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突入作戦

とうとう最終章突入です!

一話の文字数もどんどん増えてきていますが、残り話数が少ないのでここからは投稿ペースも展開も神速でいっちゃいますよ……!

 イアの襲撃を退けたことで街での生活も落ち着き、俺はとうとう魔獣達を街に入れる作戦を実行に移すことに決めた。


 街の近隣まで魔獣達を近づけ、いつでも攻められる体勢は整えている。あとは街の中にいる俺とギン達が勇者を撹乱し、魔獣を街の中に入れれば全て計画通りだ。


「ギイイイイイッ!」


 俺は伝令役として支配させてもらった魔獣を通じて、めっちゃ高い声でとうとう街に攻め入る合図を出す。相変わらず、魔獣だけは支配するのも支配を解除するのも簡単なのだ。


 合図を受けた魔獣達は元から街の方へと歩いていたが、移動速度を一気に早めて囲うように街へと迫っていった。


「伝令! 伝令! 街の外部から大量の魔獣が押し寄せてきました! 狂戦士以外の各ギルドは緊急で戦闘の準備をし、可能なら勇者様は街の中央に集まってください!」


 それから程なくして、武道家ギルドのメンバーが流石の対応力で戦士ギルドに伝令を伝えてくる。勇者という頼れる戦力が激減している今、最適な配分をするため一か所に集めるのは賢明な判断だろう。

 統率力がウリの騎士団は別の場所に呼ばれたが、カミルとイア以外は街の中心に集まるらしい。


 俺はウィントとカミルの体で伝令に応じ、ウィントの体でギン達と共に戦士ギルドの階段を下りる。すると一階に残っていた戦士ギルドの面々に、驚きの表情を浮かべられた。


「ええっ! で、伝令は確認しましたが、お嬢さん方も連れていくので?」

「うん。ギルドも狙われそうだから、少し安全な場所に連れていくよ」


 余計な詮索はするなという意思を込めておざなりな返事を返し、戦士ギルドのメンバーに命じる。

 女の命優先かよ、とあからさまに嫌な顔を向けられるが、それもギン達の正体がバレていない証拠。不平不満も甘んじて受け入れよう……。


「あと君達は、状況が分かるまでギルド内で待機しておいて。勇者達と情報を交換し合ってから後で連絡を寄越すよ」

「ら、らしくないですぜ轟雷の旦那! 街の外壁では、今まさに人が襲われようとしているんでしょう?」

「他のギルドが部下をどこにやるのかも把握してないんだよ? 四方に散らばれば、魔獣の思うつぼじゃないか」

「そうかもしれませんがっ!」


 やはり、聞き分けてはくれないか。


 ウィントがそうであったように、戦士ギルドには人情家というか、単純な奴が多い。まぁこうなると思って、次善の策は用意してるんだけど。


「じゃあ仕方がない。他のギルドがどう動くか分からない内は分散しても無駄死にするだけだから、君達は南側へ向かってくれ。出来れば情報を共有してから移動するべきなんだけどね……」

「了解しましたっ!」


 戦士ギルドのメンバーは嬉しそうに言うと、自作の装備を持ち出して仲間たちと南方に走っていった。だが実を言えば、俺はこうなることを見越してもともと南方には魔獣を攻め込ませていない。

 最近彼らには世話になっていた事があったので少し心苦しかったが、まぁ一番安全だから許してくれって感じだ。


 相手の心理に漬け込むようなことは昔からしていたけど、良心にまで漬け込めるようになったのはギンが俺にも良心があるのだと気づかせてくれたからだ。皮肉なものだなと笑いながらも、俺は自分の計画が上手くいっていることに達成感を感じていた。


 この調子でやれば、目標の達成は目の前だ。俺はウィントの体で気分よくギルドを出て、目立たないように注意しながら街の中央へと向かう。予め人のいない時間にギルドを出ていたイアとも、外で合流した。

 勇者の話し合いをいつでも撹乱してもらうためにギン達とイアを街の中央一歩手前に待機させ、伝令で伝えられた通りの場所へと出向く。

 

「あれ? 神速一人だけか……?」


 だが。出向いた先には、計画外の光景が待っていた。その集合場所には、神速の勇者以外の勇者が誰一人としていなかったのだ。


 カウボーイハットの青年がいないのはまだ理解できるが、隔絶の勇者がサボるとも考え辛い。

 まだ来ていないだけだろうか、と思索を巡らせるが、それは神速の勇者に遮られた。


「この前は悪かったな下らねぇ話に付き合わせちまって」


 マシンガンのようなスピードで紡がれる、謝罪の言葉。

 彼女らしい喋り方に、俺はある種の安心を覚えたが……。しかし、突然元通りになった事には違和感も覚える。


「魔獣が街の外から攻めてきてるんでしょ? 勇者が集まらないなら、早く散開した方が……」

「そうだなでもそれ以上の脅威がいればその限りじゃねぇ」


 神速の勇者が、俺の言葉を遮って言う。


 まさか、支配能力を持つ俺について言っている……のか?

 不穏な言いぐさに、一瞬肝が冷える。誰が支配されているかを特定するには至っていないはずだが、やはり彼女は危険だと認識を改めた。 


「魔獣以上の脅威って……何だい?」

「例えば街の中に既に魔獣が潜んでいるとか魔王が勇者を乗っ取ってるとかいろいろあんだろそこら辺を見逃せば魔獣への対処が遅れる以上に酷いことになるさ」


 俺の準備が全て見抜かれていて、焦りは余計に加速する。


 彼女はウィントが開発した風魔法で浮く車椅子に乗っており、俺より少し低い位置から見上げながら話を続けた。生まれる時代さえ違えば、ウィントはきっと自信を失うこともなかっただろうに。


「それはもしかして、既に見つけたということなのかい?」

「正確にはまだだけど目星はつけてある少なくとも隔絶と奔放が違うのはほぼ確定だと思って良さそうだ」

「……。それは何で?」

「お前がここに来たからだよ」


 奔放とはカウボーイハットの青年のことだろう。確かにその二人は俺の支配能力を受けていないので、神速の勇者が言っていることは正しい。


 どういう判断なのか尋ねると、彼女は不正確な答えを返してきた。


「実は隔絶と奔放にはここではない同じ地点に行くよう指示させた。だからお前とあの二人が両方支配されていた場合は、指定された場所の食い違いに気づいて近づかないはずだ。これまでの行動パターンからして今回の魔王は慎重派だからな」

「でも……偽物だとバレないためにあえてその罠に乗る可能性もあるだろ? それに、そもそも僕が本物の勇者なら彼らが本物である証拠にはならない」


 心のどこかで彼女の復活を望んでいた俺は、彼女のガバガバすぎる推論にがっかりする。


 それに何より、これまでの行動パターンを参考されるとまるで俺が変われないと言われているようで、ムキになって反論した。しかしその直後、神速の勇者は薄く笑う。


「はっやっぱりお前が魔王だな轟雷はそこまで頭が回らねぇよ」


 そんな曖昧な判断基準で……と思ったが、彼女の確信したような表情を見ると、最初から俺が勇者じゃないと分かっていたことに気づいてしまった。


 彼女はあくまでウィントが支配されていることを前提として、隔絶と奔放がそうでないことを確かめるためだけに罠を仕掛けたのだ。

 そうだった。彼女の強さは、異様に勘が鋭いところにあるのだった。人を見るのが上手い、とも言い換えられるだろう。


「偽物のお前に教えてやるよ。私が神速の勇者と呼ばれるのは、頭の回転が速いからなんだぜ?」


 そう言って、神速の勇者は初めて明確な笑顔を見せる。それは彼女が、勇者として完全に復活した証明のようにも見えた。


「いつから……気づいてたんだ?」

「お前に……轟雷に守られた時点で少し疑ってはいたさあいつは私を守れる程、頼れる男じゃないからな」

「……いや。あいつはちゃんと、お前を守ったよ」


 俺がウィントを弁護すると、神速の勇者がまた薄く笑った。


「お前も分からない奴だよな魔王のくせに私を守るなんて。……。私ももう少し、夢に浸っていたかったよ……」


 遠い目をして、彼女は言う。いつの間にか、彼女の口調は少し前のゆったりしたものになっていた。あるいは、こっちが本当なのかもしれない。


「私には、夢があったんだ。この世界から魔獣がいなくなって、戦いなんか無縁でさ。それで、まぁ、似合わないかもしれないけど恋なんかもするわけだ」

「だから魔獣を早く倒すため、勇者同士の協調を望んでいたのか……」 

「あぁ。夢をいち早く叶えたくて、戦いしかない日常を速く終わらせたくて。私は前しか見ずに、いつのまにか誰にも追いつけない速度で生きていた。生き急ぎすぎたんだな……。それで結局このザマだ」


 彼女は自分の左足に目をやり、自嘲の笑みを浮かべる。

 確かに彼女が生き急いでいなければ、彼女を撃退するにはもっと苦労を要しただろう。下手をすれば、こいつが攻めてきた時点でこちらが全滅していた可能性すらあった。


 これがウィントの言っていた、僕には見えない世界が見えているという事だったのか。彼女は勇者を率いていながら、最も平和を求めていたのだ。


 だがそれは、今の俺の理想とぶつかるものではなかった。むしろ、彼女と殆ど同じ結論に俺が辿り着いたのだと言っても良い。俺は意を決して、彼女に尋ねた。


「なら聞いてくれ、神速。虫のいい話だとは思うが、俺は今、勇者と停戦協定を結ぶことを目的にしている。寵愛の勇者は既に賛同した。お前の理想のためにも……協力してはくれないか?」

「本当に、虫の良い話だな。でもまぁ、私を守ったお前なら、それは本心から言ってるんだろう」


 流石の観察眼で、彼女は俺が本気であることを見抜く。それから、口を開いた。


「でも、聞いてなかったのか? 私は魔獣を倒して平和を取り戻そうとしてるんだぜ?」

「魔獣に人を襲わせないようにすれば、同じことだろ」

「……そうかもな。お前の言う事は間違ってない。でも……無理だ」

「どうしてっ!」


 そこまで分かっていて、何が駄目なのか。俺には全く理解できず、力強く彼女を問い詰める。

 遠くからこちらを観察しているギン達も反応するほど、大きな声が出てしまった。


 ウィントの気持ちが今ならよく分かる。彼女の考えを理解したいという渇望は、やはり俺も彼女に何かを期待している証拠だ。

 しかしその答えは、あっさりと返ってきた。


「結局、間違えられないお前は所詮魔王だってことだよ」

「な、何を言ってるんだよ……」

「正しいとか間違ってるとかじゃない。ただただ、私が嫌だってだけだ。轟雷を支配したお前に、協力したくない」

「は……?」


 意味が分からずに、ただただ呆然と問い返す。だがその一瞬の思考の空白は、彼女が意識して……その神速の思考で生み出したものだった。


 彼女は自分の座っている車椅子へと自分の魔力を大量に注入し、椅子が容量オーバーの突風を吹き出す。それに吹っ飛ばされるように彼女は俺の方へと飛んできて……彼女の腕が、ウィントの胸を刺し貫いた。


「最後に、覚えておけ。私は勇者。武道家代表……神速の勇者、エイナだ」


 敵対する意思を把握した瞬間、彼女を道連れにしようと剣を引き抜いたが……。その前に車椅子とウィントの鎧が爆発し、二人の体は同時に動かなくなる。


 ウィントの体で最後に聞いたのは、俺しか知らない、神速の勇者の思いだった。


「好きだったよ、ウィント。お前に戦いは似合わなかった」




虐殺の勇者 支配

暗躍の勇者 死亡

轟雷の勇者 死亡

神速の勇者 死亡

寵愛の勇者 生存

奔放の勇者 生存

隔絶の勇者 生存


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