060_大手ギルド
後方から足音がして私達は振り向いた。私達の後ろには二人組の冒険者が立っている。どちらも三十代くらいの男性で片方はガリガリのノッポ、もう片方は丸々と太っている。ガリガリは三角形の目と尖った口元が印象的で、右手にレイピアを装備していた。レイピアは微かに雷をまとっており、パチパチと紫色の光を放っている。太っちょは黒い鳥をモチーフにしたマスクを被っており、釣竿のような特殊な武器を装備していた。〝魚人の王冠〟を取ったのもコイツの仕業だ。二人を見た団長は憎々しげに声を上げた。
「シラサギ兄弟…!」
団長が二人組を睨みつけるが、二人は悪びれる様子もない。
「お前ら、人様の獲物を横取りするとは何事だ?」
団長の言葉にガリガリの男が口を開いた。
「横取りとは失敬な。ダンジョンではトドメを刺した者が戦利品を獲る。これが暗黙のルールであると認識しているのですが…何か間違っておりますでしょうか?」
「だからそれを横取りだって言ってんだよ!」
団長は自身のアックスを掴んだ。フリュウポーチもそれを止める様子はなく、むしろ背負っていた大剣を奴らの方へと向ける。一方のシラサギ兄弟もドロップアイテムを地面に置くと、再度武器を構え直した。
一触即発、ダンジョン全体に張り詰めた空気が流れる。それを最初に壊したのはウチの姑先輩――ガスタだった。
「団長、我々のために武器を取ってくださることは大変ありがたい。ですがこんな奴らと争うなんて馬鹿げている」
ガスタの言葉を聞いて団長は武器を下ろした。
「ちっ、今回は雇い主に免じて見逃してやる。とっとと失せろ」
「雇い主? ああ、なるほど。今日のお仕事は一般人三人のダンジョンツアーでしたか。小規模ギルドにお似合いの良い仕事じゃありませんか」
ガリガリ男は高笑いを浮かべたままダンジョンを後にした。太っちょの方もドロップアイテムを抱えると、それに続いてダンジョンから消えた。
「団長、今の奴らは?」とガスタ。
「あいつらは冒険者ギルド――アトラスOSに所属するシラサギ兄弟だ。デブが兄貴でノッポが弟だったと思う」
「ああ、適材適所のアトラスOSか」
ガスタが小さく頷いた。
アトラスOSは私でも知っている。この国で最も大きな冒険者ギルドの一つで、伝説の冒険者――アトラス・グランスターが運営を行っている。契約を結ぶ冒険者の数は千二百を超えており、潤沢な人材を活かした〝適材適所〟をギルド理念としていた筈。団長はガスタの言葉を聞くとため息をついた。
「なにが適材適所だ。新人に楽な仕事ばっかり任せるから、現場が偏った人材ばかりになるんだよ。若者には何でもやらして〝基礎と粘り強さ〟を強化すべきだ。適材適所なんてお上品な考え方はその後だろう」
団長が熱弁をふるう。なるほど、アトラスOSとガーゴファミリーでは考え方が正反対なようだ。お婆ちゃんに魔物退治の基礎を徹底的に叩き込まれた身としては、団長の言うことは理解できる。さっきの二人組は調子に乗っている感じが鼻についたし…。そう思っていたら今度はスワローが声を荒げた。
「ああ、むしゃくしゃする!」
いや、彼だけじゃない。モヤモヤを抱えているのは私もガスタも同じ筈だ。パーリーピーポーと姑、そして陰の者…私達三人の気持ちがピタリと重なった瞬間であった。
「皆さん、こうなったら今日はとことん飲みましょう」
そう言ってスワローは腰のベルトに手を当てた。嬉しくても悲しくても、怒っていても人と飲むのが好きな奴だ。まあ腹立たしいのは私も同じだし…今日は付き合ってやってもいいかな…? そう思って彼の方に視線を戻すが――
「あれ、スワローどうしたの?」
騒がしかったスワローが急に黙り込んでしまった。みるみるうちに顔が青ざめていくのが分かる。団長やガスタも彼の異変に気が付いた。騒がしかった場が途端に静まり返る。そして彼はポツリと告げた。
「給料袋…ない」
んん…!?!?
そういえばこの男、今月の給料を布袋に入れてダンジョンへ持って来ていた。
「落としたの!? どこで!?」




