とある人物の結末
炎の御子と呼ばれ、スフィーダ火山にて魔女との対決を制した女性──フラム・フラゴル。
その結末を、自分は手元にある水晶玉を通して見届けた。
「……まずいな。魔女が御子に取り込まれたとなると……自分に調査の手が及ぶのも、時間の問題か」
この水晶玉は、任意の対象をどのような場所からでも視認出来る優れ物だ。
これを使った自分の腕を誇りに思うと同時に、使いこなせるだけの魔力量を得られる機会を与えて下さったあの方に、申し訳が立たない。
魔女が確実に四人の御子を葬り去っていれば、世界はあのお方のものだったはずなのだ。
それなのに──自分は手駒選びをしくじった。
この国でのポジションを優先するあまり、手を抜きすぎてしまった。
自分の魂は、あのお方に捧げたもののはず。
それならば相応の覚悟をもって、自らの手で彼女を葬り去るべきだったのだ。
例え──人間としての生を捨て去ってでも。
それほど多くはないが、既に荷物は纏めてあった。
炎の御子が大地の神殿から抜け出したあの時点で、自分はあってはならない未来を想像してしまった。
この国を脱出する準備は整った。後は夜の闇に紛れて、あのお方の元へと向かうだけ──
「そこまでだ」
「……っ⁉︎」
背後から掛かった威厳のある、しかし清廉さを感じさせる女性の声。
アイステーシスの城──そのとある一室の窓から抜け出そうとしていた自分を、複数の人物が取り囲んだ。
彼女が連れた小さなコウモリが、目を赤く光らせてこちらを睨み付ける。
「私はクヴァール殿下より調査を賜った、コンセイユ・ソルシエールという者だ」
時既に遅し、だったのか……。
よりにもよって、一流の魔術師を多数輩出してきたこの家の……それも当主に探られていたとあれば、この結果も当然と言えるのかもしれない。
ただでさえ同じ城で働く魔術師団長が化け物じみた魔力を持っているのだから、この人数差では、流石に苦戦を強いられそうだった。
薄紫髪の女当主、コンセイユが連れた者達は皆、こちらに剣先を向けていた。
深夜とはいえ、戦闘ともなれば騒ぎになるのは避けられない。
「貴様を、魔女派の一員として連行する。大人しく同行するのであれば、こちらも危害は加えない。……ここには貴重な書物も多くある。この場所で働いていたそなたとしても、それは避けたいのではあるまいか?」
彼女の言葉に、自分は唇を噛み締めた。
ここでの生活に未練があったのは……間違い無い。
だから今、こうして彼女に追い詰められてしまったのだから。
この部屋全体に、何かしらの強力な結界が張られていくのを感じる。コンセイユの仕業だろう。
頼みの綱である魔法を封じられれば、武器を持たない自分に勝ち目はほぼ無い。
諦めるしか、ないのだろうか。
……いや、それにはまだ早い。
自分以外にも同志は居る。いつか機会はあるはずだ。
「……抵抗しないとは、意外であったな。それではこれより、地下牢まで同行願おうか? 魔女の虜に炎の御子の情報を伝えし罪人──王城書庫管理人、サーブル・シュッドよ」
自分の手に、魔法の発動を封じる手枷が嵌められる。
きっとこのまま、自分は地下牢で尋問を受ける事になるだろう。
けれど、今はそれで良い。
彼女達はまだ、今回の事件について──その裏で何が起こっていたのか、何の情報も得られていないのだから。
あのお方の願いは、必ずや成就するだろう。
その成功の為ならば……自分は喜んで、この命を捧げよう。
「……炎の御子。君がどこまで足掻いてみせるのか、楽しみだよ」
「貴様、一体何を……っ⁉︎」
自分がとある言葉を口にすれば、身体全体が激しい熱を持っていくのを感じられた。
燃えていく。
どんどん、どんどん身体が燃えていく。
これは、魔法ではない。
いざという時に備えて植え付けられた、灼熱の炎に包まれ燃え尽きる為の──口封じの為の呪いだった。
あのお方の物語は、まだ始まってすらいないのだ。
こんなところで終わらせる訳にはいなかい。
何故ならあのお方は、こんな自分を救ってくれた、文字通りの救世主だったのだから。
あのお方の描く未来の為に、自分はこの命を燃やすのだ。
これにて、「炎の治癒術師フラムの奮闘記」第一部は完結です。
今年の頭から約10ヶ月間、応援ありがとうございました。
皆様からの感想、ブックマーク、評価ポイント、アクセス数。
そのどれもが、私の日々の創作活動の励みです。
現在進行系で様々な作品を連載、書き溜め中ですので、そちらにつきましては作者の活動報告などでご確認下さい。
なお本作につきましては、続編となる【第二部】が2019年5月より公開中です。
目次ページの上部の「炎の治癒術師フラムシリーズ」というリンクから、【第二部】をご覧頂けます。
※急遽幕間を追加させて頂いた事、大変申し訳ございませんでした。より分かりやすい形で物語を繋げるべく、頂いたご意見を尊重させて頂きました。
ここまでお付き合い頂いた全ての読者の皆様に、心よりの感謝を。
ありがとうございました!
引き続き【第二部】にて、フラム達の物語をお楽しみ下さい。
追記です。
2021/1/20より、白泉社ジョシィ文庫様より電子書籍の販売がスタート致しました!
本作が記念すべきデビュー作となったのは、皆様からの応援あってこそです。
今後とも、どうぞよろしくお願い致します!
更に追記です。
2023/11/15より、コミカライズの配信がスタートしました!
初回から52ページの大ボリュームです。
詳細やイラストは、活動報告にてご確認下さい。凄い美麗なフラムと殿下とグラースさんが拝めます! ありがたや……!!




