなり融けた金属越しに、如何にも偉そうなそろそろロマンスグレーになりかけの男が、高圧的に矢継ぎ早で聞いて来たので、ワシはあっけらかんとした口調で答える。
ワシの口調に一瞬呆けた白髪交じりの男だったが、言葉の意味を理解すると柳眉を寄せ怒鳴り始めた。
「人死にが出るような事故を起こしておいて何だそれは! 誰だこいつに教育したのは!!」
「んんぅ。やはり、帝国の者はおつむが足りん者ばかりのようじゃのぉ。どちらもと言うたであろう、そこに転がっておるのを殺し、扉を破壊したのじゃよ。いや、逆じゃったな、扉を破壊してから、そこのを殺したんじゃった」
「なっ! 何故誰もこいつを処罰しない! どこかのお偉方のお気に入りか!?」
口角泡を飛ばすとはまさにこの事だろう、さっきから喋るたびにじゅうじゅうと水分が蒸発する音が聞こえる。
そして思わずワシに近寄ろうとして、融けた金属の熱さに後じさる姿が実に間抜けだ。
「む? そういえば知ってるものと思っておったが、おぬしらワシのことを知らんのかえ?」
「小娘が何を言っているんだ?」
いやいや、まさかそんなそんな、今にでも侵略しようとする国の王族の顔はともかく、容貌を周知させていない?
末端の者ならばともかく上がそれでは影武者などを掴ませ放題、囮に引っ掛かりまくりではないか。
特にワシは容貌を間違いなくヴェルギリウス王家の中で一番伝えやすい筈だ、何せ九尾の狐にして絶世の美少女だ、この容貌を見間違える者が居れば是非ともお目にかかりたい。
あぁ、だがワシの生涯をもってしても不可能だろう、居るとすれば言葉を解さぬ赤子か、見ることが能わぬ者だけだ。
「それはワシのセリフじゃよ。小童が一体何を言っておるんじゃ? まぁ、よい知らぬならば知らしめるだけよ。遠からんものは音に聞け、近くば寄って目にも見よ、ワシの名はセルカ・フォン・ヴェルギリウス、聖ヴェルギリウス神国の王太子妃その人じゃ!」
「はぁ? 小娘が何を言っている、もしそうだとしても王太子妃なんぞが何故ここに居る」
「なに、我が国を侵す不逞の輩を駆除しに来たのじゃよ、それはおぬしら自身が、よぉく分かっておるのではないかえ?」
「はッ、何をいまさら。そして馬鹿めと言っておこう、一人でのこのこと手柄が私の前にやって来たのだからなぁ!!」
本人は決まったとでも思っているのか、拳銃をワシに突きつけ実にこちらを見下しきったセリフを吐くが、思わずワシは腹を抱えて笑ってしまう。
銃で脅せばどうにかなると思っているのか、帝国のお偉方は頭のお花畑が満開すぎて花が腐っているのではないかと更に笑ってしまう。
なんで自軍の砦のど真ん中で無事なのか、ちらりとでも考えもしないのだろうか。
しかもだ、魔導具と思っていようとも、金属の扉を破壊する手段を持っているのは間違いない、やつ自身もワシが原因かと聞いていたではないか。
まさかここまできて、よもや事故か何かだと思っているのではあるまいな?
そんな考えが表情に出ていたのか、皺が目立ち始めた顔をゆでだこのように赤くして、拳銃を撃とうとでもしたのかマナを込めた瞬間、その男は後ろから数人の兵士たちに羽交い絞めにされ、撃ちだされた弾丸は坑道の天井へと突き刺さるのだった……




