071_マーフォク・ユニクエ④
目を開くと黒い渦は収まっていた。無論ランチュウの身体は全身ブルーグレーのまま。いや、それどころじゃない。彼の両腕には〝タコのような触手〟が左右に四本ずつ生えていた。だがやることは変わらない。私とスワローはすぐに二方向からの攻撃を再開する。
「ヴレア・ボール!」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
「ウィンディン・ナイフ!!」
【ウィンディン・ナイフ_風小刀を放つ魔法】
しかし八本の触手はそれら全てを受け流してしまった。それを見たスワローが驚きを露わにする。
「全方位に対処できるようになってる! ヤバいぞ!!」
直後、長い水草が鞭のようにしなりスワローを弾き飛ばした。彼は大きく弧を描くと、ガスタの近くに落下。ガスタの表情を見るに…暫くは動けそうにない。そしてガスタの風邪も限界が近い。
――ど、どうする!?
敵に強力な武器が増えただけでなく、コチラの数による優位性が失われた。流石にそんなパワーアップは想定外だ。ランチュウは先ほどにも増して怒り、暴走している。巨大水草を振り回して、周囲の岩や木々を手当たり次第に破壊していた。そう考えている間にも次の水草が飛んでくる。
「社会に味方はいなィイイ!!!」
ところがこの一撃は私ではなくチビドラゴン――ラムスを狙ったものだった。しなる巨大水草にチビドラゴンは目を丸くする。
「っ!」
私はとっさにラムスを庇っていた。ギリギリで張った結界ごと吹き飛ばされ沼地に叩きつけられる。結界越しとはいえ、撃ち込まれた肩に強い痛みが走った。よりによって肩か…。私の武器――投石が封じられたと言っても過言ではない…。どうしてラムスを守ったのかは分からない。いや、そんなことを考えている余裕すらなかった。
クソッ…。
水を吸った服でさえ、私の焦りを助長していた。ガスタもスワローもいつ動けるか分からない。ここは私が囮となって時間を稼ぐべきだろうか。いや、そもそも彼らがまだ戦えるのかも分からないのだ。それならランチュウが新しい力に慣れる前に攻撃すべきかもしれない。
「仮に一人で戦うことになったとしても…」
覚悟を決めて魔法陣を起動した時、後方から小さな破裂音がした。そして小さな水球が飛んできて私の頭を小突く。
「あ、イタッ…!」
膝立ちだった私は、再度沼地に尻もちをついた。振り返ると何故か若干お怒り気味のガスタがいる。スワローに支えられているが、姑の威厳は健在だ。
「君、また単独行動しようとしたな!?」
「え、なんで…?」
「君は焦っている時ほど人とのコミュニケーションを怠る!」
あまりの図星に視線を逸らす。するとガスタは「ほれ、僕の言った通りだろう?」と言わんばかりのドヤ顔を返してきた。やはり嫌な奴。
だけど…今回は彼の言う通りだろう。
「すみません、つい一人で先行しそうになりました…」
「ダンジョンで学んだだろう? 仕事がデカい時ほど役割分担をちゃんとする。そして細かな報連相を欠かさないこと」
スワローが右手を差し出してくれたので、私はその手を取り今度こそ立ち上がった。ガスタはそれを確認すると「やれやれ」とため息をつく。そして小さくささやいた。
「状況は最悪だ。だが僕に考えがある」
彼は私とスワローに最後の作戦を共有する。