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007_セキュア・ゴーレム

「金属製のセキュア・ゴーレムですか。ボディの強度が厄介ですね」


 副団長はそう呟き、今日初めて腰の双剣を抜いた。

 対するは五メートル以上ある金属製ゴーレム。

 魔物はそのバカでかい拳大きく振り上げた。巨大な腕が勢いよく地面に叩きつけられ瓦礫が飛び散る。もし潰されたら…ペシャンコは間違いない。

 ゴーレムはガーゴファミリーを狙い、次々に地面を叩いて回る。副団長もフリュウポーチもそれをヒョイヒョイ避けていた。今のところ命中する気配はない。が、一瞬の気の緩みが致命傷になる。

 魔物は自分の攻撃が当たらないと理解したのだろうか。ゴーレムの奴、今度はダンジョンの壁に向けて強烈な右ストレートをかました。壁が砕け轟音が響き渡る。奴はその瓦礫を拾い上げると、副団長を狙いぶん投げた。

 副団長はこれも紙一重で回避。しかし地面に激突した瓦礫は四方八方に砕け散る。こっちにまで瓦礫の破片がすっ飛んでくる!


 まじか、無茶苦茶しよる!!


「リン、結界魔法だ」


 アキニレの指示で私も球状結界を張った。

 結界は魔法の基礎だ。どんな魔法使いでも何かしらの結界を会得している。瓦礫の破片くらいならこれで大丈夫だろう。それでもあのゴーレムに直接殴られたら…それはちょっと想像したくないな。

 私はリザードマンの時と比べるといくらか落ち着いていた。無論ゴーレムの方が強敵である。でもリザードマンと比べてゴーレムの方が非動物的というか…無機質と言うか…。敵対するならそういう方がいいのかもしれない。


 ゴーレムが次の瓦礫を持ち上げた。


 フリュウポーチと副団長はとっさにバーナの大盾後方に避難。

 放られた瓦礫がバーナの盾に激突する。砕け散る瓦礫、舞い上がる土煙。そして土煙に乗じてゴーレムの強烈な右ストレート!

 バーナの盾はかろうじてそれも受け止めた! 無茶苦茶な筋肉だ。


「今だっ!!!!!!」


 バーナが叫ぶ。

 盾の後ろに避難していた副団長がいない。彼はいつの間にかゴーレムの背後で双剣を構えていた。無防備な踵に的確な二連撃が入る。ゴーレムは前のめりのままグラリと姿勢を崩した。


「ポーチ、後は頼みました」


 ゴーレムを前にフリュウポーチが大剣を振り上げると、金属と金属がぶつかる鋭い音が響く。彼女はゴーレムの首を大きく切り飛ばした。魔物が仰向けに倒れる勢いを利用したのだ。首を飛ばされたゴーレムは地面に横たわり、動かなくなった。


 三人とも強い…。


 あれだけ大きな魔物をたった三人で倒してしまった。しかも殆ど無傷で。私はとにかくこの冒険者達の働きに驚きを隠せなかった。一方ガーゴファミリーの面々はさっさと倒したゴーレムのドロップアイテムを回収している。

 ダンジョンで魔物を倒した際、魔物は光の粒になって消滅する。しかし一部消えずに残る場合がある。こういった魔物のアイテム(皮膚や角)は強力な武器の素材になったり高値で売れたりするそうだ。

 周囲にはゴーレムのネジやボディが散乱していた。

 中堅冒険者バーナはそれをくまなく改修し、麻のリュックに詰め込んでいる。ちなみにフリュウポーチは副団長の指示で少し先に偵察に行っているようだった。なんというか、三人とも本当に手際がいい。しかもフリュウポーチに至っては新人なのに凄く仕事を任されている…!


 ――凄いなあ…私も見習わなくちゃ。


 バーナが回収を終えた頃、フリュウポーチが戻って来た。


「この先にもゴーレム…少なくとも、四体」


 それを聞いて副団長が眉をひそめた。


「数年前と比べてゴーレムが随分増えていますね。今回は一度撤退した方がいいかもしれません」


 え、まだまだ余裕ありそうなのに。終わってみればゴーレムだって圧勝だった。フリュウポーチもいまいち納得できないようだ。「ムッ」とした顔を副団長に向けている。


「リン君には伝えていませんでしたが、このダンジョンに入った目的はボス個体の討伐ではありません」


「え、違うんですか?」


「はい、それは過去に達成していますから。今回、我々が来たのはこのダンジョンに〝隠しエリア〟があるという情報を掴んだためです」


「隠しエリア…ですか?」


「はい、どのような場所で何が眠っているのかまでは定かではありません。しかし確かな筋の情報です」


 な、なるほど? でもボス個体に挑戦しないのならますます楽勝なのでは? とか素人の私には思えてしまう。そんな疑問を察したかのように副団長は説明を続ける。


「隠しエリアを探索する為、何度も同じ場所を行き来する必要があります。その分危険な魔物とのエンカウントも多くなる事でしょう。以前探索した時と比べゴーレムの数も増えているようです。それらの対策をする必要がありますね」


 な、なるほど…

 副団長は私にも理解できるよう、丁寧に状況を説明してくれた。そういえばお婆ちゃんも「冒険者は絶対に準備を手抜いてはダメだ」と言っていた。魔物と違い、人間は倒れればそれまでである。ここはそういった場所なのだ。

 我々はダンジョンの入り口まで戻って来た。

 アキニレと副団長は次の予定について話し合っている。私はその話の半分も理解できず…かといって聞き逃すのもまずいかなと思い、ひたすら相槌は打った。「フリュウポーチの魔法陣を対ゴーレム用に改造してほしい」とかそんな感じの内容だったと思う。

 それよりも無事に生還できた事への安堵が強い。何だかんだ随分張りつめていたようだ。ダンジョンから出る階段を上がると、空は夕焼け色に染まっていた。本当に長い一日だった。そういえば今朝、司祭服が立っていたのもここだ。結局ダンジョンの中でもあの人と出会う事はなかった。


 ――やはりあれは私の見間違いだったのだろうか。


 うん、そうかもしれない。きっと遠くの樹か何かが人の形に見えただけだ。司祭服の事はもう忘れよう。

 今日は会社に寄る事なくそのまま直帰となった。入社の翌日からなかなかハードな経験だったとは思う。これから私はここで頑張っていけるのだろうか…。正直、今は不安の方が強い…。


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