Ep10:夏休みと古い日記
夏休みが始まり、星見小学校は静寂に包まれていた。5年生のシュウたちは、これまで「星見キッズ」として星見計画に関わる数々の謎を解いてきた。
6月の事件で佐々木美奈子さんの殺人事件を解決し、地下室の財宝を警察に引き渡した後、夏休みを迎えた彼らは一息つく暇もなく、新たな手がかりに目を向けた。それは、町の図書館で発見された古い日記だった。
星見小学校の創設者一族が残したその日記は、星見計画の真実を解き明かす鍵と噂されていた。
8月上旬、暑さがピークに達する中、シュウたちは冒険を始めることを決意した。
朝9時、太陽が容赦なく照りつける中、シュウたちは自転車で町の図書館へ向かった。図書館は町の中心部に位置する古い木造建築で、緑の蔦が壁を覆い、どこか懐かしい雰囲気を漂わせていた。
入り口で、ランドセルを背負ったままのケンタが汗を拭きながら言った。「シュウ、暑すぎるよ。早く中に入ろうぜ!」
図書館の中は涼しく、木の床がギシギシと音を立てた。受付には、老眼鏡をかけた白髪のおばあさん、図書館司書の松本さんがいた。
彼女は優しい笑顔でシュウたちを出迎えた。
「おや、星見キッズじゃないか。新聞で活躍を聞いてたよ。星見計画の日記を見たいんだね? 町長が特別に許可を出してくれたから、奥の資料室で読んでいいわよ」
資料室は図書館の奥にあり、薄暗い電灯が古い本棚を照らしていた。埃っぽい空気と革の匂いが混ざり合い、歴史の重みを感じさせた。
テーブルの中央には、革の表紙が擦り切れた日記が置かれていた。シュウはメガネをクイッと直し、慎重に手を伸ばしてページを開いた。
カナエが隣で興味津々に覗き込み、タクミとリナ、ケンタも息を凝らして見守った。
日記の内容と手がかり最初のページには、
「1945年8月15日、終戦の日」と記されていた。
シュウが読み上げると、部屋に静寂が広がった。
「星見計画は、戦後の復興を支援するための秘密プロジェクトとして始まった。軍の物資を民間に分配し、町の再建を図る計画だった。しかし、一族の中で不正が横行し、物資が横流しされた疑いがある」と続いていた。
「不正…? 具体的に何が書いてある?」ケンタが身を乗り出した。
シュウが次のページをめくると、
「星見健太郎、創設者の弟が主導した。帳簿を改ざんし、物資を私的に流用。町の有力者と結託し、賄賂をやり取りしていた記録が残る」とあった。
リナがスケッチブックに一族の家系図を書き始めながら言った。
「健太郎の末裔が今も町にいるってこと? 不正が現代まで続いてる可能性があるね」
タクミがタブレットを取り出し、町の歴史を検索した。
「星見健太郎は戦後、町の有力者として名を馳せた。現在の星見一族の当主、星見健一郎がその血筋だ。町の開発事業で巨額の資金を動かしてるみたい」
「開発事業…。不正が絡んでるなら、証拠が必要だ」シュウがノートにメモを取りながら考え込んだ。
日記の最後のページには、
「星見の真の目的は、未来への希望を託すこと。帳簿は屋敷の地下に隠した」と書かれていた。
シュウは目を輝かせた。
「屋敷の地下に証拠がある! 行ってみよう」
手がかりを得たシュウたちは、町の古老、田中おじいさんの家を訪ねることにした。
田中おじいさんは元星見小学校の用務員で、戦後の町の歴史に詳しい人物だ。古い木造の家の縁側で、彼は将棋を指しながらシュウたちを出迎えた。蝉の声が遠くで響き、夏の暑さが庭を包んでいた。
「こんにちは、おじいさん。星見計画についてお話を聞きたいんです」カナエが丁寧に頭を下げた。
「ほう、星見計画か。懐かしいな。あれは戦後、町を立て直すためのプロジェクトだった。だが、星見健太郎が私腹を肥やしていた噂は確かにあるよ」おじいさんが駒を動かしながら語った。
「その不正の証拠は残ってますか?」シュウが真剣な顔で尋ねた。
「星見健太郎の屋敷に、古い帳簿が隠されているという話だ。だが、今は星見一族が住んでいて、立ち入るのは危険だぞ。屋敷は町の郊外にあって、監視も厳しい」おじいさんがため息をついた。
「危険でも、真相を知るために行きます。ありがとう、おじいさん」シュウが深くお辞儀をした。
翌日、シュウたちは星見健太郎の屋敷に向かった。屋敷は町の郊外にあり、古い洋館が雑草に覆われていた。窓はカーテンで閉ざされ、どこか不気味な雰囲気が漂っていた。
シュウは仲間たちに作戦を説明した。
「裏口から忍び込む。タクミ、セキュリティをハックして警報を解除して」
タクミがタブレットでシステムに侵入し、警報を無効化した。
「よし、5分間は安全だ。急ごう」
裏口から侵入すると、屋敷の中は薄暗く、埃っぽい空気が漂っていた。
リナがスケッチブックで屋敷の構造を書きながら進んだ。
「地下室への階段があるよ。あそこだ」
地下室への階段は狭く、湿った空気が立ち込めていた。
懐中電灯を手に持つケンタが先導し、シュウたちは慎重に降りた。
奥に古い金庫が見つかった。金庫のダイヤルには数字が刻まれている。
シュウが星見計画の暗号表を確認し、「3-7-2-9」を試した。
カチッと音がして、金庫が開いた。
中には、古い帳簿と手紙の束が入っていた。
帳簿を開くと、星見健太郎が物資を横流しし、町の有力者と賄賂を交わした詳細な記録が残っていた。
手紙には、「現代の星見一族が開発事業で不正を続けている。証拠を隠すため、屋敷を監視している」と書かれていた。
「これで一族の不正が証明できる!」カナエが興奮した。
その時、地下室のドアがギィッと開き、星見健一郎が現れた。
背が高く、冷たい目つきの男で、黒いスーツを着ていた。手に拳銃を持っている。
「お前たち、よくも我が家の秘密を暴いたな。だが、その証拠は渡さない」健一郎が銃を構えた。
「逃げよう!」ケンタが叫び、シュウたちは地下室の奥へ走った。
健一郎が発砲し、弾が壁をかすめた。通路の隠し扉を見つけたシュウが仲間を急かした。
「こっちだ!」隠し通路を抜け、屋敷の庭に出た。
シュウたちは息を切らしながら町の警察署へ向かった。
健一郎が追いかけてくる足音が遠ざかる中、なんとか警察にたどり着き、証拠を渡した。
警察が星見健一郎を逮捕し、帳簿と手紙を基に星見一族の不正が明るみに出た。町の開発事業は凍結され、調査が始まった。シュウたちは町の英雄として新聞に載り、夏休みの冒険は大成功に終わった。
警察署で、刑事から補足説明を受けた。「星見健太郎の不正は戦後から続いていた。一族は開発事業で利益を上げ、町を私物化していた。君たちの手柄で、町が正しい方向に進むよ」
シュウはノートを閉じながら言った。
「でも、日記に『星見の真の目的は未来への希望を託すこと』とあった。財宝や不正だけじゃない何かがある気がする」
「シュウ、次はどんな謎が待ってるかな?」カナエが笑顔で尋ねた。
「分からないけど、夏休みが終わる前に、もう少し調べよう。星見計画の真実を解き明かすよ」シュウはランドセルを背負い直し、桜の木の下で仲間たちと未来への決意を新たにした。
(Ep10 完)




