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053_ジャイアント・マーフォク②

「僕に考えがある。三分稼いでほしい」


 ――さ、三分も!?


 ただでさえギリギリで回しているのに、ガスタが抜けたら間に合わない。それに三分耐えれば本当にガスタが形勢を逆転してくれるのか…? 本当に彼を信じてもよいのだろうか…?

 

 そういえば前もこんなことを考えたことがあった。


 怪鳥ヘルフィーブと戦った翌出勤日、通勤中の私は上司――アキニレと出くわした。彼はあの日もいつも通りの寝ぼけ眼だ。


「おはよう、リン。ガスタとのコンビは順調かい?」


 私はつい、バツの悪そうな顔をしてしまう。


「あの人、少し当たりがキツいというか…一緒にやっていけるか、少し不安です」


 ガスタの陰口を言うつもりはなかったのだが、つい言葉が漏れてしまった。怪鳥との戦いのこともあり、疲れていたのかもしれない。


「なるほどねぇ、彼も良い子なんだけどなー」


 ――良い子ではないだろ。


「ちなみにアキニレは…彼のどういう部分が良い子だと思うんですか?」


「ガスタは偏見を持たない」


「偏見…ですか?」


「うん、相手が先輩でも『間違っている』と感じたら抗議する。後輩の意見も『正しい』と感じたら取り入れる。あと冷静で嘘をつかない、話も盛らない」


 う…、それは全て私には無い要素だ。


「ガスタは厳しいけれど信用に足る先輩だよ。それにああ見えて面倒見もいい」


 目の前の男はラスボス――ジャイアント・マーフォクを前にして自身の魔法陣を起動した。あれは通常の起動ではなく、編集モードだ。ガスタはこの土壇場で自身の魔法陣を改造しようとしている。その淡々とした後ろ姿は…ワークツリーで働くいつものガスタだった。


「本当に三分でいいんですね?」


「年上を舐めるな、タスク見積もりは先輩の十八番だ」


 私とスワローはガスタの前に飛び出すと、魚人の攻撃から彼を守った。しかしこの魔物の数はやはりキツイ…。


「ぐわっ!」


 魚人の突撃を受けてスワローが後方へ飛んだ。彼は運動神経も申し分ない…が、戦闘慣れしていない。魚人の無茶苦茶な特攻に呑まれてしまった。

 

 マズイ、陣形が崩れる!


 どうする?


 考えろ!

 

 私は宙に浮くラムスを捕まえると、それを大きく投げ飛ばした。魚人達の注意がチビドラゴンへと逸れる。その隙をついて私は火球を充填した。


「ヴレア・ボール!」


【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】


 かろうじて眼前の魚人を焼き払う。


「この馬鹿者があああああ!!!」


 キレ散らかしたチビドラゴンが戻ってきた。


「アンタも見せ場が欲しいかと思って…」


 それにこのボス戦で最初に狙われたのはラムスだった。あの魚人達からするとこのチビドラゴンは美味しいエサにでも見えているのかもしれない。


「理由になってないわ!」とラムス。


「うるさい! 今忙しいの!!」と私。


スワローが戦闘に復帰したことを確認すると、私もすぐに防御結界を展開する。私達二人はとにかく必死だった。魚人からの攻撃は結界魔法で守り、油断している魚人は火球や投石で攻撃する。


「リン、左から槍を持った奴が来る!」


「分かった、右のやつは素手だから一旦放置で、奥の奴から倒して!!」


「オッケ!!」


 いつの間にか私達は互いに声を掛け合い連携していた。「ガスタを守る」という共通目的が私達の立ち回りを一つの束にまとめ上げている。私は単独行動に走らないよう、ガスタとスワローの立ち位置を何度も確認した。スワローも声のボリュームをワントーン落とし、私の声が聞こえるように配慮している。

 戦況が芳しくないジャイアント・マーフォクは苛立ちを露わにした。そしてまたしても横にいた部下を殴りつける。ラスボスがヒステリックな唸り声を上げる程、魚人達は更に無鉄砲になっていく。奴らは恐怖に支配されているのだ。


「ギィヤァアアアアアア!」


 私達を仕留められない部下魚人に痺れを切らしたのだろう。奴は召喚魔法を更に倍に増やすと、四枚の魔法陣で一斉に召喚を行った。そして魔法陣から十体の魚人が姿を現す。しかも奴らの武器は槍や剣ではない。

 

 遠距離用の弓矢だ。

 

 流石の私も血の気が引く。十体の魚人どもは私達三人に向けて大きく弓を引いた。後ろに控えるラスボスはこの状況にやっと満足したのか、偉そうにふんぞり返っていた。アイツの態度はムカつく。しかし流石にガーゴファミリーへ助けを求めるべきかもしれない。ダンジョンで無理は絶対に禁物だから…。ところが私がヘルプを出すより早く、姑先輩の声がした。


「二人とも時間稼ぎは十分だ」


 ガスタの手元で青色の魔法陣が輝きを放つ。


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