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大切なこと

 この場にやってきたのは安寧の勇者と彼が操る死骸、そしてギン達四人の魔人だけだった。


 魔王が支配する魔獣はおろか、普通の魔獣一匹もいない。それはギン達がたった四人で魔王の配下を打ち倒し、安寧の勇者にも引けを取らなかったという事だ。 


「こいつら変だ、どうして勝てない!? こっちには勇者が四人もいるのにぃ!?」


 逃げ込んできた安寧の勇者が、ギン達を見ながら喚く。

 神速の勇者、隔絶の勇者、奔放の勇者。勇者の中でも高い戦闘力を誇った彼らは、死体となった今、傷を他の死骸で修復することも出来る。

 そこに安寧の勇者本人まで加わっているというのに、ギン達には太刀打ちできないようだった。


 何故だ、と安寧の勇者が叫ぶ。だが彼には……そして、魔王にも理由が分からないらしい。

 頭の中で、魔王の動揺した声が響いた。


「お前が……育てたからか? 私と一緒にいた頃は、ここまでの脅威じゃなかった。勇者を四人も前にして、圧倒するなど……!」

「ちげぇよ、それだけじゃねぇ。その理由が分からないなら……お前はギン達に勝てないよ」


 慌てふためく魔王と俺の目の前で、テラが勇者達の死骸を丸焼きにした。神速の死骸が如何に速くても、周囲が炎に包まれていれば攻撃は当たる。それに多少傷を癒しても、炎の中ならまた燃やされるだけだ。


 テラを中心に据えて攻撃し、その炎から飛び出してきた死骸をギンとネインとサクが対応する。とても理に敵った戦法だった。


「くそっ、〈絶境〉!」


 安寧の勇者が隔絶の死骸を操り、〈絶境〉でテラの炎を遮断しようとする。だがそれを魔法だと看破したギンは、テラにフレイムハンドルで炎を退けてもらってからサクに生まれかけの境界線を踏ませた。


 同時にサクの能力で黒い線が乱れ、炎を分断することすらなく別の空間だけが隔絶される。

 仲間の能力を上手く活かして戦うコツも、全て俺が教えたものだ。ずっと俺を見てきたギンは、いつの間にか俺も顔負けの指示を出せるようになっていた。


「何故だっ! 何故だっ! 何故だぁぁぁぁぁ!」


 安寧の勇者が、絶叫する。その間もイアの力によって段々と正気を蝕まれており、彼の死体操術も安定性が欠け始めていた。


 完全に冷静さを欠いた彼を見て、誰かがポツリと言う。


「使えない奴だ。まったく、いつまで経ってもお前は使えない」


 その言葉を誰が言ったのか、すぐには理解できなかった。


 しかしゆっくりと頭の中で分析してみると……それは、誰の声よりも聞き覚えのある声。生まれた時からずっと聞き続けてきた……俺の、声だった。


「寵愛などに屈するとは、本当に情けないですね。お前に期待した俺様が馬鹿だったでござる。その体、私が使ってあげるよ」


 奇妙な口調で喋り始めた俺を、ギン達やイアも含めた周囲の人が一斉に気味悪いものを見る目で見てくる。


 やめてやめてその目線やめて。俺は泣きそうになりながらも、事態のヤバさを実感していた。

 声まで出せる程、魔王が俺の体を侵食し始めているということだ。俺に残された時間は、予想以上に少ない。


「その体を代われ、安寧。力は俺にだけあればいい」


 カミルの体で魔王が言い、同時に安寧の勇者と目を合わせた。その途端、彼の体がガクンと床に崩れ落ち、すぐに起き上がる。

 何が起こったかは、すぐに分かった。イアに抵抗力を減らされたことによって、彼は魔王に支配されてしまったのだ。


「死骸の損耗など気にするから出遅れる。楯突くものは、まず消すのが上策だ」


 魔王は隔絶の死骸を操り、テラに向かって〈暴灼龍〉を放つ。その間もテラの攻撃が隔絶の死骸を蝕んでいるが、魔王は気にせずに攻撃を続けさせた。まるで、隔絶の死骸を固定砲台だとでも思っているかのようだ。


 しかし死骸の破損も顧みない攻撃は確かに有効だったようで、テラも避けざるを得ない。攻撃を少し弱めて熱線を避ける。


「今だな。近接戦闘に持ち込めば、何も怖くない」


 そうして攻撃を弱めた隙に、神速の死骸がテラに近づいた。遠距離攻撃特化の相手は、近接型でさっさと沈めるべきだという考えだろう。


 近接技に乏しいテラは、普段から敵に近づかれるだけで無力になっていた。知識に基づいた魔王の選択はどこまでも冷静だ……が。


「残念だったな、魔王。だからお前は、ダメなんだ」

「なんだと……?」


 俺がカミルの口で魔王を馬鹿にし、魔王も同じ口で反応する。


 テラは確かに遠距離特化だったが……それは、昔の事だ。


「――テラスラッシュ!」


 雄たけびと共に、一閃。彼女が透明の剣を横に振るった途端、神速の死骸が塵と消えた。


「サラマンダーとしては火が弱いことが悩みだったけど……こんな武器を使えるなら、人の体も悪くはねぇな」

「なっ、轟雷の武器だと……!?」


 テラが神速の死骸に振るったのは、ウィントが開発していた秘密兵器だった。彼が生きている間には完成が間に合わなかったが、戦士ギルドの部下と一緒に俺が修理していたのだ。


「閃光玉!」


 一気に距離を詰められてしまった奔放の勇者が目くらましの道具を投げるが、発動する前にサクが一刀に伏せる。ここまで近づかれたら、矢が主体の彼は圧倒的に不利だ。


「奔放め……本当に役立たずだな。隔絶の死骸の肥やしにした方がマシだ」


 そう言って、魔王は隔絶の死骸に奔放の死骸を取り込ませ、固定砲台を回復させる。


 生前の二人のコンビネーションを見れば、奔放を役立たずだと感じるなら使い方が下手なだけだ。こいつは本当に、何も分かっていない。


「いい加減気づけよ、魔王」


 猪突猛進だったテラが、ソーレイのように立ち位置を常に意識して戦いを有利に進めている。


 同じく猪突猛進型のサクが、ただ切るだけじゃなく轟雷の勇者に匹敵する攻撃法のレパートリーを見せいている。


 〈風壁〉を使えるネインが率先して前に出て、ギン達への攻撃を上手く防ぐ。それは部下への攻撃を必死に防いでいた、カミルの動きを参考にしたものだ。

 まぁあいつの場合は、肉の盾を減らさないためだったけど。


 そしてギンは俺のように皆へと指示を出し、皆をまとめていた。


「お前の弱さは、自分以外を認めないことだ。支配することでしか、人と関わろうとしないことだ。イアの方がまだ、接し方を多く知ってたぜ?」

「嘘だ、この私が……この私が負けるなどぉ……!」


 安寧の勇者が死んだことで、魔王の支配下にあるのはカミルだけになってしまった。


 とどめとばかりに、傷ついていたギンが自身の技であるセレクティブインフェクションでカミルの体を傷つける。

 セレクティブインフェクションは、自分の傷や状態異常を相手に感染させる技だ。カミル戦以外で常に俺に守られていた彼女は、この技を使う機会がなかったが……その技を使ったのは、今はもう俺がいなくても戦えるということの証明だ。


「もうやめよう、魔王。支配じゃくて、対等な関係を築くべきだったんだ」

「あぁ……あぁ……」


 カミルの口で、魔王が呻く。


 俺は今や目線すら動かせなくなっていたが、魔王が動かした目は、自分が支配して死んでいった勇者達に向けられていた。


「お前の、言う通りなんだろうな……。でも私は、怖いんだ。人と関わって、嫌われないように頑張って……それくらいなら、自分一人の世界に生きていたかった」


 俺も、この世界に来る前は人と違うことを疎まれる事はあった。適性があったのは、俺と魔王が似ていたからなのだろう。


 だが、今なら分かる。人と違う事は、決して悪いことなんかじゃない。それを認め合えることさえ出来れば、きっと……。


「だから」


 だが。負けを認めたと思っていた魔王には、今なお抵抗の意思があった。カミルの体が勝手に動き、剣を横に振るう。


「危ないっ……!」


 それに気づいた俺はギン達に叫び、彼女達はギリギリで後ろに避けた。


 しかし、攻撃を避けられたところで魔王は止まらない。親に反抗して物を投げつける子供のように、彼は見境なく攻撃を仕掛けようとしていた。

 このままでは俺は完全に乗っ取られて、一切ギンを助けられなくなる。それよりは……。


「ギン……」


 この段になっても、俺はカミルの体を動かすことが出来ない。口だけで、ギンに指示をした。


「あとは……この体を壊すだけだ。最後まで油断するなよ、味方は誰も傷つかないように、最善を……尽くせ」

「タケル……」


 俺が死ぬ気だと分かったのか、ギンが泣きそうになりながら俺の名前を呼ぶ。


 もう俺は、ギンの傍にいてやれない。だとしたらこれから仲間を導いてやるのは、きっとギンの仕事になるだろう。

 俺はこれまでの戦いと同じように……そして、伝え残した事を教えるように、指示を与えていった。


「カミルの攻撃は盾だけじゃない。周囲にあるものを動かしてくる可能性もあるから、最後まで油断するな」

「うん」


 ギンが頷いた瞬間、魔王は実際にそうしていたようで近くにあった石がギンに向かって飛んで行った。ネインが慌てて、〈風壁〉でギンを庇う。

 やっぱりまだ、ギンも危なっかしいな。もう少しの間、傍にいてやりたかった。


「そうだ。攻撃する時は、一番気をつけろよ。まぁこれからは、戦う事も少なくなるだろうけどな」

「……うん」


 涙声で答えながら、頷く。


「貨幣制度とは言わないけど、食料は皆で平等にな。住む場所とかでもめることもあるだろうから、皆の意見を聞いて……」

「……」

「あと、俺がいなくなった後も、イアを見放さないでやってくれよ。手紙とかでも話せるし、彼女の能力が効かない人も探してやってくれ」

「うん……うん」


 いくら言っても、言い足りない。


 おかしいな、これまで伝える時間は腐るほどあったのに、どうしてこんなにも時間が足りないと思うんだろう? まだ何か、まだ何か伝え残しているような気がする。


 ……やっぱり、言うしかないか。他の事をどんなに伝えても、こればかりは他の言葉じゃ補えない。

 俺は意を決して、向かってくるギンを見つめた。


「……好きだよ、ギン」


 泣きじゃくる彼女からは、答えが返ってこなかった。


 制御できない首が動いて、視界がガクンと下がる。そして俺は、ギンに噛まれた首から流れた血が、俺の体を真っ赤に染めていくのを見た。


 あぁ。お前も立派に、仲間を守れるようになったんだな――。


 達成感と幸せに浸りながら、俺の意識は次第に、冷たい闇へと沈んでいった。






「起きた! 良かった、タケル!」


 ……のだが、俺はギンの嬉しそうな声で目を覚ました。


 何が起こったのか分からずに呆然としていると、隣から近づいたイアが、気まずそうに言った。


「あんな今生の別れ感を出してたところ申し訳ないんだけど……助かっちゃったみたいだね」


 俺を直視するのが相当辛いのか、イアは全力で目を逸らしている。


 えー、マジ……? あそこから無事なんていう恥ずかしい事ある?

 最後の戦闘から大分時間は経っているようだったが、別に天国に来たとかそういうわけではないようだ。辺りの景色は、相変わらず殺風景な賢者ギルドのままだった。


「俺は一体、どうやって生き残ったんだ……?」

「いやそもそも、ギンは君を殺そうとしてないし。ドレインバイトで、極限まで体の力を奪っただけだよ。まぁ生きるか死ぬかは五分五分、くらいだったらしいけど」

「うん! ごぶごぶで死んでた!」


 危なすぎる事実を、ギンが元気よく叫ぶ。俺が生き返ったことを喜んでくれているのだろうが、尻尾振りながら怖いこと言わないで……。


 話を聞くと、極限まで力を奪わなければ俺の精神が魔王の精神に塗りつぶされるところだったため、生きるか死ぬかのところまで俺のエネルギーを奪い取ったらしい。

 確かに、起きた今でも支配能力が使える程の余力がないのが分かる。というか脚すら動かせねぇ。


「でも魔王が能力使えなくなる程エネルギー吸ったら、消えかかってた俺の方が先に消えちゃうんじゃ……」

「セレクティブインフェクションで、精神だけ活気づけていたようだぞ? 全く、感染の能力を良い方向に使うなど考えもしなかったよ」


 俺の質問に答えたのは、未だ頭の中にいる魔王だった。しかし今は支配能力を使えないため、特に俺が消えるようなことはなかった。


「お前も、生き残ったんだな」

「何で嬉しそうなんだお前は、馬鹿なのか。阿呆なのか」

「だって、勇者と停戦協定するとか言っておきながら、結局三人しか生き残ってくれなかったからな。これ以上死なれたら、ギン達に迷惑だ」

「お前はいつもギンギンギンって……妬ましいわね」


 何故か女の子の口調で、魔王が言う。え、何このフラグ怖い。


 だが魔王が生きててくれて嬉しいのは本当だ。今の関係がどんなに険悪だろうと、生きてさえいてくれたら分かり合える日が来るのかもしれないのだから。


「自分以外の誰かと関わるなんて、怖いのは当たり前だ。俺も前の世界ではそうだったし……この世界に来てからだって、誰かと関わる度に傷つけあった」


 特に俺と魔王は、傷つけた人の数が尋常じゃなく多い。命があるなら、これから少しでも償っていかなければならないだろう。


「でも、その当たり前を乗り越えた先に、関わる意味ってのがあるんだよ。それを、お前にも知ってほしいんだ」

「……。だから、分かったって。この戦いで、さんざん思い知らされたよ……」

「あぁ。怖いからって逃げてちゃ……何も始まらないんだ」


 魔王に人と関わることの意味は、伝えることが出来た。後は、その恐怖を乗り越えていくだけだ。

 都合の良いことに、俺は魔王と一心同体。しかもこれから当分はギンに噛まれまくってずっと動けないだろう。


 腰を据えて話し合って……。そんな勇者会議から始めても、遅いという事はないだろう。


「ねぇ、タケル」


 動けなくなった俺に、ギンが近づいてきた。


 戦いは、まだ終わっていない。ここから、人と魔獣を繋ぐ、本当の戦いが始まっていく。

 もし俺が弱気になっても、大丈夫だ。だって……。


「私もタケルのこと、好きだよ」


 言って、ギンは人間のようにはにかんだ。






 体の中に魔王を宿し、魔獣を統べる人間。


 関わった者の中には良い魔獣もいれば悪い魔獣もいたし、この後に関わった人間にだって良い人や悪い人がいる。

 俺は魔性の者全てを統べる王。これは俺が、魔王と呼ばれるまでの物語である。



「野蛮かわいい魔物っ娘に知恵を授けて無双する」、とうとう完結しました!少しでも皆様に楽しみを提供できたなら、私もとても嬉しいです!せめて勇者十人の設定だけでも格好いいと思えていただけたら本望……。


 正直!しょうじーきなところ!問題点は多かったと思います。

 読者の期待に応えねばという思いが空回りして、致命的な欠点もいくつか生じる始末。欠点をカモフラージュするためにより大きな欠点を生んだりとか、かなりヤバいこともしておりました(当初の予定では、主人公を殺すのはサクの予定でした。これだけで私が如何に苛烈な戦いをしてきたかがお分かりでしょう……)。……いや、ストックが少ない状態で始めてしまったのが全て悪いのですが。

 しかし、それでも、途中で「あ、これ俺の実力じゃ無理な奴だ」と思った勇者十人をなんとか書ききることが出来ました。これは本当に、読者の皆様の応援なくしては出来なかったことです!まさか二人目を倒すまでに24話もかかるとは思わなくて絶望してたのですが、そこから八人、皆様のお陰で見事に書ききれました(ペース配分やべぇ)!

 至らぬところは多かったと思いますが、至らないなりに読者の皆さんへ全力で提供できたのではないかと思います。ここまで読んでくださり、本当にありがとうございました!!!

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