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277_採用面接

 彼女は自身のリュックにかけられた圧縮魔法を解除、巨大なハンマーを取り出す。そしてドラゴンの方を向いたまま、ハッキリと告げた。


「一緒に働いた奴は家族! そこには時間も立場もないっす」


 ――アットホームな職場ってやつだ!!!


 私とラコルンは互いに別方向へと飛び出した。最初にドラゴンが反応したのは、ラコルンの方だ。私は魔導書を開き、一枚の魔法陣を起動する。


「ヴレア・ボール!」


【ヴレア・ボール_火球を放つ魔法】


 三発の火球が魔物に被弾。的がでかいので当てること自体は問題ない。だが、効いた素振りはない。やはりドラゴンは…規格外の肉体。


「まだまだ、ヴレア・ボール×3」


 九発の火球による怒涛のラッシュ。竜の背から後頭部にかけて次々と攻撃がヒットする。そして遂にドラゴンの視線がこちらに動いた。


 ――き、きた!


 私は全力で逃走を図る。そして今度はラコルンが、魔物相手に魔法を放つ。こうやって、アセロラから距離を離すしかない。私は廃家の屋根から屋根へと飛び移り、時に家中に隠れてドラゴンを攪乱した。襲われた場所がこの廃村でなければ、既に「パクッ」とされていただろう。


「でも、かなり消耗が…早い」


 大して走ってないのに、息が上がっている。敵の放つプレッシャーは、過去の魔物の比でない。クソ、魔物相手にここまで緊張するのは久しぶりだ。こんな時こそ、落ち着くべきなのに…。私は額の汗を両手で拭い、天井から飛びおりる。

 

「ガォオオオ!」

 数コンマ後、廃家はドラゴンの体当たりで押しつぶされた。一歩判断を誤れば、私がペシャンコになる! いや、こんな時こそ落ち着け!! 何度も自分に言い聞かせた。私は人間関係こそ緊張するが、魔物相手には冷静さを保てる人間のはず。


 --そうだ、こんなの社会のプレッシャーに比べたら大したことない。


 ワークツリーの採用面接を思い出せ。あの時の方が遥かに緊張していただろう。私は社長を前にして、ガチガチに固まっていた。

 去年の秋ごろ、ワークツリーの応接室の椅子に社長が腰かけている。年齢は五十代くらい、兄のシュラウと同様、やや小太りな体格だ。しかしダークカラーのスーツにはシワ一つない。私の服装、大丈夫かな…。ああ、緊張する要素がまた一つ増えた。


「こ、こんにびば! じゃなくて、し、しし失礼致します」


「大丈夫? 結構緊張してる?」


「い、いえ、あ、いやはい、その…」


 イエスかノーかはっきりしろ! と言いたいが、そもそも頭が回っていない。自分でも判断しかねているのだ。社長は少しからかうようなニュアンスで、私の発言を引き継いだ。


「緊張、してるね?」


「す、すみませんっ!」


「謝らなくていいのよ。俺の名はマンタ。今日の朝食は目玉焼き。ケチャップをかけようとしたら、塩派の妻とケンカになった」


「…は、はい?」


「君の朝食は?」


「え、えっと…」


「パンと…ジャム、です」


「ジャムは何味だったのかね? 旬はイチジクや梨かな」


「えっとイチジクです。お婆ちゃんの自家製で…」


「いいね、その調子だ。そうやって君のことを教えてくれたらいい」


「は、はひ!」


 マンタ社長は大きな口で微笑みかけると、自分の手のひらを差し出してきた。


「緊張している時、手に自分の名前を書いて呑むといい…なんてジンクスがあるね。けど、僕はあれ、信じてないの」


「え、ゆ、有名なやつ…ですよね?」


 というか私…それ三分前にやったのだが。当然、口が裂けても言わないけど。


「緊張している時、見るべきは自分の手じゃない。相手だ」


「…相手」


「離すのが苦手なら、最初は相手にしゃべって貰えばいい。そして相手が開示した情報と、同じくらいのことを返す。さっきの朝食の話みたいにね」


「な、なるほど…」


「僕はそれこそが〝会話の核〟だと思う」


 あの時のマンタ社長の話は実に印象的だった。そうだ、緊張している時は相手を見るのだ。私はコンパクトに振り向くと、後方のドラゴンを視界に入れた。敵の巨大な頭がこちらに向かって迫ってくる。



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