表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/58

Ep2:旧体育館で怪音(前編)


星見小学校の裏庭には、使われていない旧体育館がある。


古びた木造の建物で、窓は割れ、壁にはツタが絡まり、子供たちの間で「幽霊が出る」と噂されている場所だ。


給食のパン事件を解決したばかりの僕たち「星見キッズ」は、次の謎に挑むことになった。




--


放課後、桜の木の下で僕たち5人は集まっていた。ケンタが興奮した声で言った。




「本当に聞いたんだって! 旧体育館から、ドンドンって音が! 絶対、幽霊だよ!」




「幽霊なんて非科学的だよ、ケンタ」僕はメガネをクイッと直し、ノートを開いた。




「でも、音がするってのは事実だろ? 原因を突き止めるのが探偵の仕事だ」


カナエがニヤリと笑った。




「シュウ、さすが名探偵! じゃあ、さっそく調査開始ね! 星見キッズ、出動!」




「僕、録音機持ってきたよ。怪音を録れば、手がかりになるかも」タクミが小さなガジェットを見せた。




「私はスケッチブックで現場を記録するよ。音の出どころ、特定できるかもしれない」リナが静かに言った。




「よーし、俺が先頭切って突入するぜ!」ケンタがサッカー球を蹴るマネをして気合を入れた。




旧体育館に近づくと、空気がひんやりと変わった。夕陽が沈みかけ、体育館の影が不気味に伸びている。入口のドアは錆びついた鎖で閉じられていたけど、隙間から中に入れるくらいの空間があった。




「ケンタ、入れる?」カナエが尋ねた。




「余裕だよ!」


ケンタは鎖の下をくぐり、ドアを少し押し開けた。ギィッという音が響き、僕たちは思わず身を縮めた。


中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。床には古い体育マットが散乱し、バスケットゴールのリングは錆びて傾いている。窓から差し込む夕陽が、埃をキラキラと浮かび上がらせていた。




「不気味だね…」リナがスケッチブックに体育館の内部を素早く描き始めた。




タクミが録音機を手に持つ。「よし、みんな静かにして。音がしたら録音するから」




僕たちは息をひそめて待った。しばらくすると




ドン…ドン…




本当に聞こえた。低い、鈍い音が体育館の奥から響いてくる。




ケンタがビクッと飛び上がった。


「や、やっぱり幽霊だ! 俺、帰る!」




「落ち着いて、ケンタ。音の方向を確かめるんだ」僕は冷静に言ったけど、心臓がドキドキしていた。




「シュウ、あそこだよ。奥の倉庫の方から聞こえる」カナエが指差した。




体育館の奥には、小さな倉庫への扉があった。音はその中から聞こえてくるようだ。




「よし、近づこう。タクミ、録音準備OK?」




「う、うん…大丈夫」タクミは少し震えながら録音機を構えた。




僕たちはそろそろと倉庫の扉に近づいた。扉は半開きで、中は真っ暗だ。




リナがスケッチブックに倉庫の入り口をスケッチしながら呟いた。


「何か…変な臭いがする。カビ臭いけど、それだけじゃない…」




その時、また音がした。




ドン! ドン! ガタッ!




今度ははっきりと、何かが動く音が混じっていた。




ケンタが叫んだ。


「シュウ、何かいる! 絶対、幽霊だよ!」




「幽霊じゃない。音の質からして、物理的なものが動いている可能性が高い。風か…いや、もっと重いものだ」僕はノートにメモしながら考えを整理した。




「じゃあ、開けてみる?」カナエが挑戦的な笑みを浮かべた。




「うん、でも慎重に。ケンタ、先に中を覗いて」


ケンタはゴクリと唾を飲み込み、倉庫の扉を少しだけ押し開けた。暗闇の中、かすかに何かが動く影が見えた。




ケンタが後ずさりながら叫んだ。


「シュウ! 何か…箱みたいなのが動いてる! でも、誰もいない!」




「箱が動く? 誰かが仕掛けたトリックかもしれない。タクミ、録音できた?」




「うん、録れた! でも…何か変な音も混じってる。聞いてみる?」タクミが録音機を再生した。


録音からは、確かに「ドン、ドン」という音が聞こえた。でも、その間に、かすかに「カチャ…カチャ…」という金属音が混じっている。




リナが首をかしげた。


「この音…鍵か何か? でも、誰が?」




「分からない。でも、この倉庫に何かがあるのは確かだ。もっと調べよう」僕は決意を固めた。


その時、倉庫の奥でガタンと大きな音がした。続いて、床に何かが落ちる音。


そして「…誰だ?」


低い声が、倉庫の奥から聞こえてきた。




人間の声だ。幽霊なんかじゃない。僕たちは一瞬凍りついた。




「シュウ、どうする? 入る?」カナエが囁いた。




「…入るしかない。真相を突き止めるのが、星見キッズの使命だ」僕はメガネを直し、ノートを握りしめた。




ケンタが震えながら言った。「俺、先に行って…様子見てくる…!」


ケンタが一歩踏み出した瞬間、倉庫の奥から黒い影が飛び出してきた。誰かが叫び、僕たちは思わず後ずさった。影は一瞬で体育館の出口に向かって走り去り、僕たちは呆然と立ち尽くした。




「何…何だったの? あれ、人間だったよね?」リナがスケッチブックを落としそうになりながら言った。




「分からない。でも、確実に誰かがいた。追いかけよう!」僕は叫んだ。


カナエが頷き、タクミが録音機を握り、リナがスケッチブックを抱え、ケンタが先頭に立って走り出した。旧体育館の外に出た瞬間、夕陽が完全に沈み、辺りは薄暗くなっていた。影の姿は、校庭の向こうに消えていくところだった。




「シュウ、あいつ…何か落とした!」ケンタが地面を指差した。




そこには、古びた鍵が落ちていた。鍵には小さなタグがついていて、かすれた文字で「地下」と書かれている。地下? 星見小学校に地下なんてあったっけ?


「これは…新たな手がかりだ。でも、あの人は誰だった? なぜ倉庫に?」僕はノートに鍵のことをメモした。




「シュウ、暗くなってきた。今日はここまでにしよう。明日、もっと詳しく調べるよ」カナエが心配そうに言った。




「うん、そうだね。でも、この鍵…何か大きな秘密を握ってる気がする」僕は鍵を握りしめた。




星見キッズの2つ目の事件は、予想以上に複雑な謎を孕んでいた。旧体育館の怪音、倉庫の影、地下を示す鍵――。後編では、この鍵が僕たちをさらに危険な状況へと導くことになる。


(前編 完)




後編では、シュウたちが鍵を使って旧体育館の隠された秘密に迫るが、謎の人物が再び現れ、星見キッズを追い詰める。地下への入り口を発見するも、そこには予想外の危険が待ち受け、子供たちだけで解決できるのかハラハラする展開に。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ