045_アセロラvsランチュウ
「スロトン!!!」
黒歴史を回想した私はスワローに勢いよく投石を行った。
自分でも驚く程の威力。私の投げた石は風壁をもろともせずスワローの結界に直撃した。
「嘘だろ!?」
スワローの叫び声がこだまする。彼の結界はまだ形状を保っている。が、その威力に驚いたのか、彼は【向かい風を生成する魔法】を解除してしまった。
そうだ、勝負の世界では慌ててはいけない。先に冷静さを取り戻したのは私の方だった。私は赤い魔法陣を起動するとスワローに向けて魔法を放った。
「ヴレア・ボール!」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
火球が連続でスワローを襲い、今度こそスワローの結界を破壊した。これにてゲームセットである。
「ちくしょう、俺の負けだ!」
爽やかに敗北宣言をするスワロー。彼がパーリーピーポーというだけで、スワローと自分の過去を随分と結びつけてしまった。少し失礼だったかも…という自覚はある。まあ彼からBBQを誘われても暫くは参加を見送る方針でいるが。
そしてミラーが次の対戦カードを読み上げる。
「次はアセロラ、ランチュウ、前に来い」
本当にアセロラを戦わせるのか…しかも相手はあの陰湿なランチュウだ。奴は根暗なくせに我は強い…どんな手を使ってくるか分かったものじゃない。代われるものなら代わってあげたい。
アセロラとランチュウは向かい合って魔導書を構えた。アセロラは緊張した様子で一言も発さない。一方のランチュウは魔導書の他に杖まで握っている。杖は魔法発動の補助ツールとして用いられる道具だ。魔力の導線確保が出来る為、複雑な魔法を扱う時に重宝される。そんな物を持ち出すなんて…奴は何を考えているのだ。
「始めろ」
ミラーの合図で二人は同時に結界魔法を唱えた。オレンジ色の球状決壊が両者それぞれを包み込む。先制したのはアセロラだ。
「ヴレア・ボールッ」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
三発の火球がランチュウを襲う。
「ふん、ウォータン・ウォール」
【ウォータン・ウォール_水壁を生成する魔法】
ランチュウは水壁生成の魔法を唱えて彼女の火球に備える。ところが一歩魔法の発動が間に合わず、火球は全弾ランチュウの結界を直撃した。亀裂が入る結界。
いいぞ、アセロラ! これはチャンスだ!!
「ザンデ・アロー!」
【ザンデ・アロー_雷矢を放つ魔法】
アセロラは次に雷属性の魔法を発動した。水は電気を通す。水の壁に対して雷の矢を放つのは正しい選択だ。しかも私のアドバイス通り魔法のバリエーションを増やしてきた。流石! 優等生は違う!! ところがランチュウも新しい魔法陣を起動する。
「アーズラ・シールド」
【アーズラ・シールド_土盾を生成する魔法】
オレンジ色の魔法陣が輝きを増す。なるほど…土の盾なら雷は通さない。相性を加味して魔法を発動しているのはランチュウも同じ。
ところがランチュウの魔法発動は一歩間に合わず、雷の矢はランチュウの結界を貫いた。そしてワンテンポ遅れて、今更土の盾が生成される…。木端微塵に砕け散るランチュウの結界。
――え、これで終わり…?
「か、勝ったの?」
アセロラからも間抜けな声が漏れた。ランチュウは無言のまま、自身の魔導書に視線を落としていた。私達も呆気に取られていた。
「これだから戦闘は嫌いダ」
ランチュウはそう溢すと本社の方へと戻ってしまった。私の前を通り過ぎる瞬間、彼と目が合ってしまった。
多分…睨まれた。
私はギョッとしてランチュウの方を見返すが、彼はすでに歩いて行ってしまった。棚卸しの時も然り、どうしてランチュウは私に対抗心を燃やしてくるのだろうか。彼は学校を首席で卒業するエリートだし、私達の中で唯一魔法道具の制作経験もある。勿論私より頭だっていいから、このワークツリーの業務で私が彼に勝っているモノなんて殆どないような気がするのだが……。
ミラーはそんなランチュウには一切触れず、淡々と次の対戦カードを発表した。
「次は…ガスタとリン」
「え、私またですか?」
私は慌てて立ち上がる。しかし心の内側では小さな期待が膨らみ、メラメラと熱いモノが滾っていた。アキニレチームの先輩であるガスタ、この男は日頃からねちっこく姑のような存在感を放っている。しかも昨日、私とアセロラの熱いやり取りを鼻で笑った男だ。
フフフ、このいけすかない先輩を叩きのめすチャンスが巡って来た。