052_リンvsガスタ
アキニレチームの先輩であるガスタ、この男は日頃からねちっこく姑のような存在感を放っている。しかも昨日、私とアセロラの熱いやり取りを鼻で笑った男だ。 このいけすかない先輩を叩きのめすチャンスが巡って来た。真の決闘である。私とガスタは離れて向かい合った。姑上司ことガスタは意地悪そうに口角をあげる。
「アキニレとダンジョンに行ったんだろ? どんなもんかテストしてやるよ」
集中している私は先輩からの挑発を聞き流した。するとガスタは三日月形の口を益々鋭く尖らせて笑う。
「先輩が話しかけているのに無視するのかね?」
「しゅ、集中してるんです!」
精神攻撃とは本当にヤな奴。彼に抗議しかけたところでミラーが右手を上げた。
「とっとと始めろ」
「は、はい!」
私たちは互いに結界を張ると魔導書を構えた。
先手必勝で魔法陣を起動すると、私の魔導書の上に赤い魔法陣が浮かび上がる。
「ヴレア・ボール!」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
私が手元に三つの火球を呼び出す。一方のガスタは青い魔法陣を起動した
「ウォータン・ボール」
【ウォータン・ボール_水球を放つ魔法】
三つの青い水球がガスタの手元に生成される。先制したいのは私と同じなのだろう。私達は互いの火球、水球を打ち合った。火球と水球は激突すると大きく弾けて相殺する。
「ウォータン・ボール」
ガスタから次の水球が飛んでくる。しかも飛んでくるのは水球だけではない。
「君、この前も勤怠の記入方法に誤りがあったぞ」
「す、すみません!」
「あと以前教えた呪文! 条件分岐のプログラムで何度も同じミスしやがって!! 何回指摘すれば直るんだよ」
「それも、すみませんっ!」
「それから君の昼ご飯…いつもサンドイッチだな。もう少しバリエーションを出しなさいよ。そういうのは人と会話する時の話のタネにもなるんだから…」
「ひ、昼ご飯は私の勝手じゃないですか!」
次々と飛んでくる精神攻撃、私はガスタから距離を取った。これ以上ガスタからの小言を聞いてはいけない。結界の前に私のハートが破壊される。こんなに面倒な戦いを強いられたのは人生で始めてかもしれない。
それなら運動神経で勝負だ。
私は彼の放った水球を私は華麗なステップで回避した。そして火球を叩き込む! 自分で言うのもなんだが見事である。ガスタの結界に火球の衝撃が走る。
「くそっ!」
珍しく余裕のないガスタは、再度攻撃を行う。が、そんな単調な攻撃じゃ私には当たらない。フィジカルが違うのだよ! 花粉怪鳥ヘルフィーブと戦った時から気が付いていたが、ガスタは相当な運動オンチである。猫背だしステップのリズム感が皆無だ。反射神経こそランチュウよりマシだが、あの独特のランニングフォームは誰にも真似できない代物である。そんな奴に次の火球をお見舞いした。
「先輩、猫背が酷いですよー」
「じゃかましいっ」
「もう少し運動した方がいいんじゃありませんかぁ?」
私はいつにも増して調子に乗っていた。ガスタの水球をバク転で回避してみせる。次々と飛んでくる水球を全てアクロバットに避け切ってみせた。「すごっ」アセロラが驚く声が心地よい。そろそろ終わりにしてやろうか。私はバク転をやめて魔導書を構え直す。ところが振り向こうとした時、何か巨大なモノにぶつかった。
「え?」
「ウォータン・プリズン」
【ウォータン・プリズン_水牢を生成する魔法】
ガスタがそう告げた直後、デカい水の塊がスライムのように私を飲み込んだ。
「んん!?」
い、いつの間にこんなモノを!?
結界のおかげで呼吸は出来る。が、結界ごと飲み込まれたせいで、まるで身動きが取れない。しかも上下逆さまなんだが!?
「野ネズミみてーにチョロチョロ動きやがって」
マズイ、あんなに煽って負けたら超カッコ悪いし、ガスタに何を言われるか分かったもんじゃない。私はスカートがめくれないよう押さえつつ、何とか水から逃れようと身体を捻ってみる。ところがガスタは油断も隙もなく…淡々と魔法を発動した。
「ウォータン・ボール」
「ウォータン・ボール」
「ウォータン・ボール」
殺意の籠った水球が九発…
「ちょっ、待ってください先輩!」
「待たねーよ、全弾発射」
「きゃぁああああああああ!」
結界が壊された。私の負けである…。
しかも私と水を隔てていた結界がなくなったので、頭からつま先までずぶ濡れになった。水牢が解除され私は地面にベシャッと落とされる。そんな私を前にして意地の悪そうなガスタがしゃがみこんだ。
「で、後輩…誰が猫背で運動不足だって?」
「え、あ、いや…」
私が口をパクパクするのを見て満足したのか、奴はケラケラ笑いながら本社の方へと戻っていった。ち、ちくしょう、絶対復讐してやる。
その後も何試合か繰り返し、定時になる頃にはクタクタに疲れた。へたれ込んでいる私達の前で、ミラーが淡々と今日の総評を行っている。
「前線に立つのはリン、スワロー、ガスタがいいな」
「僕もっすか?」
ガスタがやや不満そうな表情を見せた。この男は私との一戦以外は全部適当に流してやがった。スワローにも負けていたし…。仕事を放棄するために手を抜くとは見上げたプロ根性である。まあ本人には言わないでおくが。
「自身の身を守れそうな奴は取り敢えず前線だ」とミラー。
「ひでぇ……」
流石のガスタも唖然としていた。
「なお前線組となった三人は明後日、戦闘研修としてダンジョンへ行ってもらう」
またダンジョン!?
「この前リンとアキニレが行った場所とは異なるダンジョンだ。ガーゴファミリーも同行するから命の危険は小さい」
命の危険は〝小さい〟ではなく〝無い〟方が良かったのだが…。せっかく安全な仕事にありつけたと思ったが…現実はそう甘くない様だ。まあ言っても仕方ないか…これが社会人だ。




