065_成長
「始めてかまいませんよ」
タジンが静かに戦闘開始を告げた。
瞬間、フリュウポーチが彼に距離を詰める。大剣を振りかざすと辺り一面に砂埃が巻き上がった。怒涛の連続攻撃を仕掛けるフリュウポーチ。それでも副団長は二本の剣を器用に扱い彼女の攻撃をさばき切る。金属のぶつかり合う音が辺り一面に響き渡った。
「ポーチ…無駄な動きが減りましたね」
「次は…仕留める」
二人の戦いはとにかく凄かった。私では捉え切れないし言語化できない。だが両者の会話を聞く限り…剣技に関しては副団長の方が上らしい。
「まだ動きが単調です」
「っ!」
副団長はフリュウポーチの大剣を紙一重のところで回避すると、彼女に剣を突きつけた。フリュウポーチが小さく「むう…」と声に出す。タジンの勝利だ。
「では負けた方が闘技場の後片付けという約束でしたね」
「分かってる…」
フリュウポーチはムスッとした表情で闘技場の整備を始めた。そんな彼女を待っていると副団長――タジンから声をかけられる。
「こんにちは、リン。ポーチと仲良くしてくれてありがとうございます」
「こちらこそいつもお世話になっております! フリュウポーチはいつ見ても凄いですね。私と同じ年齢にはとても見えなくて…」
私はやや興奮気味に答えた。それくらいさっきの戦闘は手に汗握るものだった。副団長はそれを聞くと後ろ頭をかきながら微笑んで見せた。
「親バカのようになってしまいますが…彼女は天才です。まだ剣技では私が上ですが、それも時間の問題でしょう」
セリフとは裏腹に副団長はいつもより嬉しそう。
「そういえばフリュウポーチから『記念日はガーゴのメンバーに闘いを挑む』って聞きました」
「ああ、いつの間にか恒例になりましたね」
「それも修行のためですか?」
「そういった側面もあるのかもしれません。ですが本質はもっと単純なものです」
「…?」
副団長は少し照れ臭そうな表情を見せる。私が首をかしげると、彼は遠くのフリュウポーチへと視線を向けた。
「私達があの子の成長を感じたいのです」
「成長を…ですか?」
「少しずつ強くなるポーチを見ていると、時間流れが実は暖かなものであると感じられますから」
――成長を感じたい…か。
私もお婆ちゃんによく絵を見せた。私個人としては「元気が出る絵だね」とか「不気味でゾクゾクする絵だね」みたいな感想がほしかった。ところが彼女はそういった部分は全然汲み取ってくれない。「じーっ」と私の絵を見つめて一言。
「前よりも人間の顔がリアルだ」
お婆ちゃんなりに褒めてくれてはいる。しかし私がお婆ちゃんと話したいのはこの絵を描く上での「思い」や「コンセプト」なのだ。これでは感想というより添削である。
でもお婆ちゃんは私の描いた絵をとてもよく覚えていた。
新しい絵を見せると、前回の絵と比較して「ここが前の絵と異なる」とか「そこの線は前より迷いがない」みたいなことを一人で呟いていた。本来、絵のことなんて大して興味がないくせに。
そうか、彼女は私の絵の良し悪しを見ていたのではない。私の成長を見ていたのかもしれない。そう思うと妙に合点がいく。私はフリュウポーチと副団長に別れを告げると真っすぐ寮へと帰宅した。
「で、結局お婆ちゃんには何も送らないのかよ?」
ウイスキーとハムを梱包しているとラムスが覗き込んでくる。
「送るに決まってるでしょ?」
私は魔導書のページを一枚切り取ると、そこに一枚の魔法陣を焼き付けた。魔法陣の名前は【メガ・ヴレア・ボール_大火球を放つ魔法】。業務の中で初めて改造した魔法陣だ。私が改造した部分だけ青く着色して、手紙と共にお婆ちゃんへと贈り届けようと思う。お婆ちゃんはこの魔法陣のことも「じーっ」と眺めてくれるだろうか。いや、きっと見てくれる。そう思うと自然と笑みがこぼれた。




