044_結界決闘
「リン、これから時間あったりする?」
珍しく目が泳いでいる。
――そして私達はワークツリー前の空き地で向かい合った。
「アセロラ、じゃあ模擬戦前の模擬戦といこうか」
「う、うん!」
「「スフィリア・バリア」」
【スフィリア・バリア_球状の結界魔法】
私達は互いに球状結界を張る。私を包み込むように半径一メートル、オレンジ色の球状結界が生成された。アセロラも同様だ。結界決闘は互いに結界を張った状態で戦闘を行い、相手の結界を壊した方が勝ち。メジャーな決闘方法でプロスポーツもある。
私達は互いに魔導書を構える。先手を取ったのはアセロラだ。
「ヴレア・ボール!」
【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】
私もよく使う火属性の初級魔法、三発の火球が私目掛けて飛んできた。
「ほっ!!」
火球は回避できないスピードじゃない。私は体を捻りながら攻撃を避ける。そして地面に手を着いた際、落ちていた石ころを拾い上げた。
「スロトン!」
【スロトン_投石加速の魔法】
私が最も信頼している土属性の初級魔法である。私は学生時代、この魔法で学年トップクラスの戦績を積み上げ続けてきた。石の礫は勢いよく加速してアセロラの結界にぶつかる。結界に対して微かだがヒビが入った。
「うわっ!」
アセロラはヒビの入った箇所が後ろになるように身体の向きを変えると、もう一枚の魔法陣を起動した
「ヴレア・アロー!」
【ヴレア・アロー_火矢を放つ魔法】
炎で構成された矢が私に向けて真っ直ぐ飛んでくる。火球よりも速い!
だが甘い!! こういう場合は肉を切らせて骨を断つ。私は炎の矢を結界で受けると同時に二つ目の投石を行った。
「スロトン!!」
【スロトン_投石加速の魔法】
今度は強烈な右回転をかける。石の礫は大きく弧を描き、アセロラの結界に命中。しかもただの被弾ではない。一発目の投石と全く同じ位置にぶつけた。
「え、嘘!?」
アセロラが振り向くと同時に彼女の結界が壊れ、バラバラに散る。結界は一部でも破損するとその姿を保つことができなくなる。これで私の勝ちだ。
「その投石ってカーブボールとかも投げられるの!?」
アセロラが駆け寄ってくる。
「この魔法は知り尽くしているから、戦闘中に簡単な魔法陣の書き換えもできるよ。回転とか加速の大きさならすぐ変更できるかな」
それを聞いた彼女は目を丸くする。
「リンって本当に強かったんだね…私は前線に送り込まれたらお終いだよ」
「ははは、流石のミラーでもそんな事は…しない筈」
「なんかアドバイスとかある?」
不安げな表情のアセロラに戦闘でのアドバイスを求められた。普段彼女には世話になりっぱなしだし、情けないところばかり見せている。だからこそアセロラに頼られたことは素直に嬉しかった。しかも結界決闘ならそれなりに強いという自負がある。
「じゃあまず基本についてだけど……」
私は延々と話した…。
最初こそ「戦闘中は棒立ちにならない事」とか「アセロラ自身が火属性だから火属性魔法を使うのはいいと思うが、魔法のチョイスが単調。バリエーションを出す事」などとアドバイスじみていた。しかし段々と喋りに熱が入り、必要のない自分語りもした気がする。クソみたいに小さな田舎での武勇伝(私が結界決闘で先輩を倒した話や、野生のオークを撃退した話)やお婆ちゃんとの修行の日々が辛かったことなど。アセロラは最後まで良い聞き手でいてくれた。が、今思い返すと会話の節々でポカンと口を開けていた気がする……。
――あああああ、恥ずかしい!!!
これだから陰の者は調子に乗せてはいけないのだ。普段口数が少ない癖に自己顕示欲だけは人一倍。だからこういうところでミスをする!!!
いや、一度私の後悔は横に置いておこう。
私の長話を乗り越えた後も彼女の表情は曇ったままだった。そりゃあいきなり「戦え」って言う方が無茶である。今まで殆ど戦ったことのない者は不安にもなるだろう。私は彼女の手を強く握りしめた。
「大丈夫…アセロラは、私が守る!」
「リ、リン!」
私史上最大のイケメンムーブ。彼女をひしと抱きしめるそぶりをする私。(恥ずかしいので本当に抱きしめる事は出来ないが)その後ろを通りかかった先輩社員――ガスタが「アホらし」とだけ呟いて帰宅していった。(定時上がり)
――は!?!?
何でわざわざそういうことを言うかな! あの先輩は本当に嫌な奴である。もし明日の模擬戦で戦うことがあればボコボコにしてやる。絶対にやってやる。私はガスタに対して密かに怒りの炎を燃やすのであった。