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8.あの夜の誓いを胸に

 鐘の音が響き渡る、スフィーダ王国の王都オングル。

 その王国は、燃え滾るマグマのような、鮮やかな色彩を放つ夕日に染め上げられている。


「いよいよだな、グラース」


 そう言って、口元に笑みをたたえながら私の隣に並び立つのは、騎士団長であるティフォン。

 私と同い年の友人であり、アイステーシスに剣を捧げ、多くの戦場を共にしてきた相棒だと言えるだろう。

 遂にスフィーダ火山へ出発する時間を迎え、我々アイステーシス王国騎士団をはじめとした四大国合同救援部隊には、ピリリとした緊張感が漂っていた。

 そんな最中、こうして何の怯えや恐れも無く笑っていられる彼に、どこか先代騎士団長トネールの面影を感じてしまう。

 魔女の瘴気を抑える為、王家に利用されていたトネール元団長。黒騎士として私達の前に立ち塞がった彼の意志は、確実に新たな団長──ティフォンへと受け継がれている。

 私はそんな彼と共に歩み、皆を纏め上げる彼を支える……その役割に、誇りと満足感を得ている。


「ええ。数時間後には、我々はあの古代鰐……ブー・クロコディルを超える敵と、刃を交えます。火山の古代種討伐が達成されれば、周辺住民への被害も止まる。この任務、必ずや成功させましょう」


 ただ、この場に居ない彼女──フラムを王都に置いていかなればならない事が、私にとって大きな心残りだった。

 フラムはスフィーダ王国の風土病に感染し、城と同じく王都にある大地の神殿に預けられ、治療を受け続けている。

 風土病の詳しい原因は不明ではあるものの、治す方法は確かにある。

 魔女が復活した今、どこに危険が潜んでいるか分かったものではない。ならばせめて、彼女を出来るだけ私の目の届く範囲に置き、いつでも護れるようにしておきたかった。

 しかし、病に倒れた彼女を無理矢理任務に同行させる訳にもいかない。

 神殿で治療を終え、一刻も早く健康な状態を取り戻してもらう。その為にも、古代種による被害が拡大しないよう──王都オングルの安全は確保しなくてはならないだろう。

 私はその決意をより固め、王都の門に向かう道中、ちらりと神殿のある方角へと目を向けた。


「……神殿で待っている彼女の為にも、無事の帰還を果たさなくては」


 呟いた私に、団長が眩しそうに目を細めて笑った。


「そうだよなぁ……。愛しい恋人が待ってるんだ。お前が大怪我なんてした日にゃ、あいつはきっと大泣きしながら治療をするだろうさ」

「はは……その光景が目に浮かびますね。彼女を泣かせてしまわないよう、気合いを入れ直します」

「おう、その意気だぜグラース」


 愛しい恋人──か。

 私は随分前からそのつもりでいるのだけれど、彼女の方はまだ、私との間に一本線を引いている。


 フラムには、婚約者が居た。黒い噂の絶えないカウザの貴族、オルコ・ドラコスという男だ。

 彼はフラムという婚約者がありながら、あまりにも身勝手な理由で彼女の信頼を裏切り、殺害を企てた。

 そのオルコは今、魔女の虜として私達と敵対する存在となっている。

 フラムは、オルコとの決着をつけるまでは、私とはまだ正式な恋人関係にはなれないと言っていた。

 私自身は、その意見自体には納得している。けれども、自分としてはその時が来るまで、あからさまに態度を変えるような事はしたくなかった。

 私が抱える、この恋の炎は本物だ。

 それを証明した日の事を、私は改めて思い返していた。




『だが、私はまだフラムを諦めた訳ではない。そなたの身に何かあれば……私は、必ずやそなたを……』


『ええ、それはどうぞご自由に。他者に想いを寄せる事は、誰にでも許されるものでしょう。もし……もしも、私が彼女を傷付けるような事や、万が一の事があれば……』




 あの夏の日の晩、私は……フラムに抱くこの感情が本物である事を強く自覚し、そして証明した。

 殿下は今でもなお、彼女の事を大切に想っているのだろう。

 互いにそう想うからこそ、私達は戦ったのだから──。


「ようやく見えてきやがったな。あれがスフィーダ火山……。近くで見ると迫力があるなぁ。なぁ、グラース?」

「……え、ええ。そうですね」


 その日の事を思い返していたら、いつの間にか目的地であるスフィーダ火山が目前に迫っていた。

 私に同意を求めてきた団長が、不思議そうに首を傾げている。


「おい、ぼんやりすんなよ? こっから先はもう危険地帯なんだ。シャキッとしろ、シャキッと!」

「あはは……仰る通りですね」


 私達を乗せた白竜騎士団のドラゴンによる空中移動は、もう間も無く終わりを告げる。

 古代種が待ち構える火山は、その火口からもくもくと黒煙を上げていた。

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