47話 商会設立
アスターはリトワージュ流剣術の門下生たちを道場に戻し、私はエイリーン兄上と下町の家に戻してエイリーン兄上の冒険者として活動する時の服をお父様とエイリーン兄上の部屋に置き、カルトラの冒険者ギルドへと22時ギリギリに転移した。
アスターも転移して来たので窓口でルメリーさんを呼び出したら、ルメリーさんは応接室の方から走って来て私の手を引いて応接室へと入った。
アスターも当然付いて来た。
応接室のドアに鍵をかけると、ルメリーさんは身体を2つに折って謝罪をし始めた。
「ごめんなさい!ケイトスくん!!!まさか、貴方が街で噂のヘキサゴナルの辺境伯の息子さんだったなんて!失礼致しました!!!」
「……今⁉︎いや、いいよ!私はレディに紳士としてあるまじき事をしたし、お互い水に流しましょう!」
アスターは私のやらかした事をすでに知ってるようで笑顔でやり取りを見てるだけだった。
「お2人とも座りましょう」
アスターに言われるまま座ったらルメリーさんが話し始めた。
「まず、ケイトスくんの宮廷騎士学校の件ですが、問題無いそうです!」
アスターと私は顔を見合わせて喜んだ。
ルメリーさんは話を続ける。
「ケイトスくんが幼稚舎を卒業するまで好きにしていいとの事です。お父様にはお伝えしてあります。書類もきちんと渡してます。学校を休んでたケイトスくんには会えなかったんで、順番が後先になりました。
どうせ、明後日開店のベルリーナでも観に行ったのだと思ってたけど!違ったようですが?」
そっか、明後日開店なんだ!居酒屋カフェ。
「ごめんなさい!兄上とアスター達にローザ工房で服を仕立てるのに採寸して貰ってました」
ルメリーさんはそれを聞いて微笑んでテーブルの端に寄せていた書類の束を私の前にペンとインク壺を添えて置いた。
「話が後先になりましたけども、お父様とも相談してケイトスくんの商会を作ることにしました!」
「……お話が大きくなってるんですが?どうしてですか?」
「あのね、商会を作って無いと商業ギルドに純粋な売り上げの半分を支払うことになるのよ!商会を設立したら、純粋な売り上げの1割で良くなるの」
「わかりました!進めてください!」
「ありがとうございます。それには公用金貨1000枚以上を商業ギルドの口座に入金することと、会社のお金、資本金っていうんだけど、これは既に契約してもらった分のお金とそれに公用金貨10億枚出来れば足したい!どうですか?ケイトスくん」
今公用金貨15億枚渡してるんだっけ?…問題無いな。
「それもいいです!」
「ありがとうございます!では、こちらの書類を読んで説明と相違無ければサインしてください!」
アスターと私で二重に確認してサインする。
「では次の書類です。何か損失が出たときに必要な、一緒に借金を返してくれる連帯保証人には、私のアジャスト使用人派遣商会と、アスターさんのクロスディア商会とバラム様のイルズフィールド商会がなりますのでこれにもサインしてください」
「ありがとうございます!ルメリーさん、アスター」
「「どういたしまして!」」
2枚の書類のサインが終わると帝国語、帝国古典語、ヘキサゴナル語で書かれた、短い単語がビッシリ書かれている紙を渡された。
「商会の名前の候補よ。いいと思うのがあったら、ってもう決まってるの!!!」
グリエルダル。
師匠の名前を付けたい。
アスターが苦笑して進言した。
「その名前の武器屋さんが帝国内にも少数とヘキサゴナルにはどんな店にも付いている名前ですから、捩って【リダル商会】ではいかがでしょうか?」
リダル。帝国古典語で「極める」を意味する。
「……それにする!」
「では、サインの上の余白に【リダル商会】と書いてくれる?」
1枚目と2枚目の契約書に商会の名前を書いたら、淡く契約書が発光して契約がなされたのを知らせる。
他の書類は店の見取り図だった。
「それを見ててちょうだい!お夜食持って来るから!」
「私もお手伝いします」
「お願いします!」
2人が出て行ったので、ゆっくりとそれぞれの店の見取り図を見ると本当にベルリーナは簡単な作りの居酒屋カフェだ。トイレが4つと広い厨房とそれの10倍はあるホール。
1人で食事をする客のカウンター席もある。
「……この赤い斜線の区画は何だろう?」
ホールの中にあるのが気になる。
紐で綴じてある2枚目を見ると赤い斜線の区画は「座敷席」と書いてあった。
説明するところによると、高床式の床にクッションを敷いて直接座って低いテーブルで食べる席で靴は脱いで上がるらしい!
…なんか、いろいろショックを受けそうな席だと思う。
舞台の上で座って飲み食いするなんて晒し者じゃないかなあと思う!
追記に、「ここでなら酔っても椅子から落ちないからいい」
大丈夫かな?そんな席を店の3割も取って。
それに客数が150人収容出来るって書いてる!
「私が頼んだのの3倍だよね!」
土地が広いのかな?
馬車止めとか作らなかったのかな?
謎だった。
明日行って見よう!
総合商業施設はちゃんと馬車止めが広く取ってある。
動物ふれあい広場は屋根がある馬場にそれぞれの動物の柵があるだけだったが、デカいので建築費が高い!!!
これだけで、公用金貨2億枚もする!
馬房と動物係の人の宿舎兼事務所がよく見たらついていた。宿舎兼事務所は、魔法建築士が建てるようだ。
付属の綴じた書類を見た。
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○動物ふれあい広場購入予定動物詳細○
☆種類→数/購入価格
☆馬→30頭/公用金貨3000枚
☆乳牛→10頭/公用金貨85枚
☆ウサギ→20羽/銀貨6枚
☆リス→10匹/公用金貨1枚
☆オウム→2羽/大金貨2枚
☆モモンガ→10匹/公用金貨1枚
【合計*公用金貨3087枚/大金貨2枚/銀貨6枚】
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「考えたより安かったね」
次の書類を読む。
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☆☆☆☆☆手作り体験工房☆☆☆☆☆
○焼き菓子を焼こう/1時間/10名/各大銅貨3枚
○バターを作ろう!/30分/20名/各小銅貨5枚
○ジャムを作ろう!/30分/10名/各大銅貨3枚
以上3つを予定してます。お子様がメインの体験工房なのであまり難しいを作っても疲れるだろうという菓子職人の意見を参考にしました。
なお、体験工房はバイキングレストランと同じ建物の中にあるので建築費などは、バイキングレストランの方をご覧になって下さい。
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「……バターってそんなに簡単に出来る物なんだ。へぇ!」
言いつつ次の書類を捲る。
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○食彩館(バイキングレストラン食彩館・手作り体験工房)の見取り図及び建築費などの諸費用○
建築費/魔法建築士代/公用金貨1000枚
/内外装費代/公用金貨750枚
/厨房魔道具費/公用金貨1億枚
/家具・備品代/公用金貨5500枚
【合計*公用金貨1億7250枚】
客席数/バイキングレストラン食彩館/500席
/手作り体験工房/30席
馬車止め/最大100台
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うわぁ!これ、絶対失敗出来ないの、だ!
500席とか広〜い馬車止めとかどうするの⁉︎
アスターとルメリーさんの間ではもう話が出来上がってるわけ?
脳内混乱中。
でも手はしっかり書類を捲り、2枚目の食彩館見取り図へ。
……ナニコレ?
「めっちゃ大きなカウンター?」
客席のテーブルの方が小さく見えた。
厨房からして大きい。
そこに調理魔道具が公用金貨1億枚分詰まっているかと思うとクラリとする。
手作り体験工房の方も、よくわからない作りだった。
まるで1人に1つの台所が与えられているかのようなカウンターが30個も部屋の中にあった。
捲る書類が無くなった。
私は軽く眼を閉じて、眼を休ませていた。
ドアが開いた音が聞こえる。
「……寝てる!」
「今朝からずっと張り切ってたので疲れたのでしょう」
「でも、起こさないと、スープが冷めちゃうから起こす!起きなさーい!食事よ!」
「……ルメリーさん。……ごめんなさい!寝ちゃった!」
はっきりと目が覚めたら恥ずかしくなった。
ルメリーさんは笑ってる。
アスターが心配そうに私を見下ろしている。
「ケイトス様、ご無理をなさっているのではないですか?」
「アスターはイジワルだね!私だって眠くなるよ!子供ですから」
「フフ、ケイトスくんは小さな大人だから、ついつい子供なの忘れちゃう!お夜食食べない?」
「食べます!」
ルメリーさんの誘いに夕飯食べずにいた私とアスターは早速テーブルについて爆喰いするのだった。
私とルメリーさんは、まだ食べているアスターをほっといて商談を進めた。
「あの土地、食彩館と動物ふれあい広場を建てたらいっぱいだよね?他の帝国のお土産の店をたくさん入れた店「ショッピングモールっていうのよ」…そう、そのショッピングモールを建てるのはどこにするのですか?」
ルメリーさんはフフと笑って「交渉中」なんて言うものだから、不安になってきた。
「計画倒れになるんじゃないんですか?」
「それはない!私が交渉しているのは値段なの!足元見られてめちゃくちゃ値を吊り上げられてるのよ!
だから、ちょっとだけ意地悪しちゃって今、交渉相手は売りたくて仕方がないの。ホホホホ」
アスターが意地悪の中身を教えてくれた。
「購入した土地は荒らされた墓地だったけどもどこまで続いてたんでしょうかね?って言っただけです」
「あー、だからあんなにたくさんいたんだ!」
「その情報頂きます!ホホホホ!見てろ!太っちょさん」
ルメリーさんとアスターの半笑いが怖かった!
ショッピングモールに入ってもらうお店は争奪戦になってるらしい。
「噂を撒いてもらったら、実店舗が欲しい工房が我も我もと手を挙げていて、服飾関係はもうお腹いっぱいなの!!!
今、夜間開いてる武器屋さんから声かけているんだけど、昼から開いてる店に声かけてやれば?って冷淡な対応されてどこか1店舗でもいいから、って言ったら、「テレンス武器店」が名乗り出たけど、子供用の武器屋だけじゃねえ、集客が難しくて今、困ってんのよ!あと、アクセサリーが、ねぇ」
「それは私が仕入れて来るよ!一度、里帰りのついでにアクセサリー橙証の露店でガッツリ買って来るから!」
「……それなんだけど、なぁに?あの虹証とか言うクソッタレな制度は!!!」
「「私達もそう思ってます!」」
デルフィ工房の王都進出がそこまで難しくなるとは職人じゃない私達には考えが及ばなかったのだ。
ドラゴンフレーバーも散々、苦労したようで2年かけてやっとロトムが紫証になってやっと、パーティの料理を任される派遣業がやれる事になったという。
しかも、派遣業なんてやる人が居なかったから、赤証からのスタートで苦労してるらしい。
「ま、友達が助けてくれたから、それからは順調に依頼をこなしてるみたいで、ホッとした」
「私が何か助けてあげられればいいんだけど」
ルメリーさんは何故か私の頭を撫でた。
あー!旧マルカン公爵領にショッピングモール建てたら良くない⁉︎
ルメリーさんに言って後悔した。