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騎士代表

 次の日、とうとう大人数の冒険者がダンジョンに侵入してきた。


 いつの間に侵入を許したんだと一瞬慌ててしまうが、まぁ普通に考えれば侵入し放題だよなこのダンジョン。

 これがギンの言っていた「朝起きたら大抵勇者いる現象」か、と妙な納得感すらある。


 ギン達に遅れてダンジョン奥から俺と魔獣達が押し寄せると、先頭にいた騎士の男は嬉しそうに名乗りを上げた。


「フフフ、やはり魔獣どもに味方する人間がいたのか。正気を疑うが、騎士としては名乗らぬわけにもいかないな。僕は騎士代表、虐殺の勇者カミルだ」


 男の言葉に、俺は戦慄を覚える。今、彼は確かに勇者と名乗った。ギン達は人間の言葉が分かっていないため、俺はすぐに大声で伝える。


「目の前にいるこいつは勇者だっ! 騎士代表らしい、みんな気を抜くな!」

「…………!」


 俺の言葉を聞いて、ようやく魔人も魔獣もこの状況のヤバさを理解する。今までも臨戦態勢ではあったが、身への力の入れようが変わった。


 一方カミルの方は、一切の緊張感なくこちらを見つめるままだ。

 確かに連れてきた騎士の数が多い上、彼は素人目にも上物だと分かる純白の鎧を着込んでいる。しかも周囲には白い長盾を四つも浮かべているため、余裕があるのも頷けた。


「へぇ、君の言葉は魔獣に伝わるんだね。まぁそう警戒しないでくれよ。僕はただ、お礼を言いに来ただけなんだから」

「お礼だと……?」


 お礼を言われるようなことをした覚えはないし、彼らの完全武装を見て信じられる話でもない。俺はより警戒心を高めながら、次の言葉を待った。


「あぁ、そうだとも。先日、我がギルドの冒険者一人がこのダンジョンを訪れ行方不明になった。勿論、殺されたのだろうね」

「……!」


 そうだ。二日前にやって来た冒険者は、騎士一人と魔術師一人のパーティだった。それで騎士ギルドの親玉がやって来たということか!


「魔獣如きにギルドのメンバーが殺されたのは我がギルドの恥だ。しかしそれ以上に、報復として大々的に君達を倒せることの方が大きい! 感謝しよう、僕の部下を殺してくれて有り難う!!!」


 悲鳴のように甲高い叫びを聞いて、最初は皮肉を言っているのだと思った。


 しかしいつまでも続く彼の歪な笑みを見ていると、分かってしまった。彼は本当に、部下を殺されて喜んでいる!!!


「騎士たるもの、理由もなく動けはしないからね。税金を資金源にするのも考えものだけど……それも今日まで。ここで君達を討ち滅ぼせば、もう誰も僕には逆らえないっ! 僕の怒りを思い知れ愚民どもぉぉぉぉ!」


 自分の妄想に興奮し、ハァハァと息を荒らげる勇者様。


 思った以上にろくでもねぇよ、勇者。威圧感は最初に会った隔絶の勇者の方が上だが、人間としてはこっちの方がヤバそうだった……。


「突っ込むぞヘタレども! 待ちに待った血祭りだぁぁぁ!」


 カミルの狂ったような号令に部下の騎士達は無言で応じ、勇者ともどもダンジョンの中へと押し寄せてくる。


 俺は気を取り直し、ギン達に小声で指示を伝えた。


「テラはまずヒートブレスで牽制射撃。隙が出来た騎士から優先して、ネインとサクが肉弾戦を仕掛けて! 勇者は状態異常にしたいから、ギンは攻撃を避けながら勇者が隙をさらすのを待て!」


 覚えている技から予めいくつかの戦い方を教えていたので、指示に対する反応は速い。ギン達は魔獣達より速く動き、騎士団に先制攻撃を仕掛けた。


 俺は集団戦闘には慣れていないため上手く指示出来たか不安だったが、連携のとれたギン達の動きに翻弄される騎士達を見る限り、そう的外れな指示でもなかったようだ。


「〈送風〉!」


 俺も前に出て、ギン達の後ろから魔法を放つ。攻撃力こそないが、こちらに攻撃を仕掛けようとする騎士を奥に押しやり上手く陣形をコントロールしていった。


 何体かの魔獣は既にやられてしまったが、統率のとれた動きをしているギン達には未だ殆ど傷がない。対して騎士達は、鎧が意味を為さない熱に疲労させられ、こちらの攻撃もかなり通っていた。


「意外と……大したことない?」

「このままやれば倒せるんじゃねぇか?」


 ギンとテラが、思わずというように呟く。鎧が固すぎて未だに一人も倒せてはいないが、時間をかければこっちが優勢。戦いを見ていて、俺もそう判断していた……が。


「〈範囲回復〉」


 カミルが一言呟いた途端に、周りの騎士達は一瞬で傷を癒していた。流石に鎧は直っていないが、これまでの猛攻は殆ど無駄になってしまったのだ。


「ふん、残念だったね魔獣ども。多少は知恵をつけたようだが、その程度で僕を超えられると思わないことだ」


 そう言うと、カミルが体から魔力を解き放った。同時に、彼を守るだけだった四つの盾が、いきなり周囲の魔獣達に打ち下ろされる。


「押しつぶせ、聖域境!」


 遠くにいても伝わる振動。落ちてきた盾の真下にいた魔獣達は、簡単に圧殺されてしまった。


 圧倒的な火力だ。先ほどまでは剣でチマチマ魔獣を倒していたのに、一瞬で四体もの魔獣を倒しやがった。


 今の光景を見て、俺はようやく彼の本当の武器が剣ではなく、盾だったことに気が付く。どうやら最初は隙を見せて、こっちが無計画に全力を使ってから本気を出す算段だったらしい。


「僕に逆らうからこうなるんだっ……!」


 カミルが満面の笑みで、潰された魔獣を見下ろす。その目に込められているのは深い侮蔑といたぶる快楽。現実世界でも何度も見た表情だった。


「ギンっ!」

「うん、分かってる!」


 攻勢の勇者に勝機を見た俺は、怒りを触発されながらもギンに指示を出した。快い返事が返ってきて、ギンは勇者に向かって飛びつく。


 相手が隙をさらした時に攻撃するという作戦を立てていたのはこちらも同じだ。カミルが守りから攻撃に入ったこの瞬間……それこそがギンの狙っていた絶好の攻撃チャンス!


 カミルの纏っている純白の鎧は、防御力は勿論あるがその分重いようだ。盾も振り下ろした直後で攻撃に使えず、抵抗の手段がないカミルにギンが噛みついた。狙ったのはいつも通り首筋……完全に、通った!


「よしっ、盾が来る前に後退だっ!」


 ギンの攻撃で状態異常にさえすれば、後はじっくり攻めていけばいい。俺は前線に出すぎたギンを呼び戻した……が。


 勇者を倒して誇らしげにこっちへ走る彼女が、カミルの剣で後ろから斬りつけられた。しかもギンの攻撃を受けたにもかかわらず、その力は先ほどから全く衰えていない。


「ギンッ……!」

「いけない、いけないなぁ……」


 焦る俺をよそに、カミルは平然と笑う。状態異常にかかっている様子はなく、それどころか首筋の傷さえなかった。代わりに彼の隣にいた騎士の一人が、攻撃も受けていないのに地面に倒れ伏す。


「まさか……ダメージを仲間に転与できるのか……!?」

「へぇ、勘がいいねぇ。他の勇者にも教えていないのに……まぁ、分かったところでどうしようもないけどね」


 カミルが相変わらずの人を見下す表情を浮かべ、こちらを見つめてくる。確かに勇者にはダメージが通らず部下を攻撃すれば勇者に回復されるのでは、倒しようがない。


 しかし、俺は彼の話を聞いているどころじゃなかった。血を流して倒れるギンだけに焦点が留まり、俺は一歩も動くことが出来なくなっていたのだ……。

戦いが長すぎたので前後編に分けました…!

もうすぐ一章終わりですっ!

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