1055手間
ドノヴァンの頭越しに落石のような槌による一撃が降ってくるのを、ワシは片手でことも無く受け止める。
そこで漸くドノヴァンが自分の頭の上での出来事に気付き、転がる様にして槌の下から今更逃げてゆく。
「危ないじゃないか長老!」
「ドノヴァン、お前はもうちょっと反応を良くせんとなぁ。そんなことより、お前が言うのだから確かだろうが、やはり自分で確かめてみんことにはな、あいつらも聞くだけよりも見た方が信じやすいだろう」
「だからといって突然やることは無いだろう」
「いやいや、その方が示し合わせたと思われないし良いだろう」
長老はドノヴァンと言い合いながらも、ワシへと振り下ろした槌から力を抜くどころか、逆にギリギリと万力で締め付けるかの如く更に力を込めてくる。
といってもワシからすれば誤差のようなものだが、未だドノヴァンと言い合いながらチラチラとワシを見る長老は、ワシがこゆるぎもしないことに驚きつつも、ニヤリと意地悪く髭を動かしてますます力を掛けてくる。
ギシギシと力が掛かる槌の柄が軋む音と、信じられないモノを見たとざわめくドワーフたちの声に、ワシはふふんと胸を張る。
「さて、そろそろよいかの?」
「何が……? ぬわっ!」
周りの反応は面白いが、流石にいつまでもやっている訳にもいかないだろう。
ワシは長老に声をかけ、次いで手招きするようなそんな手首の動きだけで長老の槌を弾く。
その瞬間、長老はまるで槌を打ち付けた場所で爆発が起こったかのような勢いで、槌が弾き飛ばされ振りかぶったような姿勢になったことに目をこれでもかと丸くする。
かなりの力で槌を弾かれたというのに、それでもなお槌を手放さず、たたらを踏むくらいで済んだのは流石と言うべきだろう。
「うぅむ、地上の民は皆こんなに強いのか?」
「流石にワシは別格じゃよ、おぬしらとさして変わらぬ、はずじゃ」
「ふぅむ、そうか……ま、それよりもだ、赤蜘蛛退治に魔導銃を撃ってもらおうかと思っていたが、槌を持ってもらった方がいいか?」
「いや、どちらも要らぬ、ワシの場合は槌を持つより殴った方が強いであろうし、銃もワシは法術が使えるからのボンと焼いてしまえば良い」
そう言ってワシが手の平に蒼い炎を出せば、長老は困ったとばかりに眉を寄せる。
「あぁ、すまないが洞窟の中で火は止めてくれ、息が出来なくなる」
「ふむ、そうかえ。では、こちらにするかの」
ワシのは魔法ではなく法術、自分の中のマナを使い空気中のマナは使わない。
なのでいくら使おうとも、空気中のマナ不足で息が出来なくなるということは無いのだが……。
そこらへんはいくら言おうとも、万人がマナを見れる訳では無いので、先ほどの力比べの様に見てもらうことは出来ない。
ならばとパンッと柏手を打ち、そこからアコーディオンを弾くように両手を広げ、その間に紫電を幾筋も走らせれば、長老はひそめていた眉を跳ね上げ驚き、それならば大丈夫だと太鼓判を押すのだった……




