22.南進する
定食屋は大満足だった。
カウンターとテーブル席が3つの小さな店。シンプルだがセンスある佇まい。メニューは日替わりの定食が二種類。夕方からは居酒屋となり、小皿料理も出す。
「マスター、いいかい?」
「おー!ロッド、ミリアムさん、いらっしゃい。あれ?そちらは…え…まさか勇者様?…ですか?」
「始めまして。ロッドに美味い店があると聞いて連れてきてもらったんだ。今日のお勧めは何かな?」
「あっ、えー…今日は、とうもろこしの炊き込みピラフ、地元根菜のフリットにピリ辛胡麻ソースあえ、メインディッシュはチキンソテーのたっぷり玉ねぎの飴色ソース、こちらのコースがお勧めですね。地元の旬のものをふんだんに使っていますので。」
店主は居住まいを正して丁寧に説明してくれた。
「メインディッシュが鳥なんだな。珍しい。地元の野菜も気になるし…いいね、それをもらおう。」
店主に席に案内され、3人でテーブルについた。
「ジュードは来なくてよかったのか?」
ミリアムさんが言った。
「いつもと勝手が違うから、人混みに出る勇気が湧かないんだってさ。」
「勇者なのに…。」
ミリアムさんが呆れたような、それでいて愛おしそうな口調で言った。多分それだけじゃないだろう。魔物を制御できていない旅は30年で今回が初めてのことだ。それを恐れているんだろう。
「ここは海も遠いし都市化されているから、鳥以外の肉や魚はどうしても他の町からの仕入れに頼るしかない。だからメインディッシュは鳥なんだよ。どちらかというと野菜が売りではあるかな。」
厨房に入った店主に変わり、ロッドが教えてくれた。確かに全ての料理に野菜が使われている。
「って事は、野菜は全て地元のものなのか?」
「うん。ウェスティシアは割と土壌の水分が多いからな。」
洞窟の向こうから来ている水脈のおかげだろう。土砂崩れが起こりやすいデメリットはあるが、ちゃんと恩恵は受けているんだな。
店主が料理を運んできた。
甘い玉ねぎの香りが食欲を刺激する。
「しかし、勇者様、意外ですね。こんなに料理に興味をお持ちだとは。」
店主が言った。
「引退したらカフェでもやろうと思っていてね。」
俺の答えに店主は虚をつかれたような顔をした。
「引退…ですか。」
わかってるよ。歴代勇者は役割を終えた後のことは言及されていない。その理由は、国民もみんな薄々はわかっている。
勇者は短命で、全盛期の間に死を迎え、また次の勇者に襷を繋ぐ。もちろんこれは表向きだ。本当のところは体力的に衰え、魔物を制御できなくなったら殺されている。そして次の勇者が作られるってわけだ。
俺たちの場合はどうか?
勇者が魔物を制御するために、何でもないただの牛飼いが偽勇者として共に行動するなんてーのは初めてのことだ。答えはもちろん二人とも殺されるだろう。当たり前だ。国の秘密を知る俺を生かしておくわけがない。
「店を出す時には、あなたのところに修行に来てもいいかい?」
重くて暗い真実を勇者らしい笑顔でごまかす。
「はあ。やるせねえ。」
馬車に戻った俺はため息をついた。
「まあ、今回は嘘で終わらせるつもりはねーんだからそんな顔すんなよ。」
ロッドが言った。ロッドは一流の職人だ。自分の仕事に自信を持っている。頼もしい。
「そうだよな!ありがと!ロッド。元気出た!」
次は南国リゾート、サウティシアだ。




