049_魚人と連携
柔らかな日差しに包まれて私はそっと目を開いた。私達五人は長い川のほとりにいるようだ。川幅は五メートル程度、川の両端には青く可愛らしい花がまばらに自生している。「遠くから滝の音がするぞ!」とラムスが騒いだ。前回のダンジョン〝トレント〟が遺跡だったことを考えると、随分とのどかな場所に感じられた。これはダンジョンの難易度が低いためだろうか。
「こんなんでもダンジョンだ。油断すんなよ」
ガーゴファミリーの団長――シュラウが私達に静かに告げた。そうだ、ここはダンジョン。いくら穏やかに見えたとて死と隣り合わせの場所の筈。私は改めて気合を入れ直す。
私たち五人は川に沿って歩を進める。
暫くすると川の方から「ビチビチ」と魚が身体をくねらせる音がした。水中から二体のジャコが飛び出してくる。ジャコは下級の魚魔物だ。あの胡散臭い記者――グローフの連れていた魔物と近い種類だろう。ややグロデスクな外見がそっくりだ。奴らは少しの時間なら魔法で空気中を泳ぎ回る事が出来る。
一匹のジャコが私目掛けて突進してきた。私はすぐに魔導書からヴレア・ボールの魔法陣を起動する。
「ヴレア・ボール」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
真っ赤な火球がジャコどもを襲う。その一撃でジャコはあっけなく倒す事が出来た。まあ私にかかればジャコ程度は問題ない。ややドヤ顔でガスタの方を見るが、この男は私の視線に気が付いた上でわざわざ無視しやがった。後輩を褒められない先輩は三流だと思う。その後もジャコは次々と襲ってきた。
「ウィンディン_ナイフ!」
【ウィンディン・ナイフ_風小刀を放つ魔法】
今度はスワローがジャコを一掃した。私達三人は初心者用の基本魔法を駆使しながら次々と廊下を進んでいく。そう、ここまでは順調だったのだ。
――上流を目指して一時間程度が経過した。索敵に優れた獣人――フリュウポーチが私達の制止するよう促す。少しするとずっと先の陸地に三つの人影が見えた。いや人ではない。
「ギー、ギー…」
明らかにジャコとは異なる声。私達の前に姿を現したのは魚人だった。人間サイズの巨大な魚に人のような手足が付いており、身体はヌメヌメと光っている。三体のうち二体は手ぶらだが、後ろの一匹は槍のような武器を握っていた。普通に気持ち悪い…両腕に鳥肌が立つ。
「ヴレア・ボール!」
私は再度ヴレア・ボールを発動、火球を放って魔物を先制した。しかし炎に巻かれても魚人たちは躊躇わず飛び込んでくる。コイツらに痛覚はないのか!?
「うわっ!」
無防備になった私に代わってガーゴの団長が前へ出る。彼が巨大なアックスで魔物を一刀両断すると魔物は光の粒となって消えた。団長の足元には魚のヒレのようなアイテムがドロップしている。
「あ、ありがとうございます」
「魔法使いは魔法発動後に無防備になる。三人で守り合いながら進みな」
私の様子を見てガスタ、スワローも頷く。が、それがなかなか難しい。次に現れた魚人に対して、今度はスワローが攻撃をしかけた。そして彼は右手をブンブン回してバカでかい声を張り上げる。
「リン、サポートは頼んだ!」
「え、今こっちも手いっぱい! ガスタに頼んでください」
ところがスワローの声が大きすぎて私の声が通らない。ガスタの支援が間に合わず、スワローに魚人の体当たりが被弾した。彼は大きく吹っ飛んでそのままガスタに激突。ガスタは魔法で水球を発射しようとしていたがバランスを崩し転倒した。そして行き場の無くなった水球は私の顔面にめり込む。スイカサイズの水球が私の顔を覆った。
く、苦しい…!
結局団長が魔物にとどめを刺す。ラムスはその様を見て大爆笑しており、益々私の怒りを加速させる。私は水球から顔を引っこ抜くとガスタに噛みついた。
「殺す気ですか!」
「君こそ単独行動が多すぎる。もっと周囲を見ろ」
私の単独行動が多いのではない。ガスタの運動神経が悪すぎて、私達についてこられないのだ! と思ったがそれは流石に言わなかった。だがこんな具合に私達三人が噛み合わない。
――
まあ〝根暗〟と〝姑〟と〝パーリーピーポー〟の三人だ。
会社という形でなければまず出会う筈のない者たち…息が合わないのは当然かもしれない。だが何とかしなければこのダンジョンを攻略することは難しい…。