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48話 昇格試験

ルメリーさんの目が吊り上がり口元には危険な笑みが浮かんでいた。


「青空市場から始めなさい、…ですって!!!ふざけんじゃない!!!あのクソッタレな制度に淘汰されてる職人たちが多いのも納得できるよ!無くなれ!虹証!!!」


コワ!

アスターは聞かなかったフリで後片付けをしている。


「そうだね、職人さんには寛容になって貰えるといいんですけどね」


「……冒険者にはそうなんだ!ふぅ〜〜ん、へー!許す物か!!!虹証!!!」


もう、話し合い終わったし、帰ろうか。


「では、失礼します!ありがとうございました!」


「ちょっと待ちなさい!ヘキサゴナルに帰る時、一声かけて」


ルメリーさんの言葉にちょっとだけ困っているとアスターが「……まさか」と言った。

察しがいいルメリーさんは私の表情からアスターの懸念を汲んでため息をついた。


「明日の朝、10時に国境警備隊事務局に行って手続きをしましょう。転移魔法使いの越境は無くもないから登録すればお許しが出るけど明日一日は手続きにかかるから明日一日予定を空けなさい!わかった⁉︎」


「ハイ!!!」


その日はアスターの部屋に転移して泊まった。

アスターに転移越境した事を聞かれたからだ。

私はクラスプ男爵領で伝染病が流行っていて患者の為に一刻の猶予も無かった事を順を追って話したら、ようやく納得してくれた。

アスターは明日は用があるから、ルメリーさんの言う事を良く聞いて、登録の手続きをするよう私に言い聞かせて眠った。

私はアスターの隣りでゆっくり眠ったつもりで、夜明け前に起きた。


私の部屋に転移するとすぐにエイリーン兄上が部屋まで呼びに来た。


「早く着替えて、道場に来なさい!今日は昇格試験を行う!」


「……えっと、まだ、エトレ流剣術始めて1週間も経ってないし」


「父上がロベルトの試験のついでに見てくれるそうだ」


ついでならいいか!


「お手数をお掛けしますが、お願い致します!」


騎士服に着替えて1階に降り、道場に続くドアを開けたら、ロベルト達が壁を背にして並んでる。

慌てて木剣を取りその隣に並ぶ。朝稽古をしていた、お父様とエイリーン兄上が試合を止めてこちらに来る。


「ロベルト=ドロント、並びに、アレクシード=クロスディア。前に出なさい!」


「「ハイ!」」


「……では、昇格試験を行う!ロベルトはエイリーンと、アレクシードは私と試合をする!合否は試合の内容による!まずは、ロベルト、エイリーン師範代と勝負せよ!」


「ハイ!エイリーン先生、お願いします!」


「本気でかかって来なさい!」


2人は木剣を構えて向かい合って立ち、お父様が審判になり剣を合わせた。

ロベルトが叫びながらエイリーン兄上に駆け寄り鋭い一閃を振るうとエイリーン兄上は下から上に跳ね除け容赦なく3段突きする。

ロベルトは鳩尾に喰らいそうなのを左手の甲に身体強化を施し、振り落とすと後ろに飛び退って構え直した。

エイリーン兄上がニコリと微笑んで今度は自分から攻撃する。


はっきり言おう!エイリーン兄上とは試合したくない!こんなエグい攻撃ばかり受けたらトラウマになる!


約10分間、その猛攻にロベルトは耐えて見せ、試合終了となった。


次は、私とお父様の試合だ。


お父様は試合が始まると同時に威圧しながらエトレ流剣術「流星」を放って来た。

「流星」は乱れ突きである。

お父様の得意技の一つだ。私は丁寧にひと突きづつ受け流した。

するとお父様はアングリーアントみたいな顔になり私の攻めて来るのを待ってる。

私はエトレ流の「十字斬り」をお父様に放った。上から叩きつけるように縦に斬り下から利き腕を裂くように横に一閃する。

お父様は飛び退って避けた。そこを追撃するとお父様は素直に木剣を交えて不意に私を躱した。


「勝負あり!剣聖の勝ち!」


「……え?」


私は訳が解らなくて審判のエイリーン兄上を見た。


「はみ出してるぞ?片足」


「何ソレ⁉︎」


「……何だ?道場内での規則も知らないのか?アレク。この色の変わってる床から、はみ出したら反則負けだ。よしよし、一つ覚えたな」


不思議には思っていたが、聞かなかった私の負けだ!

ガッカリしてるとロベルト達が興奮して私を囲んだ。


「【流星】をどうやって交わしたんですか⁉︎」


「打ち合って、だけど?」


「……スゲェ!!!アレク様、今度、教えてください!」


「ラン先生から教わるといいよ、まだ、私はエトレ流始めて1週間だからね」


ロベルトがパクリと口を閉じ、私を半眼びらきで睨んでいる。


「……俺、そんな子にボコボコにされたのかよ」


「仕方ないよ。エトレ流はヒュージ流とリトワージュ流から派生した流派だから、どっちも剣術だけは師範代の私が勝てないと私が恥ずかしいよ」


「「……スゲェ……」」


コリンズとロベルトにキラキラお目々で見つめられて恥ずかしくなった。

リンディーはニコニコ笑っている。


「エトレ流には体術は無いからなぁ。私もヒュージ流剣聖のカーメル殿に教えて頂こうか……」


お父様が後ろにいた。


「私はリトワージュ流に習いに行きます!」


「そうか。では、昇格試験の結果を発表する!」


「「はい!」」


「ロベルト=ドロント、1段昇格おめでとう!」


「ありがとうございます!」


私の番だ。

お父様は私の頭を撫でるとこう言った。


「アレク、4級おめでとう。昇格試験は1週間に一度あるから、どんどん挑戦しなさい」


「4級って下からいくつ?」


お父様は微笑んでごまかした。

ロベルトに聞くと1番下が8級で、4級は初めて試験を受ける小さい子でも上手い子が飛び級できるギリギリの昇格だと言う。


「後は同じ門下生の兄弟子に勝って下剋上するか、1週間ごとの昇格試験で地道に昇格するか、しかないよ。アレク様落ち込むなよ?」


「……なかなか、先は長そうですね。頑張ります!ロベルト昇格おめでとう!」


その日は朝から豪華な食事だった。

夜中にたくさん食べた私はいつも通りにしか食べられなかったけども食べ盛りの男の子たちはビックリするぐらい食べてヨランを大笑いさせていた。

朝食の後はお父様を連れて馬を予約に行った。


ルメリーさんに教えてもらった牧場まで辻馬車で移動すること30分。

たくさんの馬が馬房にいた。馬の世話をしていた帝国人の青年がこちらに駆け寄ってきた。


「ようこそ!アバントス牧場へ。貸し馬ですか?お求めですか?」


「公用金貨100枚くらいの馬が欲しいんですが予約して屋敷が出来た1週間後に取りに来たいって、言うのはダメですか?」


「1週間の世話代がかかるので1週間後に改めて来ていただきたいです。…実は、予約した馬を買って行く高位の貴族の嫌がらせがあるので、今は預かりはしてないのです。ごめんね、君」


「……いえ、正直に話して下さりありがとうございます!また、来ます!」


10時まで時間があるので馬房の馬を一通り見たらお父様は買う馬を決めたようだ。

待っていた辻馬車にお父様を乗せてお小遣いに公用金貨1枚分の銀貨を渡してお別れした。


9:30だが、遅いより早くてもいいだろうと思い、カルトラの冒険者ギルドに転移したらヨレヨレのルメリーさんが抱きついて来た。


「ケイトスくん、お腹すいて倒れそう…」


冒険者ギルドの向かいのカフェで軽食を頼んで2人分ルメリーさんに食べてもらったら、やや復活した。


国境警備隊事務局には徒歩で行き、そこで行列に並び、1時間待って事務局に入れたが転移魔法使いで、銀冠山脈越え出来ると記入したら、個室に連れて行かれて前回はどのようにして何が目的でそんな事をしたのか、取り調べされる事になった。

大変しんどかったが、何とかアスコット男爵を連れて行ったのは言わずに済んでホッとした。

越境するのに必要な税金1人公用金貨1枚を支払う羽目になったが大人しく渡したので罰金は不問にしてくれた。

きっとルメリーさんが隣りでずっと微笑んでいてくれたからだろう。

国境警備隊事務局の職員さんは私の右手の人差し指に赤い石の付いた指輪をはめた。


「貴方は帝国内でどこにいるかを常時把握されます。

指輪の反応がない場合は国外にいるとカウントされ越境税がかかるので、指輪は外さないようにお願いします」


ルメリーさんが何故か私の足を思い切り踏む。

痛いよ!ルメリーさん。


「……まあ。まるで犯罪者みたいですわね?」


「別につけられて死ぬ訳じゃ無いしいいよ。ルメリーさん」


怒ってくれてるのだ、私の為に。

…でも、踵の高い靴で足踏むの痛いからやめて下さい。


「……ですが、規則ですので申し訳ありませんが付けていてください。竜使いにも同様の腕輪が付けられています。冒険者には更に腕輪をはめていただきたいのですが、いかがでしょうか?」


「……うん!それはダメ!素材をどこでどんな風に採ってるかバレちゃうから」


「申し訳ありませんが、ギルドタグを見せていただけませんか?」


「イ・ヤ!!!だって何されるか分からないからね!ここに来て半日も事情聴取された上に、説明されずに指輪はめられるし、私はいつまで我慢させられればいいのですか⁈」


職員さんは引き下がった。


「分かりました。では、冒険者ギルドの方から、何日の何時ごろに素材の持ち込みがあったかを1カ月に1度提出してください。森林や樹海に入った場合、国外に出たのと同じ反応を指輪が示す場合がありますので、詳細な報告が必要です。どうか、冒険者ギルドでもご協力お願いします」


「……へぇ?そこまで疑ってかかるわけ⁉︎まだ、こんなに小さいのに、そんなに管理しなきゃいけないの!!!ふざけんなよ!!!」


「あのですね!それなら、腕輪をはめていただきますね!規則ですので!」


「……それは困るからルメリーさん、面倒くさいけど、書類を提出してください。別にどんな物獲ったとかはいいんですよね?」


「そこまでは望んでません」


お冠のルメリーさんに優しく声をかける。


「ルメリーさん、お願いします!書類書くのに、それなりのお金払いますから」


「…わかったわ。君が納得したなら、いいわ。私が怒っても仕方ないし」


「では、ヘキサゴナルへは、里帰りと商売の仕入れの為ということですが輸入税として、大金貨5枚いただきます。なお、武器、毒などの輸出、輸入に関わった場合には、全財産没収の上、氷山奴隷として、1年間働いていただきます。ご自分の武器はご登録お願いします」


「はい、分かりました」


部屋の床に魔法陣が浮かび上がり部屋の中を青い光で充した。


「な⁉︎誓言契約!!!貴方達黙ってあれこれするのもいい加減にしてよ!」


「誓言を破らなければいいだけです。武器の登録はお早めにお願いします。それから出国する際はこちらに来て越境税を先払いしていただければ幸いです」


「……もう来たくないんですけど?」


「武器は今持ってますか?」


「……ええ、一応ね」


2本の剣をテーブルの上に置くと職員が書類を書いて終了。

ルメリーさんに、預金口座から越境税と輸入税の引き落としの書類を渡された。

ルメリーさんはその場で書き込んで署名して捺印。

私達は冒険者ギルドに行き、バラム様とお話と言う憂さ晴らし大会をして勢いで冒険者ギルドの酒場で爆食。

ルメリーさんに奢ってから、家に転移した。

お腹がいっぱいなので、ちょっとだけ動こうと思って騎士服に着替えて道場へ。

夜の道場は子供たちでいっぱいであのお父様が困っている。

エイリーン兄上は子供たちのやる気を上手に引き出し基礎をしっかり教えている。

道場の隅で困っているお父様。

私が道場に入って行くと私の手を引いて道場の端で模擬戦。狭い所はマルカン公爵の騎士団が押し寄せて来たあの日を思い出すから苦手だ。


壁際に追い詰められて反射的にお父様に手加減無しに反撃。気がついたら、お父様は頭から血を流して床に丸まっていた。


「……あ、あぁあああああああっ!!!」


「大丈夫!大丈夫だから、落ち着け!アレク!大丈夫、死んでない!生きてる!今、リンディーをロベルトが呼びに行ってるから、大丈夫だ。すぐ治る」


エイリーン兄上の腕の中で私はただ震えていた。

リンディーが部屋着のまま駆けて来て、直ぐに「復活」を唱えた。

お父様の目が開かれ私を見る。


「……アレク、すまない。負けてしまったな。でも、リトワージュ流剣術は反則だ。明日の朝は早く起きて道場の拭き掃除をしなさい」


「お、お父様、ごめん、なさい。戦の事、思い、出して、こ、殺すところだった!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


お父様はリンディーとロベルトに助け起こされて額から垂れてる血をハンカチで拭くとエイリーン兄上に抱っこされた私をヒザに乗せて私を抱きしめた。


「大丈夫、私は生きてる。心配するな。ちょっとだけ早いけど今日は休ませてもらう。アレクも一緒に寝よう」


「……ぁい!」


怖かった!怖かった!お父様を殺すところだった!

ボコボコにされてもいい。お父様とエイリーン兄上には本気で戦わない!

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