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088_魔物化の黒幕


 私はグローフと共に川沿いを歩いている。せっかくの休日なのに、まさかこの男と司祭探しを行う羽目にはるとは…。

だいぶ街から離れたようだ。ここはダンジョン〝トレント〟のある森に近い。森の内側にこそ入らなかったが、かなり複雑な道である。舗装されていない所の方が多い。時々スライムやゴブリンも現れ、私たちの道を阻んだ。(倒すのは私…)それでも連日通い詰めているグローフは迷うことなく道を進んでく。

 さっきのグローフとの会話を思い出すと、ザワザワと気持ちの悪い胸騒ぎがする。私はこのクソ記者に改めて質問した。


「どうして私が魔物化事件の渦中にいるって断言できるんですか?」


「それより先に魔物化事件について説明しておきたい」


「は、はあ…」


 グローフは歩きながら口を開く。いつもの芝居がかった話し方と比較すると、少し抑揚が抑えられている気がした。


「僕が今まで観測した魔物化現象は十二件。魔物化したのは全て新社会人で、人に戻ったケースはなかった。君の同期を除くとだがね?」


 それを聞いたラムスは少し引きつった顔をしている。普段このチビドラゴンはどんな話題にも興味深々だ。しかし魔物化事件については、この間のランチュウの件がトラウマになっているのだろう。私もあまり良い気はしない。そんな私達に向けてグローフは衝撃的な出来事を告げた。


「十年前、僕は初めてこの現象を目の当たりにした。その時、魔物化したのは…僕の弟だった」


 ――グローフの…弟?


 私は息を呑んだ。彼の言葉が真実かどうか証明する術はない。しかし私もラムスも黙って彼の話を聞いていた。ただでさえ人通りのない道だ。遠く彼方で鳥が鳴く声だけが聞こえてくる。


「弟は魔物化する前に遺言を残した。それが今日、君に伝えたかったことでもある」


 グローフは立ち止まると私を真っすぐに見据えた。何を告げるつもりなのだろうか。ほんのわずかな時間ではあるが、時が止まったかのような錯覚さえ覚える。


「この魔物化事件の黒幕は〝世界樹の青窓〟だ。世間で〝平和と発展の象徴〟とされているあの組織こそが…この醜悪な研究を繰り返している」


「世界樹の青窓が…!?」


 それこそゴシップやフィクションのようなお話である。私は彼の話を受け入れることが出来なかった。いや、それが普通の反応なのだ。グローフの言う通り、世界樹の青窓は世界中で〝平和と発展の象徴〟とされている。学校の歴史の教科書にもしっかりと記載されている内容だ。


「証拠はまだない。だが僕は弟の言葉を信じて記者になり、調査を続けている。同業者は僕の行いに非協力的だった。だからゴシップ形式で魔物化事件の噂を流し、仲間を募っている」


 弟のために記者になった…か。今日のグローフの言葉には熱がこもっている。以前までの胡散臭い彼とは明らかに異なっていた。


「僕は最初、君のことを教団側の人間かと思っていた。しかし今は違う、ラムス君が魔物化現象を解除するところを…僕は確かに見た。君たちはこの魔物化事件を終結に導く鍵なのかもしれない」


「え、いや、そんな…」


 そしてグローフは右手を差し出してきた。


「だから…僕と手を組んでほしい」


 ――え、いやいやいや!?


 む、無理である。私にだって会社や生活がある。魔法陣の開発業務だって必死にやってギリギリ食らいついているのだ。今の私にそんな余裕がある訳ない。それに、そもそもグローフの発言は信用ならない。この男はいつも胡散臭いし、平気で嘘をつく。それでも私は彼の依頼を即答で断る事が出来なかった。

 

 ――この男にも兄弟がいるのか…。

 

 弟のことを話す時、彼の声色は熱を帯びていた。私にも姉がいるから気持ちは分からなくもない。私と姉は仲が良いと言い切れない。だが、もし彼女が魔物になったらとは…考えたくない。

私の頭は既にパンク寸前。よって後ろから接近する影を察知することが出来なかった。最初に声を上げたのはラムスだ。


「リン、後ろだ!」


 私が振り返るとそこには一体のゴーレムが佇んでいた。いつの間にか森を抜けたようだ。辿ってきた川は湖につながっており、草原の奥には小さな教会が見える。私は慌ててゴーレムと距離を取った。

 目の前のゴーレムはダンジョン〝トレント〟でガーゴファミリーが戦ったものより一回り小さい。二メートルはあるが、三メートルはないな。身体も金属製ではなく岩製だろう。ただし体の表面には純白の鉱物でできた鎧を身に着けており、戦闘用であること明らかだった。こんな個体は見たことがない。人造ゴーレムかだろうか。私の疑問に対し、答えはすぐに見つかった。このゴーレムの肩には見覚えのある紋章が刻まれている。


 ――世界樹の青窓のものだ。



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