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蘇生勇者と悠久の魔法使い  作者: 杏子餡
森の精霊と紅き竜人
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 使用した逃走用のアイテムの効果が過ぎ、上空から必死に敵を探しているニンフからイシュナは気配を消し身を潜めイサムに尋ねる。


「先程お前は此処に居たのかと聞いたな? 二千年後には私は居ないのか?」

《いや、分からない。フレンドリストには表示されていたんだが、通じなかった》

「なるほど、だがお前は竜人では無い。何故フレンド登録しているんだ? それと、竜牙を名前を付けたのは私だ。お前では無い」

《そうだよな…そうなるよな…説明が難しいな…俺は、この世界でもイシュナ達の世界でも無い場所で、イシュナの視覚を通じて一緒に旅をしていたと言えば分かるか…? それも説明おかしいな……》


 上手く説明出来るはずも無く、イシュナは首を傾げる。イサムも当然だろうと頭を掻きながら腕を組み考える。


「…全く意味が分からないが、今の状況を考えるとこの場所…いや、ここは別の世界という事になるな…」

《そうだ、この世界は竜が空を飛び交う世界じゃない》

『それでだ…イシュナよ…そろそろ独り言では無い相手を教えてくれ。我々には見えないし聞こえ無いのだ』


 武器とはいえ意志を持つ刀と剣は、イシュナの独り言に若干心配になって来た様だ。


「そうだったな…名をまだ聞いていなかった」

《俺はイサムだ。宜しくな》

「イサムと言うらしい、私の目を通して別の世界から今迄一緒に旅をして来たと言っている。ちなみに竜人では無く、この場所も我々が居た世界ではないらしい」

『なるほどなるほど、全く意味が分からないね。でもイシュナが見えるなら、何か意味があるのかもよ』

『砕竜もそう思うか? 必要ならその内に分かるだろうよ。それよりもそろそろ奴に気が付かれた様だぞ』


 竜牙がニンフの反応に気が付きイシュナとイサムが上空を見ると、ニンフが恐ろしい形相でイシュナを見下ろしている。


「まだ半日位か、見つけなれば良いものを余程自分のテリトリーに居られるのが嫌らしい」

『じゃぁ次は僕の番だね。逃げるのも面倒くさいから、半日間位なら防御に徹しようかなぁ』

「そうだな……世界が違うなら、出来るだけアイテムも温存したい。砕竜に任せよう」

『オッケー。竜牙は手を出さないでね、また湖が増えちゃうから』

『五月蠅い。さっさと守れ』


 イシュナが背中に背負っている大剣の砕竜は、単純な破壊力なら竜牙を超える。青と金で装飾された鞘からひとりでに抜き出た黒く幅広い刀身は、グリップから切っ先まで真っ直ぐに伸びてその先は鋭くなく平らである。その形状から、相手を斬ると言うよりも叩き潰す事に特化しているが、最も砕竜が得意としているのは防御だ。


『さぁさぁ! かかって来なよ。全部防いであげるから』

『―――――! ――――――! ――!』


 言葉は全く理解できないが、砕竜の挑発により憤怒したらしく何やら詠唱を始めたニンフが大きく両手を上げて振り下ろす。するとイシュナの居る場所へ真っ直ぐに鋭くとがった植物が無数に襲い掛かって来る。


『ニードル系の魔法かな? 森の精霊って言ってたもんね。でも、そんなんじゃダメージは与えられないよ』

「間違って攻撃するなよ。森の精霊なら倒してしまうとこの森を崩壊させる危険性がある」

『了解了解! 新しい世界なんてワクワクして来るね!』

『全く……本当にお前は暢気なものだな…』


 砕竜は会話しながらも軽くニンフの攻撃を柄を軸にして回転すると、いとも簡単に植物の槍は地に落ちる。しかし間髪入れずにニンフは攻撃を続ける、次は葉を竜巻の様に乱舞させて巻き込もうとする魔法だ。


『その程度なのぉ? もっと無いのかなぁ?』

『挑発するな、声は伝わらなくても分かるぞ』

《なんか……砕竜の性格間違えたかなぁ……》

「……性格作成まで知っているのか…」


 イサムが砕竜を作成した時に決めた性格は、【陽気】で【幼い】だ。竜牙とは間逆の性格を付けた為に、ゲーム内でもAI同士で言い合いしていたのを良く覚えている。

そんな思い出に浸りながらもニンフの攻撃は続くが、砕竜の防御の前には手も足も出なかった。そしてそろそろ半日が過ぎようとした時だった。


『はぁ…もう疲れちゃた。攻撃して良い? もうしちゃうよ!』

《まて! もう直ぐ来るはずだ!》

「我慢しろ!」

『半日我慢したんだ! 行くよ!』


 イシュナの制止を無視して攻撃を仕掛ける砕竜は、素早く回転しながら上空にいるニンフの右腕を切断する。


『――――――――!』

《あの馬鹿! 言う事聞かない程に興奮しやがって!》

「ふっ…性格決めたのはお前なんだろ」

『独り言は良いから、さっさと止めろイシュナ!』


 悲鳴の様な声を上げるニンフに、更に追い打ちを掛けようと砕竜は回転の速度を上げて止めを刺そうと近づいた時だった。


『待て砕竜! 強大な何かが近づいて来るぞ!』

『もう遅い! これで終わりだ!』


ギィィィィィィン!


 振り下ろされた砕竜の渾身の一撃は、ニンフに当たるギリギリの距離で一人の女性により防がれる。短い橙色の髪を少しだけ後ろに結び、手首から肘手前までの無骨だが、それほど分厚くも無い手甲を左右重ねる様に合わせ砕竜の攻撃を防いでいた。


《誰だ!? 》

「誰? こいつの事では無いのか?」

『何だこいつ! ひょろひょろで薄いのに斬れない!』

『ひとまず戻れ、砕竜!』


 竜牙に呼ばれた砕竜は、一旦諦めてイシュナの元へ戻る。そこへ現れる銀髪の女性、見た事のないような美しい顔をしたその女性は、金色の装飾が施された紺色のローブを棚引かせながら威風堂々とイシュナの目の前に現れた。

 そしてその後ろには二人の女性達がいる、水色とクリーム色の髪色の女性達は皆美しく何処かしら気品すら感じるが、姿格好は皆バラバラである。


《こちらが本命だ、銀色の髪の女性がロロルーシェだ》

「本当に来たのか、敵意は感じられないが……こいつは強いな」

『ああ、隠してはいるが尋常では無いな。手を出さない方が無難だろう』

『ちぇっ……さっきの女とまだ戦いたい』


 戻ってきた砕竜の柄を握ると、そのまま背中の鞘に収める。銀色の女性からは敵意が感じられない為、イシュナは手を広げこちらも敵意が無い事を示す。


「――――。――――――?」

「どうやら、この女性も言葉が通じないな」

《俺にも聞こえない、何でだろうな……》


 するとロロルーシェは手を前に出し何やら唱えると、様々な文字が目の前に浮かびそれが螺旋状に彼女の体を包む。多くの文字がぐるぐると回り、その文字を一つ一つ確認している。その中でイサムも良く知る言葉【あ】と言う文字も回っているのに気付き、そしてその文字がロロルーシェの目の前で止まる。


《なるほど、言葉を探してたのか》


 ロロルーシェは、止まった【あ】の文字を握りしめると光となり現れた全ての文字も共に消える。


「…これでどうだ? 言葉が通じるか?」

「ああ、確かに通じる。それで敵では無いのだろう? 私はイシュナ、【イシュナ・ドラグリア】だ。教えてくれ、ここは何処だ?」

「敵かどうかは、お前さん次第だ。私の名前はロロ・ルーシェ・ノーツだ。見たところ、私が知る種族とはかけ離れているな」

「私は竜族だ。この世界には居ないのか?」


 種族名を聞き、彼女は驚き大きく目を見開く。そしてその後ろに待機している三人の女性も驚きを隠せない。


「竜族はこの世界に居ない。竜と言う存在が居ないからな、異世界から来たとしか考えられないな」

「異世界? この世界とは別の世界と言う訳か…それで、先程の森の精霊はあのままで良いのか?」


 上空を見ると片腕を失ったニンフが体を縮め、苦痛の表情ながらも目はしっかりとイシュナを見下ろしている。それをロロルーシェも気付いているが、まるで馬鹿にしている様な半笑い顔でニンフを見ている。


「ふっ、たまには良いだろう。自分より強い者が居ると理解させないと、むやみに人を傷つける様になるからな。時が過ぎれば回復する存在だ、気にしなくて良い」

「そうか、それで何故この場所に来たんだ? 偶然来たようには見えないが」


 イシュナは気軽に会話をしている様に見せながら、後ろの三人の女性への警戒を忘れていない。そしてその彼女達も、顔には出していないがいつでも攻撃出来るようにお互いの距離を少し開けて様子を伺っている。


「ふむ…どうやら闇ではないらしいな。それと気になるのがその武器だな、自分の意思とは無関係に動いている様に見えたが?」

「良く分かったな。こいつは自らの意思を持ち動いている、後ろの三人が警戒している様だがもし仕掛けて来るなら、先程の比ではない攻撃を与えるだろうな」

「ロロ様……如何しますか?」


 イシュナの明らかな挑発に水色の髪の女性がロロルーシェに尋ねる。クリーム色の髪の女性は既に柄の上に手が触れている。


『良いじゃんイシュナ、もうやっちゃおうよ』

《おい、止めさせろ! ロロルーシェは不老不死だし後ろの三人も相当な強さだ》

「砕竜、止めろ封じるぞ。それと不老不死……」

「何? 何故それを知ってる」


 周囲の空気が少し震えた気がした、そしてロロルーシェと呼ばれる女性の雰囲気も少し変わる。さらに後ろの三人も完全に敵意を露わにしている。

 それに気付いているイシュナは平然とその理由を答える。


「イサムと言う存在が教えてくれている。私達がこの世界へ来た時に現れた様だ、後ろの奴らの事も知ってる様だぞ」

《水色の髪の女性はノル、クリーム色はラル、橙色の女性だけは分からない》

「イサム…聞いた事無いな…」

「そうだろうな、二千年後の世界から来たらしい。それとお前がノルとお前がラルらしいな、それとお前の事は知らないらしい」

「なっ何と失礼な奴。ロロ様、やはり倒して良いですか?」


 イシュナはノルとラルの名前を当てたが、橙色の髪の女性だけ名前を言って貰えない不快感を隠さず拳を握り、それに同調して砕竜も鞘から出ようとしている。


『良いよ! やろう! やろう!』

「止めないか砕竜!」

「お前も寄せ、メリシュ」


 二人とも怒られガッカリとした様子を見ながら、ロロルーシェとイシュナは話を続ける。


「それでそのイサムと言うのが私達が来ることを予期していたのか。不思議な存在だな…」

「ああ、それでこれからどうしようか迷っている所だ。あんた等はどうするんだ?」

「一先ず近くの仮宿に戻るつもりだ、イシュナも良ければ来るか? どうやら敵では無いらしいし、興味がある」

「それは非常に助かる。途方に暮れていた所だ」


 ロロルーシェはそれを聞くと指を鳴らす。すると即座に周囲の視界が変わり、うっそうとした森から綺麗に手入れされた広大な芝生が広がる場所へと移動した。


「移動魔法か……ここは何処だ?」

「ここは浮遊大陸です。あの森の近くに城が見えたと思いますが、その遥か上空にあります」

「人を招く事など無かったからな。付いて来い、家の中で話をしよう」


 ノルと呼ばれた女性が丁寧に説明をしてくれる。周囲を見渡しても何もない殺風景な場所だが、澄んだ空気が心地よい。そのまま歩いて行くロロルーシェと他の二人の後を追う様ににイシュナもノルと共に付いて行った。

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