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086_記者からの依頼

リンの日記_五月十日(土)


私とグローフは戦闘用ゴーレムと対峙していた。純白の鉱石に守られた、始めて見る個体である。しかもこのゴーレムの肩には見覚えのある紋章が刻まれていた。


 ――世界樹の青窓である。


奴の瞳が青く光る。するとゴーレムの腕と胴体の繋ぎ目からニョキニョキと木の芽が生えてきた。それは勢いよく成長するとゴーレムの右腕に絡みつき、一本の槍となる。コイツ、臨戦態勢だ。私とグローフもそれぞれに魔導書を構えた。まさかこの男と共闘することになろうとは…

 何故こんなことになったのか、時刻は一時間前まで遡る。


 朝八時、私とラムスは駅前の通りを散歩していた。のんびり出来る休日は久しぶりだ。(先週、先々週は討伐会やダンジョンのことが神経質になっていた)本当はアセロラも散歩に誘おうかと思ったが、朝に弱い彼女はまだ寝ている。私以外のアキニレチームは全員夜型、始業時間はいつも目を擦っている。少し前にアセロラを「寝坊助!」ってからかった事がある。するとガスタから「年寄りがっ!」って返ってきた。

 

 ――酷い。

 

 今日は散歩日和の良い天気。川の水面も朝日を浴びてキラキラと輝いていた。私が川に架かる橋を渡ろうとした時だ。橋の中央に見覚えのある人物がいた。土曜日にも関わらず、無駄に小洒落たスーツを着こなす青年――グローフだ。彼は宗教団体――世界樹の青窓に恨みを持つフリー記者。私を青窓の関係者と勘違いして詰めてきた過去もある。私が嫌な顔をすると、奴は爽やか風に右手を上げた。


「奇遇だね」


「また私をストーキングしていたんじゃないですか?」


「君は意外と自信過剰なんだな」


「貴方に前科があるからです」


 グローフは信用ならない。よって遠慮も不要である。私にとってこの男の扱いは野生の魔物とさして変わりない。しかしグローフは私からの白い目など気にもならないようだ。彼は顎に手を置くと、私のことをジロジロ観察し始めた。


「おや、今日は例のドラゴンも来ているのか」


 ――え、見えるの!?


 グローフが私の少し上を見上げる。確かに彼の視線の先にはラムスが浮いている。しかしこのチビドラゴンは自身の魔法で私以外の人間には見えなくなっている筈だ。私が目を丸くすると、彼はしたり顔で解説を始める。


「別に見えている訳じゃない。が、魔力の揺らぎから〝何か〟がいることは分かる。それでも微弱な変化だ。予めラムス君のことを知っている者じゃないと気がつかないとは思うがね」


 それは盲点だった。これから気をつけよう。特にこういう胡散臭い変態に見つかると厄介だ。それにグローフはチビドラゴンの名前を知っていた。教えたことあったか? やはりこの男は油断ならない。これ以上ラムスを隠しても無駄なので、私はチビドラゴンに視線を移した。グローフとラムスがちゃんとやり取りするのは初めてだ。

 すると意外なことにラムスも顔を歪めている。猫が嫌いな相手を見つけた時の顔みたいだ。このチビドラゴンは今まで、様々な人や物事に興味を示す傾向があった。最初から拒絶ムードな雰囲気を出すのを始めて見る。透明化を見破られたのが気に食わなかったのかな。そんなラムスはグローフの前に姿を現すと、いつもより一段と低い声を出す。


「なんかお前…気持ち悪い。オレちゃんの好みじゃない」


 珍しくチビドラゴンと意見が合ってしまった。そうだよな、胡散臭いよな。そんな私達の嫌悪感をグローフは華麗にスルーする。そして両腕を組むと、私達の前に現れた理由を切り出した。(こいつメンタル強いな)


「さて、ここからが本題だ。以前、君から世界樹の青窓の司祭について情報をもらったな」


「はあ…」


 彼が言っているのは四日前のことだろう。私は行方不明のランチュウを探してもらう報酬として、この男に青窓の司祭――プラナリの名刺情報を提供している。名刺には司祭の名前と所属、住所が記載されていた。完全に〝個人情報漏洩〟だが仕方ない。緊急事態だったのだ。それにプラナリだって私のことを襲ったクソ野郎である。お互い様ということにならないだろうか? そんな私にお構いなしでグローフは会話を続ける。


「この住所を尋ねてみた。が、もぬけの殻だった」


「そうですか」


「三日連続で訪れたのにだ」


 ――流石はストーカー気質、タチが悪い。


「引越しでもしたのでは?」


「その可能性もあるが…この司祭が君に名刺を渡したのは最近だ。もしかすると君にしか会う気がないのかもしれない」


 その言葉を聞いて、何となく嫌な予感がした。


「な、何が言いたいんですか?」


「僕と一緒にこの住所を尋ねてほしい」


 ――嫌だ。


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