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067_個人情報漏洩

リンの日記_五月六日(火)


 ランチュウの行方が分からない。昨日の午前中は魔法陣の貸し出し業務を行なっていたそうだが、お昼休憩後に突然消えたそうだ。ワークツリーや寮、喫茶など彼の行きそうな場所は一通り探したらしい。それでも見つからないのでアキニレが自警団に捜索願を出した。「まさか魔物にやられた?」あまりそれは考えたくはない。それなら家出や寝坊であって欲しいものだ。

 しかもアセロラの話によると、ランチュウはまた体調を崩していたらしい。具体的には発熱と動悸の乱れ。ミラーが彼を連れてワークツリーに戻ろうとしていたが、ちょっと目を離した隙にどこかへ移動してしまったそうだ。人騒がせな奴である。それにしても最近の彼は体調不良が多い。ストレスか、それとも実は持病持ちだったりするのだろうか…。

 ランチュウを探して街中を走り回る。ガーゴファミリーも魔物の討伐を中断して手伝ってくれた。そしてアキニレが自警団に連絡を行ったことで捜索は百人規模となる。捜索から二時間、それでも彼は見つからない。退屈そうなチビドラゴン――ラムスが宙に浮きながら大声を出した。


「新入社員が会社をバックれることは、よくある話だ」


「適当なこと言わないで」


「でもバックレるのは賢い選択とは言えないぜー。人としての信用を失うし、事件性を心配されうる行いだ。時には損害賠償を請求されることだってある」


「いいからランチュウを探して」


「だが長い人生の中で時には自身の心を守るため、バックれざるを得ないような状況もあるだろう。しかしここで肝心なのは――」


「いいから! とっとと捜索!!」


 意気揚々と知識を披露していたラムスは、ムスッとしたまま高度を上げていった。魔物のくせにやたら社会のアレコレに精通している奴だ。でもランチュウに限って、そういうのではないと思いたい…。少しでも手掛かりがないかとワークツリーの周辺を細かく観察した。今日も討伐会の期間中なので沢山の魔物がいる。道を塞ぐ魚魔物――ジャコを一掃した時、私は小さな違和感に気が付いた。ジャコの群れの中に一匹だけ戦っていないやつがいる。しかも私はその魔物に見覚えがあった。


「お前…どこかで?」


 私の声を聞くと魔物はビックリしたように小さく跳ね上がり、コソコソ撤退を始める。


 ――待て待て待て。


 そもそもジャコが人の言葉を理解する時点でおかしい。私はジャコの尾ビレを掴んで魔物を捕まえた。こういう虫取り系は大得意だ。魔物は私の手の中でビチビチと跳ね回る。その様子を見て思い出した。大きな一つ目のジャコ…コイツはあのグローフが連れていた魔物――ディープアイだ。

 グローフは二十代後半のフリー記者だ。巨大な教団――〝世界樹の青窓〟に恨みを持つ男。私のことも世界樹と協力関係にあると疑い付けまわしているようだ。一度しか会ったことがないが、どことなく胡散臭い奴である。

 グローフは信用ならない奴だが、このタイミングで遭遇したのは幸運かもしれない。確か彼はディープアイと視覚を共有して、私たちのことを監視していた筈…。私は魔物の尾ビレを強く握りしめると、ジャコをグルグルと振り回してみた。すると三分後――


「おい待て、止めろ! 本当に止めろ!!」


 喫茶店のある方向からグローフが現れた。やはり視覚を共有していたようで、何度もえずいている。まともに立つことすら難しそうだ。前回、思わせぶりな退場をした割には情けない再登場である。


「またコソコソと嗅ぎ回っていたんですか?」


「それが仕事だ」


 グローフは息を切らしながら答えた。手を放してジャコを解放してやる。今更だがこれは私なりの誠意だ。魔物は一目散にグローフの元へと飛んで行った。それを確認すると私はこの男へ本題を切り出す。


「お願いがあります。記者の力を使って私の同期を探していただけませんか?」


「人の視界をグチャグチャにしておいてよく言えたものだね。まあそれがなくても答えはノーだが」


「どうしてですか?」


「僕にメリットがない」


 彼はキッパリと答えた。まあ、それはそうか。どうしよう…私はグローフとの交渉に使えそうなものはないか頭を回転させる。そして宙に浮くラムスが視界に入った時…ふと閃いたのだ。

 私は自分の財布を取り出すと中から一枚の名刺を取り出す。これはダンジョン〝トレント〟で例のクソ神父――プラナリから貰ったものだ。プラナリは私にラムスを押し付けた男。彼は自身を世界樹の青窓のスカウトマン兼、司祭と名乗っていた。謎の多い男ではあるが、この名刺にはプラナリの所属や氏名、そして住所までもが記載されている。


「貴方は世界樹の青窓に恨みがあって、教団について調査しているんでしたよね」


「ああ、そうだ」


「これは私にチビドラゴンを押し付けた司祭の名刺です。この情報と交換でいかがでしょう? 住所とかも記載してありますよ」


 グローフは名刺を覗き込むと暫く考え込んでから、私の方へ顔を上げた。


「分かった、君を手伝おう」


 グローフが交渉に応じた。


 ――個人情報流出である!(自分で言うのもなんだが)


 だがこれは緊急事態だ。手段を選んではいられない。(それにあの司祭、私を攻撃したことあるし)グローフは召喚魔法を使って自身が契約している魔物を捜索にあてた。私もランチュウを探して通りを駆けまわる。


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