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女神の願いを"片手ま"で  作者: 小原さわやか
女神の願いで…?
1363/3615

1335手間

 一糸乱れぬとまではいかないまでも、坑道の奥から聞こえる比較的揃った足音は、群れとしてある程度は訓練されたことをうかがわせる。

 しかし、その足音はまだワシにしか聞こえていないのか、突然攻撃を止めたワシに兵士たちは、ほっと胸をなでおろすと同時、じっと坑道の奥をねめつけるワシを訝し気に見ている。


「ふむ。先ほど言うたことを実践するのも悪くは無いが……」


 ワシは一人ごちるとそこで言葉を切り、ちらりと既にこと切れた副将軍の亡骸を見やる。

 もしこちらにやって来ている者の中に、これより話の出来る、そして何より約束事をちゃんと覚えれる者がいたら、見敵必殺はまずい。

 副将軍などというご大層な、そして兵士たちがまともだと言う者でこの様だ、期待は出来ないが期待しても良いだろう。

 もし期待外れならば、その鬱憤は期待外れな者で晴らせばいい、向こうからしたら実に理不尽な話だ。

 だがまともに、ちゃんと、そんな者であれば問題無いのだから、もしそうなったらただの自業自得だろう。

 

「さてと、特に将軍とやらが騒がなかったから、誰ぞやが来るわけでは無いと言っておらんかったかえ?」


「ひっ! し、知らなかったんです、本当です! も、もしかかしたら、将軍より立場の低い人なのかもしりぇません!!」


 まだこちらに姿を現すのは少々時間が掛かるかと、坑道の奥をねめつけるのをやめ振りむき兵士の一人に言う。

 すると実に察しの良いことに、坑道の奥から誰か来ると分かったのだろう、ガタガタと体を見て分かるほどに震わせ、盛大に噛みながら兵士がワシに答える。


「そうかえ。ふんっ、最初から知らぬならば知らぬ、そう言えば生き永らえたものを。これだから短命な種は……」


 長く生きられぬ故に、長く生きたいと嘯くくせに、無駄な誇りで生き急ぐ。

 ワシの持論ではあるが誇りとは、時に容易く捨てるべきモノだ、誇りを手放せば笑われるという者が居るが、一時手放した程度で地に堕ちるような誇りなど、所詮その程度、人に笑われるのも当然だろう。

 捨てようと手放そうと、地に落ちたのならばまた拾い上げ、付いた泥を雪げばよい。

 しかしそれも生きてこそだ、誇りに殉じ死ぬは物語としてはワシは好きではあるし否定はしないが、残される側からすれば実に腹立たしい行為だ。

 思わずこれだから短命種はと呟くほどに、その傾向は短命な者に多い、いや、短命な者にしかないと言った方が良い。

 だがそれも仕方がない、誇りについた汚れなどゆっくりと雪ぎ落せばよいと知ってはいても、短命な者にはその時間が無いのだ。

 落ちた時についた取れぬ汚れも傷も、また一つの味だと愛でることを知っていようとも、短命な者にはそこまでの余裕が無いのだ。

 実に悲しく勿体ないことよと、一人感傷に浸っているとようやく兵士らにもワシに聞こえた足音が聞こえ始めたのか、にわかに騒がしくなり始めた。

 

「え、援軍か?」


「この時期にか? 視察にしたってまだ早いだろう」


「だが、この坑道を使うのは帝国の者以外には……」


 先ほど知らないと言っていたのは本当なのだろう、皆が皆味方の到着だというのに戸惑っている。

 それもそうだろう、どう考えてもその味方は、ろくな目にあわないことが分かりきっている。

 何せ機嫌の悪い絶対者の前に、敵として出ることが確定しているのだ。

 しかし何ともおめでたいことに味方が来たことに今の状況が変わるのではとでも思っているのか、戸惑いながらも楽観的な雰囲気を漂わせている。


「しかし、砦の者に先触れもなく人を寄こすとは、本格的な侵攻はまだ先ということかのぉ」


 もしくはこれがその先触れか、何にせよ予定外の者らしいことは確かだ、つまり何らかの情報を携えていることは間違いない、ほくそ笑むワシの顔は亡骸すら見ることなく、坑道の奥に何やら光がちらつき始めるのだった……

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