1076手間
昨日案内された道を辿り、案内された時とは違い道中を照らしていた灯りが消えた中、光量を抑えた光球を従えワシは先を急ぐ。
案内されたのは一度だけの道ではあるが、一度辿れば十分、それに道中に水を運ぶためのパイプが、長いヘビの如く洞窟の隅に這っているので道を見失うことはあり得ない。
ゴウゴウと水が流れる音が段々と大きくなり、空気が一層ひんやりと湿り気を帯びてくる。
遂には小さな滝の傍のような音と水滴が顔にかかるようになると突如洞窟が終わり、左へと一気に滑り台のような傾斜のある水路が現れた。
明らかに地下水が流れる洞窟ではなく、人の手が入ったとしか思えない階段などが綺麗に整備された水路。
右手には巨人の階段のような段々となった滝が流れ落ちており、洞窟で共にあったパイプはそこに伸びており、恐らくは滝の水圧でもって水を街まで運んでいるのだろう。
しかし、風光明媚な滝というよりも、近代的な砂留といった様子であまり感慨が湧かない。
誰がここを作ったかは知らないが、水源として利用するならば無機質な方が管理しやすいのだろうと、今度はさらに地の底へと続く左手を見る。
水路の左手に管理用の通路といった趣の、ドワーフ一人分の幅しかない階段が光量を落した状態では見えぬほど先まで続き、通路の右手をザァザァと大量の水が流れて行く。
深さは暗さと水流の強さによる飛沫で正確なところは分からないが、そう簡単に登れる様な深さではなくかといって潜って登るのも無理だろう。
「ふぅむ、まだ来ておらんようじゃな」
光球を消し水が流れる方を目を眇めて見るが、ちらりと水面に映える灯りも見えず、思わずこぼれた呟きは水の流れに消える。
階段の一番上にでも座って待つかと思ったが、滝が近いせいか足下はパシャリパシャリと水が跳ねるほど濡れており、滝の飛沫で尻尾や服がみるみるうちにしっとりを越えびしゃびしゃに濡れてくる。
流石にそんな場所で待つのは嫌だと思い、少し階段を下り滝の飛沫が飛んでこない場所まで来ると全身を法術で乾かしほっと一息つく。
地下水の冷たさに強いとはいえ、べったりと濡れた服や尻尾の不快感にまで強いわけでは無い。
足下は乾かしてもすぐに濡れるのはもう仕方ない、水路の横を歩くならば避けられるようなもので無し。
しかし、それを考えると、水中を潜ったりしているらしいドワーフたちの消耗ぶりは如何ほどのものか。
まぁ、それはワシには関係の無いこと、とはいえ流石に無策でやって来るなどあり得ないだろうし、どうやってやって来るかちょっと楽しみだ。
「む、来たかのぉ?」
ぴちゃぴちゃと足下で跳ねる水で遊んでいると、下の方の流れに何やらゆらゆらと光るものが見え、じっとそちらを眺める。
ワシが先ほどまで使っていた光球同様に光量は抑えられているが、天然の暗視装置とでも言うべきワシのマナで強化された瞳からは逃れられない。
やがてあえて先の方を照らさないように、足下だけに光を落し階段を登りはじめるのが見えた。
ここからでもワシの雷は届くが、万が一ドノヴァンらの街のドワーフであれば目も当てられない。
それにこの距離からでは流石に誰を生かすか等の判断もまだ出来ない、やはり近付いてからの方が面白いだろうと登る彼らに合わせ、ワシも階段を下りはじめる。
緊張かそれとも寒さからか、流れ落ちる水音の合間に聞こえるドワーフたちの荒い息遣いが聞こえてきたころ、ワシは一度足を止める。
まだ向こうはワシに気付いていないようだが、足下のみを照らしており光をワシに向けてない状態では致し方ないだろう。
ここでゴツンとぶつかるのはお互いつまらないだろうと思い、ワシは足踏みし右足を階段へと打ち付け、カツンと高らかな音を立てる。
「何の音だ?」
「何の音か見てみればよいではないかのぉ」
「見つかったっ! 覆いを取るぞ!」
石が転がった音でも思ったのか、ドワーフの一人が訝しげな声を出し、その声に答えてやれば一気に緊張感を帯びた声を上げる。
とはいえそれもさほど大きな声ではなく、それよりも覆いを取るとの言葉通り、暖炉に新たな薪をくべたかのように一気にこの場に光があふれる。
突然変わった光量にワシが目を細めていると、光の中から先頭に立っていたドワーフが一人、長めのナイフか短めの鉈のような物を腰だめに持ちかけ上がって来る。
「ふむ、目くらましからの突撃とはなかなか考えられておるが、相手が悪かったのぉ」
ワシはふっふっふと小さく笑いながら、突き刺そうと伸ばされた腕を取り、引き寄せながら足を払うとそのままポイと突撃してきたドワーフを水路へと投げ込む。
水路を転がりながら流れ落ちるドワーフの情けない悲鳴を聞きながら、ワシはニヤリと口角を上げ次は誰じゃと挑発するように手招きするのだった……




