私だけのクリスマス
「じんぐるべーる、じんぐるべーる。鈴がなる〜」
人里中にそんな音楽が鳴り響いていた。今日はクリスマスイブなのである。
「姉さん、喜んでくれるかな?」
「あぁ、きっと喜んでくれるよ」
私達は妹のためにプレゼントを買って、帰路についている最中だ。
「おかえり!姉さん達!」
家に帰ると、末女の幻が笑顔で出迎えてくれた。
「ただいま幻」
「とりあえず姉さん鼻血拭いて」
寂滅に鼻血を拭かれる。だって、こんな良い笑顔貰ったら鼻血出ますやん。
「ごめんね、仕事が長引いちゃってさ。今からご飯作るから………あれ?」
「ちょっと作ってみたの!」
「おぅ………これは」
テーブルにはたくさんの料理が並べられていた。だが、これは姉として言っておかなければならない。
「こら、幻。一人で火を使っちゃいけないって言ってるでしょ。危ないから」
「まぁまぁ、姉さんは少し過保護すぎるよ。ねぇ、幻。貴方もフランベしてみたいよね?」
「ふらんべ?ああ、ごはん作る時にフライパンから炎出たよ」
「危ないな!?」
「幻は私達のために作ったんだからさ、今回は大目に見ようよ」
「むぅ…わかったよ」
正直、嬉しすぎてまた鼻血出しそうだし。
「ほら早く!ごはん食べようよ!」
幻は私達の腕をぐいぐいと引っ張る。
「いただきます…」
愛しい妹の作ったご飯だ。美味いに………決まってた。
「……美味しい」
「むふー♪それは良かった」
「本当に貴方一人で作ったの?」
「そうだよ、えっへん。ごはんは本に書いてある通りに作れば良いだけだからね」
「なん……だと……?」
「え、何その『嘘だろ』みたいな顔」
本に書いてある通りにいかないのがご飯なんじゃないのか?
「そういえば、サンタさんは来てくれるかなぁ?」
「…来るんじゃない?」
今思った、幻はサンタクロースを信じているのか、と。
尋ねてみる。
「幻はサンタさんを見たことがあるの?」
「ないよ!でも、サンタさんって寝ている間にプレゼントくれるんでしょ?エルドラドが言ってた!」
エルドラドとは幻の知り合いである。
「そうなんだ」
この様子だと、バリバリに信じてそうだ。
「幻はサンタさんから欲しいものあるの?」
「エルドラド!!」
冗談抜きで味噌汁吹きそうになった。
「エルドラドは……ん〜……」
実は、エルドラドはかなり遠いところに出掛けている。だから、幻は彼に会いたくてたまらないらしい。
「だってぇ!!何ヶ月も会えてないんだもん!!サンタさんがエルドラド連れてきて、それでずっと一緒に住むの!!」
「あぁ、いや……そのえっと……」
すると寂滅が言った。
「そうだね、サンタさんが連れてきてくれると良いね。そのためにも良い子にしてましょうね〜」
「うん!」
助かった。喜んでる幻に言えないよ……エルドラドはもう………
「サンタさんが来てくれるように早く寝なくちゃ!おやすみなさい!」
ドタドタと、自室に向かう幻。その後ろ姿を見ながら
「やっぱり、まだ幼いね……」
今はまだ戌の刻、子の刻になったらプレゼントを置きにいこうかな。
………ご飯がマジで美味い。手が止まらない。
〈寂滅、静かにね。静かに行くよ〉
〈分かってるよ、姉さんの方がうるさいよ〉
静かに忍足で、幻の部屋に突入する。熟睡しているようだ、ちょっとやそっとの物音では起きないだろう。
〈そーっと…そーっと……〉
幻のベッドにプレゼントを置く、任務完了。
〈よし、そーっと音を立てずに出るぞ……〉
〈いちいち喋らないとだめなの?〉
振り返ろうとしたその時だった。
「……見つけた」
ぐいっと、裾を引っ張られた。
「捕まえた、私だけのサンタさん」
その言葉で私達は察した。
「……わかってたの」
「うん」
「ずっと起きてたの?」
「うん」
「……良い子にしててって、お姉ちゃん達言ったはずだけど」
そうして、幻の頭を撫でる。
「メリークリスマス…幻」
「…うん」
すると、幻はとびっきりの笑顔で…
「メリークリスマス!お姉ちゃん!!」
「グハッ!!!」
胸が射抜かれた!!尊い何かに射抜かれた!!!
「あらら、姉さん力尽きちゃった」
「報酬金どれだけ減った?」
「15000zくらい」
「大丈夫だ、クエスト失敗してない。まだ30000zあるんだぞ!」
そうした茶番をして、私はおやすみと妹に告げるその時だった
「………?」
寂滅が何かに気づいた。
「どうした?」
「外に……何かあるよ?」
言われるがまま外を見る、そこには大きな四角いシルエットがあった。
「なんだろう?」
幻が窓を開けて確認する。そこにあったのは大きなプレゼント箱だった。
「?」
「…………ぁ」
すると、寂滅がくすりと笑い始めた。私にはまだ理解できなくて
「ん?」
「幻、開けてごらん」
「わ、わかった」
幻は大きなリボンを懸命に引っ張る。するり、とリボンが取れたその瞬間……
「……ばぁ」
「うわぁっ!?」
中から巨大な影が飛び出した。影はだんだんと月光で顕になっていく……
「えぁ…えっ!!?」
「んな馬鹿な!!?」
そこにいたのはエルドラドだった。確かにエルドラドだった。金色の鱗を身に纏い、大きな翼を背中に生やし、潰れた左目、胸に埋まった紅い宝石。間違いない、彼だった。目を疑った、何度も目を擦った。
彼は既に死んでいるのに!!!
「おっすおっす、せっかくのクリスマスだから帰ってきたぞ」
「エルドラド…?」
幻がきらきらとその目を輝かせながら私達を見る。
「あっ…えっと…」
私は困ってしまう。どう答えたらいいんだろう。
「えへへ、ほらさっき幻エルドラドが欲しいって言ってたじゃない?だから、持ってきた」
「わーい!!エルドラドー!!!」
幻は嬉しそうにエルドラドに抱きついた。
「なっ、あっ…」
「姉さん、黙ってよう。きっと、エルドラドも幻に会いたかったんだろうし。クリスマスの奇跡ってことにしておこう」
「う、うん…」
じんぐるべーる、じんぐるべーる。鈴がなる〜。
クリスマス当日、世界は幸福に包まれた。
みんなが笑って、喜び合う日がやってきた。
ありがとう、クリスマス。やってきてくれて。
「はい!みなさんご一緒に!」
「「「メリークリスマス!!!」」」




