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077_穴埋め研修①

リンの日記_五月八日(木)


 今日からは魔法陣開発の日常に戻る。新入社員四名はミラーに連れられて屋上にやってきた。ちょっと暑いくらいの晴天。研修を行うと聞いていたが、ここで何をするのだろうか。スワローとランチュウは一階の机を屋上まで運んできており、二つの机が屋上に設置された。それを確認するとミラーが口を開く。


「これから君達には二組に分かれて競ってもらう。リンとアセロラで一チーム、ランチュウとスワローでもう一チームだ」


「しょ、勝負ですか?」


 思わず声を漏らすと彼女は真顔のまま頷いた。


「新人どもは競わせないと本気を出さないからな。ルールは簡単だ」


 そう言うとミラーは自身の魔導書を開いた。そして三種類の魔法陣を二組取り出すと、私とスワローそれぞれに渡す。


「その魔法陣は三つとも未完成だ」


――え?


 確かにこの魔法陣の呪文には、ところどころ虫食いのような空白がある。


「その空白を埋めて魔法陣を完成させる事。早く完成させたチームの勝利だ。ここまでで何か質問は?」


 アセロラが小さく手を上げた。


「三枚の魔法陣を二人で手分けして完成させるってことですよね?」


「そうだ、役割分担はどのような形でも構わない」


 他に質問がないことを確認すると、ミラーは課題の説明を続ける。


「魔法陣が完成したら私の前でその魔法を発動し、テストを行うこと。三枚の魔法陣が全てテストに合格した時点でそのチームの作業は終了だ。テストはどのタイミングで行っても構わないし、魔法の使い方も自由。ただし安全のため、一度テストに成功した魔法陣はその後、再起動する事を禁止とする」


 新人四名が首を縦に振ると、ミラーは私達に席につくよう促した。研修の内容はおおよそ理解できたし、こういう穴埋めは学生時代にもやったことがある。要するに「呪文の文法を正しく扱えるか競え」ってことだろうな。屋上は風が強いがミラーの声は実によく通る。そんな彼女は説明の最後にはっきりと告げた。


「なお負けた方は罰ゲームだ。今度の新人歓迎会で一発芸をすること」


 彼女の一言に私は耳を疑う。


 は…?


 い、一発芸!?


 そんなのムリ!


 絶対にムリ!!


 隣を見るとランチュウも辛そうな顔をしていた。こんなに恐ろしい罰ゲームがある以上、負けるわけにはいかない。ランチュウには気の毒だが、新人歓迎会での一発芸は男子チームにやってもらおうと思う。そう思っていたら彼と目が合った。私達四人の中で最も罰ゲームを恐れているのが私とランチュウなのだ。


「リン、悪いが罰ゲームは君に譲ろウ」


「嫌です」


 私はキッパリと告げた。この勝負はどうしても負けられない。一発芸は魔物と戦うより怖いし、ガスタのネチネチ攻撃に耐えるより辛いはずだ。私たちの間に火花が散る。


「俺も勝負ごとでは負けたくないね」とスワロー。


「そうだね、私もやるからには勝ちたいな」とアセロラも頷いた。


 ちくしょう、この二人ちょっと余裕があるな。

ちなみにこの中で魔法道具の製造経験があるのはランチュウだけだ。恐らく魔法に関しても私たちの中で最も理解が深い。次に精通しているのはアセロラ。彼女も学校で魔法の研究をしており、「火属性魔法ならランチュウにも負けないはず!」と豪語していた。しかも彼女はとにかく作業が速い。アセロラとチームであることは心強いが、彼女の脚を引っ張らないようにしなくては…。そして私とスワローのレベルは同じくらい。私たちはほぼ未経験での入社なので、魔法については一般教養のレベルである。とにかく今日はアセロラを邪魔しないように、出来ることを頑張るでやんす。ミラーは最後に質問がないことを確認すると、ついに研修開始を告げた。


「準備ができた者から始めろ。ゲームスタートだ!!」


「「はい!」」


 ――新人研修という名の勝負が始まった!


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