姪っ子がいない日
俺は姪っ子が寝静まった後、猪木に現時点での姪っ子の発言を伝えた。
その結果、土日に姪っ子が泊まり行くと言う事で話が落ち着いた。一応親権を争うと言う今回の始まりはあったが、その一方で一番は姪っ子の意志を尊重したいと言う俺と猪木の共通認識を確認したからだ。
穏やかに事は進んでいるかの様に見えるが、猪木としては俺が伝えた姪っ子の意思が本当かの確認、及び一日だろうがお泊りをすればアイツを自分側に引き込む自信があるのだろう。
現時点ではアイツは俺がいいと言ってくれた。
男としては猪木に惨敗の俺だが、アイツの意思に賭けてみた。いや、俺自身もアイツの気持ちを試してみたいと言う汚い思惑があったのかも知れない。
万が一にも日曜の夜、帰さないと強行手段に出れば警察を呼ぶ。しかし、猪木も医者だ。それはしないだろう。
そして遂に土曜になり、俺は姪っ子を猪木の自宅に送った。和風の門構えで日本庭園の様な庭が広がる一軒家は都内とは思えなかった。
「淑次、バイバイ!」
そう言って引き渡しの際、最後に姪っ子はまるで遠足にでも行く様なノリの言葉と笑顔を残していた。
久しぶりに過ごす一人の夜。
正直寂しかった。
コンビニで二人分の食事を買ってしまう。
アイツが好きなポカリも買う。
街道を走る車の車種を確認する。
夜も寝つけない。
ちゃんと髪を乾かしたのか?
何を食べているんだろう?
車に乗せてもらってはしゃいでいるのだろうか?
こんなにもアイツを愛しいと思っていた事を再認識する。
そして日曜日。俺は面接に行き、昼間だけの倉庫のピッキング作業の仕事に採用してもらった。もちろんアルバイトだ。
酒も辞めた。
少しづつだが俺は地味で真っ当な道を歩き始めていた。アイツ……いや、淑美と一緒に暮らす為に。