047_同期の二人
「俺が取るよ」
後ろから手が伸びて、私の取れなかった本を易々と掴んだ。男性の新入社員――スワローである。ちゃんと話したのは初めてかもしれない。
暗緑色の髪を短めのツーブロックにして前髪をかき上げている。そして白シャツに紺色のジャケット。ちなみにジャケット越しでも分かるくらい肩幅が広くて、典型的なスポーツマンって感じだ。
「あ、お願い致します」
私はガチガチの敬語で返答してしまった。人を見た目で判断するのは良くないが見るからに明るく爽やかな好青年。まさに陽の者って感じのヘアスタイル。根暗な私としては、正直こういうタイプはあまり得意ではない。最初の距離感を誤ると謎のバーベキューに連れていかれたり、謎のスポーツチームに加入させられたりしそうだ。
「リン、突然だがバーベキューに興味ないか?」
うわ、本当に誘われた。
「と、唐突ですね…」
「だからこそ…だからこそだよ! 皆と仲良くなるにはまずバーベキュー!!」
「は、はあ…」
「ちなみに俺はトランが地元なんだけど、リンは何処から来たの?」
「あー、私はもっと北の方からです」
「なるほど、寒い地域ではどんなバーベキューをするんだ?」
「いや、バーベキューは基本しないかと…」
「それは勿体ない! だからこそリンはバーベキューをすべきだ!」
やばい、想像以上のバーベキュー男である。
会話が全部バーベキューに繋がっていく…
「そういえばリンとアセロラって前から友達だったりする?」
「いや、入社式で初めて会いまし…会ったよ」
「へえ、そりゃあ凄いな!」
「な、何がです?」
「既に息ピッタリで尊敬するわ」
「そ、そうかな…?」
「既にバーベキューもやってる感じ?」
「いや、やってないです」
でも彼からそんな事を言われるなんて意外だった。コミュ力についてなら…スワローの方が私の数倍はありそうなのに。
「うちの班はなかなかランチュウが心を開いてくれなくてさ」
「ランチュウ…?」
ランチュウはもう一人の新入社員である。今は壁際のところでずっと杖の数を数えている。
少し暗めの水色髪が特徴的なヤツだ。丸メガネでワンピースみたいな変わった服を着ている。初日にアセロラが尋ねたところ「チャンパオっていう故郷の服をアレンジしたモノ」と答えていた。私から見てもランチュウはあまり明るい印象はない。猫背だし、昼休憩中はずっと本を読んでいる。まあ空き時間を一人で過ごしたい気持ちは分からなくもないけど。(私はつい皆に合わせてしまうタイプだ。)
「リン、入社前に魔法の学力テストがあっただろ? ランチュウは満点通過だってウチの班長が言ってたよ」
「え、すご…私なんて六割も取れてたか怪しいのに」
「学生時代は魔法道具を専攻していた上に首席だったそうだ」
「なるほど…確かに頭が良さそうだ」
私は改めてランチュウの方を見た。彼は一人で淡々と作業を進めている。どうやら魔導書探しは私達に任せ、杖の点検を行なっているようだ。気が付かない間にリストにいくつかチェックが入っていた。スワローがそんなランチュウの背に声を掛ける。
「ランチュウ、お前もこっちで作業しようぜ。進捗は共有しないと」
しかしランチュウはこちらを見るとギュッと眉に皺を寄せた。
「断ル。そっちのテーブルは狭いから、むしろ効率が悪イ」
「お前も親睦を深めようぜー」とスワロー。
「無駄を積む趣味はなイ」
なるほど、なかなかの強敵である。「な?」という顔を向けてくるスワロー。確かに協調性は高くないのかもしれない。
「地元のスポーツクラブにも誘ったし、バーベキューに連れて行こうともしたんだよ。だけど全部断られちまって……」
――それは、そう。
私でもその誘いは断る。スワローの地元のスポーツクラブに突然ぶち込まれて、彼のツレと何を話せって言うのだ。少なくとも私は無理だし休日くらいは休ませてほしい。「やれやれ、どうしたものか」と首を振るスワロー…どうやら彼は私やランチュウのような影の者の気持ちを全く理解できないようだ。
ランチュウに共感出来なくもない私…それとなく彼のフォローを入れることにした。
「ま、まあまあ、ランチュウも悪意があるわけじゃないんだし」
しかし私がそう告げた直後、スワローではなくランチュウが口を開いた。
「黙レ」
――ええ!? 私、フォローしたのに!
怒りというより、驚きが勝っている。アセロラも同じように口をぽかんと開けていた。
「なんてこと言うんだ、ランチュウ!」
スワローが真っ先にランチュウを??責した。しかしランチュウは悪びれる様子もなく私を睨みつける。
「リン・ツインラ…お前には負けなイ」
――名指しで!?
ランチュウはそれだけ告げるとそっぽを向いて棚卸し作業へと戻ってしまった。一方のスワローはカンカンに怒っており、その後も終始ランチュウへと噛みついていた。本当に水と油みたいな二人。
それにしても何故ランチュウは私を名指しで宣戦布告したのだろうか。彼を刺激するような事をした覚えはないのだが…。
私たちが揉めている様子をガスタがニヤニヤしながら見守っていた。




