041_フリー記者のグローフ
時計を見ると既に十九時半。本日の業務はスイーツ店――アップルジャムの前で終了、そのまま直帰する事となった。夕暮れの街を歩き、ふと後ろを見ると私の少し後ろにフリュウポーチがいた。
「あれ、アナタの家もこっちなの?」
「ああ…そうだな」
「そ、そっか」
二人横並びで歩く…彼女の大剣が地面に大きなシルエットを落としている。フリュウポーチは横から見ても凛と整った顔をしていた。私も彼女みたいに堂々と出来たらいいんだろうなあ。私はいつも沈黙が怖くて、喋りたくもない話題を必死こいて搾り出している。まあ社会人ならそういう部分も必要なんだろうけど…。
「あ、あの…どうしてフリュウポーチは冒険者になったんですか?」
「金払いがいい」
「そ、そっか」
フリュウポーチは間髪入れずに返答した。確かに優秀な冒険者はお金になる。ただ第一声がお金って、何かよっぽどお金が必要な理由でもあるのだろうか。例えば病気の家族がいるとか…。気にならないといえば?になるが、そういった部分まで踏み込むのはルール違反な気がする。しかしこのままじゃまたあの沈黙が生まれてしまう。私が一人で葛藤していると彼女の方から口を開いた。
「魔物と倒してお金を稼ぐ…。そしてギャンブルで更に金を増やして、美味しいご飯を買う。人間にこれ以上の幸せはない」
「お、おう…」
私は彼女のペースをまだ掴みあぐねているようだ。
私達は来た道を逆に辿っていた。駅前はまだ閑散としており…殆ど人がいない。それもそうか、まだ花粉怪鳥討伐の新聞すら発行されていないのだ。私達が歩く音が駅前広場にコツコツと響く。
「すみません、少しお時間いいですか?」
突然呼び止められた。私はびっくりしてやや大袈裟に振り向く。
ワイシャツ姿の男性が私達に向けて和やかに手を振っていた。年齢は私より少し上だろうか。白いシャツの上から黒いサスペンダーを装着しており、髪はカジュアル寄りの七三分け。イントでは珍しい真っ黒な髪と瞳が印象的だった。
「な、何か御用でしょうか?」
普通に人見知りが発動…私はやや上擦った声で尋ねる。
「おっとこれは失礼、私はしがないフリーの記者です」
「記者…?」
「はい、この度の怪鳥ヘルフィーブ討伐について情報を集めておりまして…少しだけお時間いただけませんでしょうか?」
「え、えっと、少しですか?」
「はい、ほんの数分で構いません」
ところが――
「いや…時間は…ない」
フリュウポーチが私と記者の間に入り込んだ。物事への執着が薄い彼女にしてはやや強引な展開である。不思議に思って彼女の方を見ると、フリュウポーチの顔にはいつもと異なる緊張感があった。それでも記者は顔色一つ変えずに淡々と続ける。
「一分程度で構いません。魔物が討伐された後の駅の状況について、実際に駅周辺を歩いている人の視点で話していただきたいのです」
「ダメだ…」
フリュウポーチはそう言うと腰の大剣を下ろした。カバーこそ付いているが、その剣先は明らかに記者の方を向いている。
「え、ちょっと何考えてるの!?」
私は慌ててフリュウポーチを止めようとした。しかし彼女はその大剣を勢いよく振り下ろす。
ゴンッ
鈍い音が響いて…私は咄嗟に目を瞑った。恐る恐る彼女を確認すると――
フリュウポーチの大剣は彼ではなく、横の茂みを叩いていた。そして茂みの中から「ギャオオ…」と何かが喚くような音がした。
「これを…見ろ」
彼女は茂みに手を突っ込むと…何かを引きずり出す。魚の魔物である。ややグロデスクな外観で中央に大きな目玉が一つだけ付いている。魔物は尾ビレの付け根をフリュウポーチに掴まれ「ギャアギャア」と威嚇していた。いや、そんな事はどうでもいい…。
――私達はその魔物に見覚えがあった。
以前ガーゴファミリーと訪れたダンジョンの〝隠しエリア〟で遭遇した魔物だ。隠しエリアの中に一匹だけこの魔物が潜んでいた。




