兵士ギルド
武器だけでなく、馬車の残骸や細かい道具の類が散乱した部屋。兵士ギルドの中は、どの部屋も騎士団とは比べ物にならないほど散らかっていた。
「君も大変だね。さぁさ、あまり気負わずくつろいじゃって」
「あぁ……」
神速の勇者が逆らえない雰囲気だったこともあり、俺が兵士ギルドに移転するという采配に異論は起こらなかった。
その結果俺は今兵士ギルドまでやってきているのだが、兵士代表である轟雷の勇者が思いのほか優しくて調子が狂う。てっきり他のギルドでは雑な扱いを受けると思っていたので、かなり拍子抜けだ。
「しっかし、君もよくやるよね、魔獣の巣に二回も乗り込むなんて。僕なら最初の一回はともかく、負けた後もう一回挑もうとは思わないから……。こうして近づく機会が出来て、ちょっと嬉しいな」
カミルを遠まわしに責めるような言い草だが、彼の顔は純粋な興味に満ちていた。
未だに彼の人となりが分からないため確信は出来ないが、今のところカミルへの害意は感じ取れない。他の勇者くらい素直に敵意剥き出しだった方が、正直分かりやすかったほどだ。
「それは要するに……馬鹿な真似をするなって忠告か?」
「いやいやいや! むしろ凄いと思ってるんだよ! 僕にはとても真似出来ないからね、どんな気持ちで魔獣と戦っているのか知りたくなっただけなんだ。気を悪くしたなら謝るよ」
俺が探りを入れると、予想だにしない答えが返ってくる。その場しのぎの返事というわけでもなく、本気でそう思っているようだ。
どんな気持ちで魔獣と戦っているか……そりゃ勇者滅ぶべしですが。いまいち勇者らしさに欠ける轟雷の勇者とは、未だに距離感が掴めずにいた。
「僕はまぁ、君も知ってる通り勇者と呼ぶにはいささか足りないところが多いからね。皆の足を引っ張らないよう、変わっていきたいんだよ」
「そ、そうか……」
ギルドに移転していきなりそんな相談されたら、俺が乗り移っていないカミルでも困っただろう。
足りないというのが何のことをいっているのかは分からないが、少なくとも配慮には欠けるようだ。
「僕が魔獣の巣に二回も出向いた理由か……。正直なところ、僕は権力のために戦っているところが大きいんだ。でも、単なる私欲だけじゃないよ? 僕はあまり今の勇者制度に納得していなくてね……」
しかし、俺の話に純粋な興味を持ってくれているのは好都合だ。この際に上手いこと轟雷の勇者だけに偽情報を吹き込めば、また各個撃破のチャンスが生まれる。
俺は意気揚々と語り始め……そして、すぐに口を噤んだ。
「どうしたそのまま話を続けてくれていいんだぜ?」
「いつの間に……」
視線を感じて振り返ると、柱の陰から神速の勇者が俺を覗いていた。ここに案内された時はいなかったため、彼女は俺達に見つからないようそこに立ったのだろう。
とはいえ入り口は俺の前方にしかないため、そんなことが出来るとすれば……やはり彼女は、俺が知覚できない程のスピードで移動できるということになる。
「もう気づかれるとは思わなかったなお前そんなに勘が良かったか?」
「盗み聞きなんて、あまり感心しないな……」
「なんだ聞かれたらまずいことでも喋ってたのかそりゃ悪かったな」
1ミリも謝る気がなさそうに、大きな目を見開いて俺を睨みつける。
人の視線に敏感なのは陰キャの性なので、そこはあまり突っ込まないでほしい……。
「おい轟雷、あまりこいつの言うことに耳を貸すなよ?」
「そうは言うけど、君は君でカミル君をいじめすぎじゃないかい? 僕はカミル君……虐殺がそんなに間違ったことをしたとは思えな」
「うるせぇ馬鹿は黙ってろ」
直球過ぎる悪口に、轟雷の勇者が傷ついたような顔をする。まぁ、確かにここでカミルを庇うのは馬鹿だな。もう擁護しようがないもん俺。
「やっぱり轟雷に任せたのは正解だったなお前は油断をさそうのだけは上手い」
「そんな言い方ないだろぉ?」
「うるせぇ事実だろ状況が見えてないなら喋んな」
何を言っても神速の勇者に否定されるので、とうとう心が折れたのか轟雷の勇者がつつむいた。間髪入れずに、神速の勇者が新たな無茶ぶりを口に出す。
「そんなことよりお前らようやく見つかったぞ」
「は? 見つかったって何が」
「魔獣だよ、お前に倒してもらうためのな」
俺の目を見据えながら、神速の勇者は平然と言った。
どうやら、この世界にも踏み絵の文化があるらしい。勇者を裏切った疑いのせいで、俺は魔獣と戦う羽目になるようだ。
ようやくもう一作が完結したので、これからはもう少しペース早められると思います!しかし七日までは冬休みで宿題や用事が多いので、次回は三日後にできるか……賭けです!




