49話 優しい嘘
久しぶりにお風呂に入ってたら、リンディーがお世話に来た。
「リンディー、「復活」の聖魔法の支払いするよ」
「では、公用金貨1000枚お願いしますね」
「……安いよ!」
「いいのです。大したことないケガなのに慌てて「復活」など唱えた私が悪いのです。お気になさらず」
そう言って私の身体と髪をちょうどいい力加減で洗ってくれるリンディーの水色の髪をつまむと鼻を摘まれた。
「いつまでもいじけてるんじゃいけませんよ?何か話したい事があるなら聞きますよ?」
「…エトレ流剣術が冒険者が魔獣を倒す為の技なら、リトワージュ流剣術は対人専用の人殺しの為の技なんだ。師匠が教えたくなさそうだったの良くわかる。私は戦でたくさんの人を殺した。
師匠の弔いとクロスディアの騎士達を守る為にしてるってその時は思ってたけど、ただの人殺しだよね。私はバカだ」
頬を往復ビンタされて、口の中に血の味が広がる。
「馬鹿なのは、今です!師匠の敵討ちしたのでしょう⁉︎守りたいものも守れたのでしょう⁉︎それを思ってたより弱かったラン先生を倒したくらいでグチグチ言う貴方が馬鹿です!!!ぶっ倒すのが怖いなら私が側に居て何万回でも、【復活】でも【再生】でも唱えてやるから、その弱気の虫を明日の朝までに吹き飛ばしなさい!」
リンディー。ありがとう。
「大好き」
「泡だらけで抱きつくんじゃありません!!!そ、それに、私は女の子が好きです!大好きはお嫁さんになる子に言いなさい!!!」
手荒く扱われて着替えてる時に思い出す。
「明日の11時から空けといて。私のもう1人の騎士を紹介するから」
「……明後日、実力テスト何ですけどね〜。仕方ないか。どんな方ですか?」
「……私の文官で、甘えさせてくれるお兄ちゃん」
「へー。だから、ヨワヨワで甘ったれてるんですね。アレク様」
「……それ言うと消されるから気をつけて。リンディー」
リンディーはドライで私の髪を乾かすと三つ編みしてお父様のベッドに放り込んで、部屋から出て行った。
お父様はグッスリ眠っていて起きないので、私はアスターの部屋に転移した。
アスターはいなかったが私はそのベッドに入って寝た。アスターの匂いがする。
ホッとして眠っていたらアスターが頬を突っついたので起きた。
「今日は大変だったそうですね?ルメリーさんに聞きました。寝るのはいいんですけど、もう少し壁際にずれて下さい」
「ん、帰る」
「……そうですか。明日は10:45に迎えに行くので、割ときちんとした服で待ってて下さい」
「???はい?」
「では帰ってちゃんと寝て下さい」
「ベルリーナってどんな雰囲気の店なの?」
「……貴族のカジュアルな食事処。ですかね。だからちゃんとした服じゃないと恥ずかしいですよ?」
意図したのと違う!庶民でも入れる居酒屋さんを目指してたのに!
私が怒ってると、温めたミルクを持って来てくれた。
「あの場所は貴族の勤める役場の近くですから、そうしないと客さえ来ませんよ?」
「……騎士団の宿舎の近くだとは聞いてたんだけど、他もそうとは知らなかったんです!!!」
膨らませた頬を面白そうに突っついては萎ませるアスター。
「アスター」
「……はい、何でしょう?アレク様」
「……何か以前のアスターと変わった?」
「んー、怒られたんです。アミルに」
あの脳天気なアミルに怒られるアスター???
「なんて言われたの?」
「ウジウジ悩んで鬱陶しい!居ないなら見つけるくらい前向きにしろ!保護者気取りなのに依存してるだけじゃないか!…と。私は貴方を探しながら貴方と同じ道を歩んでいくには足りないことが多いのに気付いたんです。……私は貴方の兄であるより、騎士でありたいと願っています!貴方の騎士であるには強くならなければならない。いざと言う時、守れる私で」
乱暴なノックの音にアスターの声がかき消された。
「イオナでしょう。ご迷惑じゃないなら居て下さい。紹介しますから」
[開けろよ!アスター。いるのわかってんだぞ!]
めちゃくちゃ酔ってる気がするんだけど?
アスターがドアを開けると下からイオナ、ゴルド、ラプナーと折り重なって室内に入って来た。
皆、頬や顔が赤い。
「2次会らぁ〜!!!」
「はい、はい、入れば?アレク様いるからお行儀よくな?」
「「「アレク様⁉︎なんらぁ〜!!!ケイトス様らぁ〜!!!」」」
「……何かツマミ持って来るよ」
「いえ、あるものでいいので大丈夫ですよ。少し手伝ってくれませんか?」
面白そう!
私はアスターの側に行き枝豆を茹でて色止めして皆に出すのをお手伝いしたら、3人はカードゲームを始めた。
ゴルドが持って来たカードでお金を掛けて勝負してるとアスターの冷んやりした声が聞こえた。
「お前ら、放り出すぞ?賭け事はこの部屋ではするなと言ったよな!」
慌てて片付けるゴルド。ラプナーとイオナが床に座って土下座する。
「「ごめんなさい!アスター」」
「わかればいいです。さあ、ソファに座って下さい」
しかし、ラプナーとイオナはそのままローテーブルにお尻を引きづって行き、枝豆と酒に手を伸ばした。
「日曜日は道場忙しいでしょう?そんなに飲んで大丈夫ですか?」
目を見張るような美貌の持ち主、金髪碧眼のイオナが笑って言う。
「日曜日は稼ぎ時だから冒険者は来ないし、騎士学校に行ってる子供達も家庭教師を呼んで朝から晩まで勉強だから、日曜日はどこの道場も帝国では休みなの!ま、お金持ちのケイトス様は違うだろうけどね〜」
「すみません。明後日からリトワージュ流の体術を習いたいんですが、お願い出来ますか?入門金は幾らでしょうか?」
「公用金貨50枚です」
「誰に支払えばいいんですか?」
「「「アスター」」」
「アスター今、支払っておくね」
「はい。お預かりします」
公用金貨100枚の袋の中から50枚数えて取り出すと、ラプナーが買い物の礼を言って床で寝た。
ゴルドがそれを見てソファに掛けていたフォレストベアの敷物をラプナーに掛け、何事もなかったかのように酒を飲む。
「ありがと、な!ケイトス様。バランって奴がいるんだけど、イオナの方が体術は上手いから多分イオナが先生だぜ」
「イオナ先生11日からお願いします!何時に伺ったらいいんですか?」
「そうだねぇ、お昼過ぎから初心者は教えてるから、おいで。体術だけって言うと、エトレ流かい?」
「はい、ヒュージ流を習ってたんですけど、体術を習おうとした時に王都に引っ越してくることになって、お父様が道場を開いたので、エトレ流に転向したのです」
「……なるほど、もう少し早く会ってたらリトワージュ流教えられたのになぁ」
「……すみません、リトワージュ流は私には合わなくて、エトレ流もやっと4級になったばかりです」
「ま、そんなもんだよ!まだ子供なんだし、落ち込むなよ!ホラ、枝豆食え!ケイトス様」
「『ケイトス』と呼び捨てでいいです。兄弟子ですし、遠慮なくどうぞ!」
「よし!ケイトス、体術だけ習いに来る奴も多いからな!わからない事があったらバンバン聞け!何なら明日一日教えてやろうか?」
「いえ、明日は私の店がオープンするので、昼食を取りに行くんです。アスターと」
「「俺たちもいいかな?」」
「すみません、アスターに家庭教師のバイトを頼んだので、その生徒たちと顔合わせなんで、別の席で食べるならいいですよ?もちろん食事代は持ちますけどきちんとした格好で来て下さいね?」
「「わかった!」」
「お先に失礼します。また明日ね!アスター、ラプナーさん、イオナ先生」
「「「良い夢を!」」」
「皆さまも早く休んでください」