鮫旋砕
「私が証明する。あのドラゴンを使って」
――どうせ普通にやっても勝てないのだ。一か八かに賭けてみようではないか。
作戦開始だ。私はドラゴンを引きつけ、廃村中を走る。廃家の屋根に登り、壁を盾にして逃げ惑った。とにかく上下運動を増やせ、相手を慣れさせるな。
「ガァア!」
しかし廃家は次々と潰されていく。ドラゴンは馬鹿な生き物じゃない。私を袋小路に追い詰めようとしているのか。それでも私は廃家や倉庫を転々としながら、村の奥に向かって移動した。
――ある意味、私とドラゴンの思惑は一致していたのだ。
そして村の奥、私は大きな風車小屋にたどり着いた。勿論風車は止まっており、羽根はボロボロに風化している。しかし小屋としての形は保っており、物見やぐらに次いで大きな建物だった。
「ここで…勝負を決める」
ドラゴンは大きな翼で飛翔すると、風車小屋の上に降り立った。完全に上を取られた形だが…これでいい。この距離感が欲しかった。
「ラコルン!」
私の声に応えて、風車小屋からドワーフが飛び出してきた。私達とドラゴンが対峙する。彼女は魔物の位置を確認すると、大きなハンマーを握る手に力を込めた。私とラコルンの作戦は至ってシンプル。私が適切な場所に魔物を引き付けて、ラコルンがハンマーを投げて仕留める。数分前、私は彼女に作戦を共有した。
「ドラゴンは私達を舐めている。というか舐めざるを得ない状況なの」
「どういうことすか?」
「シンプルに私達の攻撃力が低いから、ドラゴン側は負け筋がない。証拠に奴は私たちの攻撃から身を守ろうとしてない」
「た、確かにっす」
「ならそれを利用するしかない。良い位置から、今の最強攻撃を撃ち込むだけ。防御される可能性も、耐えられた場合のことも考えない」
「ぎゃ、ギャンブラーすね」
「他に…ないでしょ?」
そして何とか…ポジションを確保するところまできた。だが、既に殆どの廃家が潰されている。次の攻撃が私とラコルンの運命を決めるのだ。
彼女はハンマーを構えると、自分を軸にして、勢いよく回転を始めた。これがドワーフに代々伝わる攻撃技。グルグルアタック改め――
「喰らえ、コウセンサイっす!!」
≪鮫旋砕_ドワーフ式・ハンマーの回転アッパー≫
それだけじゃない、両手でハンマーを握っていたラコルンは、右手をこっちに差し出して叫んだ。
「リン氏!!!」
「よし!」
私と彼女のハイタッチ…手と手が触れた瞬間、私は十八番の魔法を発動する。
「スロトン・ハンマーヘッド!」
【スロトン_投石強化の魔法】
≪スロトン・ハンマーヘッド_投石強化の魔法+鮫旋砕≫
ラコルンを通して、私の魔力がハンマーのヘッド部分へと流れる。タイミングはドンピシャ。投石強化の魔法を使い、金属のヘッド部分を爆発的に加速させる。木製の柄が折れ、ハンマーヘッドが勢いよく撃ち出された! 私達は同時に叫ぶ!!
「「いっけぇえええ!!!」」
「ガァア!?」
魔物は唸り声を上げ、初めて私らの攻撃を回避しようとする…が、手遅れだった。一メートル以上ある巨大なハンマーヘッド…それがドラゴンの頭を貫く。そしてバランスを崩した胴体は、轟音と共に地面に落下した。頭と胴体は光の粒となって消滅、駆け寄るとその場所にはドロップアイテム――〝竜の牙〟が落ちていた。
――勝った、らしい。
まず一発勝負で、敵に攻撃が当たったことがミラクル。それに私の魔法も、こんな風に使うのは初めてで、ラコルン経由でちゃんと発動するか怪しかった。もっと言えば、巨大なハンマーヘッドが、〝石の礫〟として魔法に認識されるかも賭けだった。無論、呪文の設定は出来る限り書き換えたが、テストなしの本番は心臓に悪すぎる。
まあラコルンの技は、本当に洗練されたものだったし、【投石強化の魔法】の魔法も、この世で一番詳しいのは私か、お婆ちゃん。そういう点では、全部が運ではなない…とも思う。
――とにかく…生き残った。
ラコルンはすぐに飛ばしたハンマーを回収しにいった。ドラゴンが光の粒となって消滅したため血は付着していない。銀灰色のそれは鈍い輝きを放っていた。
「鮫のマークが掘られているの?」
「ああ、ウチの銘印みたいなもんすね」
ハンマーヘッドを圧縮魔法のリュックに戻す彼女。その手つきはとても丁寧で、私は思わず笑みがこぼれた。それに気が付いたラコルンもはにかみを返す。
「まさかドワーフの技が、あんな風に生まれ変わるなんて…全く思いつかなかったっすよ」
「ラコルンは、ラコルンの手札で…なりたい者になったらいいよ」
「…すね」
こうして私達はドラゴンの討伐に成功した。だが、これはダンジョン内の小さな戦いが一つ終わったに過ぎない。私達をこのダンジョンに閉じ込めたのは、明らかにアトラス・グランスター。奴は何を企んでいるのだろうか。




