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家の入り口で主を待っていたルルルの目の前に突然現れたイサム達、それに驚いた彼女はそのまま尻物をついてしまう。それだけなら良かったのだが、ルルルは咄嗟にイサムの服を掴かんでいた為、一緒に倒れてしまった。
「うう…何…突然…?」
そして自分の胸元に倒れている男性に気がつく。その瞬間にルルルは男性を掴み上空へと放り投げる。
「ぎぃゃぁぁぁ! 男ぉぉ!」
「うぉっ!?」
「ちょっとルルル! 何してるのよ!」
エリュオンに話しかられてハッと我に返るが、投げられたイサムは遥か上空に展開されているロロルーシェの防御魔法にぶつかる。かなりの衝撃でぶつかったイサムだったが、その障壁の防御力を上回る攻撃を与えない限り破壊出来ない為にそのまま落下してくる様だ。
「……ぁぁぁぁあああ!」
ドシンッと音を響かせ落下したイサムは、少し陥没した地面から立ち上がり服の砂を払う。
「ごめんなさいイサム! 突然現れたもんだから驚いちゃって…」
「いや…裏口に出る様に言わなかった俺が悪い……それにしても、ルルルって凄いんだな研究ばかりしてるみたいだから、そんなに強く無いと思ってたよ」
「ピンピンしてる貴方には言われたくないわね。でも障壁壊したら私が怒られる所だったから良かった…」
ほっと溜息をつくルルルの後ろからロロルーシェ達が歩いてくる。それに気が付きルルルは笑顔で振り向く。
「ロロ様! コアの試作品お持ち致しました!」
「よし、イサムとコアの波長を合わせてみるか」
「イサム、両手を前に出して」
次にルルルがイサムの方に向き返り、懐から小さく圧縮した十個のコアを取り出す。それをイサムが差し出した両手の上に乗せた。それを確認してロロルーシェが手をコアの上に乗せながらイサムに説明する。
「ディアナの話を聞いてこのコアを思いついたんだ、イサムの場合は特定の波長が会う者と惹かれあう傾向にあるようだ。だからコアにも特定の波長が会う死体を保存した場合に、反応するようにしておけば今後の旅にも役に立つはずだ」
「そうなのか…それで聞きたかったんだが……」
イサムが死体を保管していると言い出そうとした瞬間に、二つのコアが反応し宙に浮かぶ。ガラス玉のように透き通り先が見通せたコアが突然膨らみ、白い靄が集まり出して完全に中を埋め尽くした。
「ん? イサム、死体を保存していたのか?」
「ああ、今言おうとしてたんだがユキの所で冷凍メメルメーと一緒に沢山の人が居たんで、まとめて保管したんだ」
「そうなのか、人数はどれくらいだ?」
「一応五万人程だな、メメルメーは三十万匹だ」
それを聞いてノルとメルが驚きの声を上げる。
「五万ですか! メメルメー欲しさにそれ程の人が死んでいたなんて……」
「食欲とは良く言ったものですね…美味しい物への探究心に命を掛けれるのですから」
イサムが受け取った十個のコアは体の中へと消える。イサムはコアを開き名前と種族の確認をする。
【クルタナ・ル・デ・ラドナスラ】【シム族】
【サヤ】【ヒューマン族】
「クルタナ・ル・デ・ラドナスラと言う名前のシム族とサヤと言うヒューマンか、サヤって俺が居た世界の名前みたいだな」
「なに!? ラドナスラだと!」
新しくイサムのコアになったシム族の名前を聞いてロロルーシェが驚く、同じく驚いているのはノルだ。
「リア族の女王と同じ名前ですね……」
「ああ、ラドナスラと呼ばせるのは次の世代に女王を譲る時くらいだろう。イサム呼び出してくれないか」
「勿論だ」
イサムはコアをタップしてクルタナを呼び出した。目の前に靄が人の形を成そうとしているのを見ながら、イサムは半歩後ろに下がる。現れたのは白いリア族で、イサムの身長を軽く超えて約二メートル程だろうか。そしてゆっくりと目を開けたクルタナが周囲を見渡す。
「ん? ここはどこじゃ? 確か…ジヴァ山に居た筈じゃが…」
「下だ、白いラドナスラの娘よ」
「その言い方、母を知っている様じゃな?」
「そうだ、仲が良いとは言えないがな」
「ぎぎっ私もじゃ」
上顎から伸びる長い牙を重ねて笑うクルタナは、周囲を更に見渡し肩を落とす。
「やはり私一人か…配下には可哀想な事をしたな…」
「いや、傍に居た仲間なら全員連れて来てるぞ。まだ生きてはいないが」
「誰じゃお前は? それにまだ生きてない? 意味がわからぬ…が、お前には何かを感じる…」
「彼は私の友人のイサム、私の名はロロルーシェだ宜しくな」
その言葉を聞き、クルタナは白く光る複眼全てでロロルーシェを見つめる。
「貴方が悠久の賢者か、お初にお目に掛かる」
胸元に手を置き、クルタナは深々と頭を下げる。そして、イサムに向き直し尋ねた。
「先程配下達を連れて来ていると言っていたが、どう言う意味じゃ? 死体ならば埋葬してやりたいのじゃが…」
「リア族にしては、随分と思いやりのある言葉だな? お前を教育した者が、余程の人格者だったのか?」
「ぎぎっ私に様々事を教えてくれたのは、ヒューマンのサヤと言う女性じゃ。生まれながらに知恵を持つ不思議な子じゃったよ」
「サヤ!? さっきコアになったヒューマンの名前だな。呼び出すから待ってくれ」
直ぐさまイサムはコアをタップしてサヤを呼び出す。そして形成されるサヤの姿を見てイサムとロロルーシェが驚く。
「え! 真兎さん!?」
「これは驚いたな、そっくりじゃ無いか?」
「ああ! 私のサヤ! 無事だったのか!」
「ん……クルタナ様? それにここは…」
歳は十八位だろうか、雪山での防寒着を着用し腰には細身の剣をぶら下げている。キョトンとした顔で周囲を見渡すサヤにクルタナが大きな四本の腕で抱き付く。そしてそのままの状態でクルタナは、涙を流しながらイサムに感謝の言葉を告げる。
「ぎぎぎっイサムと言ったな、本当にありがとう。また私は一人になる所じゃった…」
「やはりお前は他のリア族とは色もそして人を見る心も違う様だな。そしてそのサヤと言う女性も私の知り合いにそっくりだ、詳しく話してくれないか?」
「勿論だとも、何故ジヴァ山からこの場所にいるのかは分からぬが、賢者に偽りなど話しても無意味。それに、何やらその男からは不思議な力を感じる」
「勘が鋭いな、彼がシヴァ山でお前達を救出してここに運んだんだ。まぁメメルメーの捕獲ついでに偶然見つけたらしいがな」
「ああ、冷凍メメルメーを回収してたら見つけたんだ。それと俺の方に手を乗せてるのがジヴァ改めユキだ」
イサムの肩に手を置きじっとクルタナ達を見ているユキに少し後ずさりして身構える。
「こらユキ、怖がらせるなよ。もうコアとして仲間になったんだ、威嚇するなら中に戻っても良いんだぞ?」
『すみません主様……ですがリア族は野蛮で人を食い散らかす種族です。警戒するなと言われても難しいです』
「精霊まで従えているとは…じゃが精霊ユキよ、私は人は食べない。それで母と仲違いをし、食材を求め巣を離れたのじゃ」
「そっそうで御座います精霊様! クルタナ様は人を食用として繁殖させるのに反対し、それ以上の食材を探す旅に出たのです! 至高の食材と呼ばれる獣メメルメーを捕獲出来ればと思い、ジヴァ山へと噂を頼りにやって来たものの……メメルメーの猛攻に多くの仲間が倒れ、私共も穴に落ちて命を全うしたと思っていたのです……」
「なるほど…って、俺の考えと同じじゃないか! 聞いたかよロロルーシェ!」
イサムの考えとサヤの言葉が重なり、イサムは握り拳を作る。
「ああ、驚いたな。今回は難しいだろうと思っていたが、君の強運には恐れ入るよ」
「それで、クルタナはメメルメーを食べたのか? 美味いかどうか確認してから母親に献上したらどうだ?」
「そういえば先程回収して来たと言っていたな、もしや食材があるのか?」
「当たり前だ、丁度腹も減ってきたし試食がてら食べよう」
「結局イサムが食べたいだけじゃない!」
後ろからエリュオンの声が聞こえる。イサムはアイテムボックスから冷凍メメルメーを一体取り出し、ノルとメルに下ごしらえを頼んだ。その間に、真兎にそっくりなサヤの話を聞く事にした。




