6話 登録
朝、起きるとミアとルナが僕にしがみ付いて眠っていた。
昨日、身体をお湯を使って拭き上げたのだが、いつもの獣しゅう的な感じが大分変った。
まあ、そんなに嫌な匂いでは無いんだけど、やはり衛生的に考えるとなるべく綺麗にはしておきたい。
しかし、着替えについて、2人は村から出る時には、ちゃんと数枚の替えは準備してあった。 その衣類がちょっと質が悪くダサいのはともかく。
だけど、僕はあの肝試しに出かけた時から変わっていない。
裸になる訳にはいかないとはいえ、思った以上に服装はともかく、下着を着続けているので、2人よりも衛生的に言えば、汚い。
そんな僕のシャツに気持ち良さそうに眠る2人を見ると、申し訳なさがいっぱいになる。
とりあえず、これまでの衣類を洗濯するために、今日は衣類を、僕の下着を数枚取り揃えておこうと心に決めた。
それから、僕が起き上がると、すぐに2人も起きたので、僕はまたお湯を貰って顔と髪の毛の手入れを行う。 僕を真似て2人にもやって欲しかったが、どうやら僕にして欲しいようなので、手間だが僕が顔と髪の毛の手入れを行う事に。
それが終わる頃に、宿の店員さんが朝食を部屋に持って来てくれた。
その時に、宿で洗濯をさせて欲しいと聞くと、お金を出せば代わりにやってくれると言うが、なるべく節約するのは今の状況ではおかしくはないはず。
後で、洗濯を自分でやらせてもらう事を取り付ける事はできた。
朝ご飯を食べた僕らは、今度は衣服のお店に向かう。
冒険者ギルド側の区画の通りにその店はあった。
わりと似たお店は多い。
ただ、この中にもブランドものから安価なものと扱いが違うのは何となく察する事ができる。
僕のプランでは、2日後の素材のお金で余裕がありそうなら、冒険者に相応しい服装を新調しようと考えている。
それは、ある意味妥協する気はないのだが、今回は違う。
取り合えず着替えようの下着と、町で着る用の物だが、今の僕らは少し浮いている。
僕の服装は、上着は、夏とは言え夜に対応させた長袖で、ズボンも肌を晒さない程度の布地は薄い長ズボンである。 スニーカーは、しばらくは良いだろうが、靴下は数枚欲しい。 もし、夜で無かったら、僕はわりとヤバイ恰好だったかもしれない。
ぱっと見は外観はこの世界でも浮いてはいないが、だいぶ汚れが目立ってきたし、どうせならこの世界の衣類で統一しておくのが良いと思ったのだ。
そして、ミアとルナは、さすがに下着もだが、衣類がダサい。
ただ、何か着ていればいいだろ的で、デザインもあったものではない。
所どころに継ぎ接ぎしてるとこもあるし、あの村では大事に使っていたのだろうけど、この町ではある意味目についてしまう。
一応、着替え分はあるので、それぞれ使い回して徐々に汚れていったのだろうが、それでも僕の服のがマシに見えてしまうという。
僕は、2人を連れて、女性物の服を飾ってある店に入った。 まあ、見た感じ高そうな雰囲気ではなかった。
僕が店に入ると女性の店員がすぐに声をかけてくれる。
「あの、この子達の下着と、町で着る用の服を見繕って欲しいのですが。」
「あらあら、可愛い子ですね。 ご予算はどのくらいで揃えましょう?」
「僕も服と、下着と靴下と、買いたいものあるんで、なるべく安く済ませたいところではあるんですが、あの金貨1枚で見繕って貰えますか?」
「金貨! そんなに頂けなくてもそれなりに揃えられますし、男性の物も取り扱ってますので、こちらで選んではどうでしょう?」
どうやら、金貨1枚あれば余裕で衣類は揃えられそうである。
「じゃあ、僕は自分の物を選んでますので、2人の物を頼んでも良いでしょうか?」
「はい。 それでは、お嬢さん達はこちらへ。」
店内に入って不安そうな2人の頭を僕は撫でてやって、店員さんにお任せする事ににした。
2人が僕の所に戻るまでに、僕は自分の衣類をそれぞれ手に持っていた。 取り合えず3セットほど買っておけばいいだろ。 しっかりとした物は素材のお金で余裕ができてからだ。
店員さんは僕の買い物を見て、2人の品を選んでいるようで、決まるとぱぱっと見繕ってくれた。
店員に連れられた2人は、お揃いの町にいるようなお洒落な服に着替えていた。 元の素材が良いのでより良く見えてしまうのはしょうがないだろう。
「えっと、こちらの品と。 お2人の好みの下着を5セットほど、靴下と靴をご用意させて貰いました。」
僕は、その手際に満足した。
「どうもありがとう。 あと、衣類をまとめて入れれる大き目のカバン、リュック的な物はありますか?」
「お客様は、旅行をされるような方ですか?」
それに、僕は頷いた。
店員から案内されて、紹介された品は、まあ大き目の革製のリュック。 しっかりとして、僕が希望している条件には沿っているが、高そうだ。
「えっとこれいくらするんでしょう?」
「はい、うちの自慢の品でして、1つ2000ギルとなっております。」
「2000ギル。 ギルって何だ? あと、3つ欲しかったんだけど。」
「ギルは、一般的に言われてるお金の名称で正確にはギルトとかギルティとかで言われてますが、この国ではギルで愛着してます。」
店員さんは、僕のさりげない言葉をにこやかに説明してくれ、はふ~と深呼吸した。
「この商品を3つも買ってくれるんですか!?」
凄い顔で言って来たので、僕はちょっと驚いた。
「いえ、予算の都合もありますんで、衣類のお金もありますから。」
「えっと、では、今回のお会計全部まとめて15000ギルで! どうでしょう!?」
相変わらず、凄い顔で訴えてきたので、僕は少し考えてみる。
金貨1枚で頼んで、僕の買い物に併せて2人の品を選んでたので、10000ギルで金貨1枚といった所だろうか、なら、ここで決めてしまうのが良い。
僕はポケットに手を差し込み、そこで金貨を2枚をストレージから取り出す。
「じゃあ、これで清算お願いします。」
「はい、はい! お買い上げありがとうございます!」
僕から金貨を受け取ると、凄い上機嫌でレジの方へ。
僕は失笑してしまうが、ミアとルナはそれを見てキョトンとしているのだった。
買い物を終え、店内を出る。 先ほど買ったリュックにそれぞれの買った物を入れるが、当然まだまだ入れる余裕はある。 それを持って宿屋の方へ帰るのだが、店員さんが僕達がかなり離れるまで、頭を下げてたので、なんかこそばゆかった。
僕に並んで歩くミアとルナを見る。
服装を変えただけ、履いてる靴を変えただけ、なのに、凄く可愛い。
いや、いいね。 飼い主冥利に尽きる。 2人を見て思わずにやけてしまう。
そんな僕の様子に、2人も気を良くして甘えてくれるのだ。 いや、ちょっと奮発したかいがあった。
とはいえ、ストレージに残るお金は大銀貨が10枚と銀貨が23枚か。 あと2日なら、まだまだ余裕はあるだろう。
さて、着替えて洗濯しましょうかね。
僕らは一旦宿屋へと戻った。
僕は、部屋に戻ると素っ裸になった。
2人の前で恥ずかしい気持ちはある。 だが、僕は飼い主なので堂々としなければならない。 じゃないと、2人の身体を拭いてあげた時にフェアでは無いからな。 大丈夫、彼女達はペットだ。
とはいえ、そんなに見つめないで。
僕は買ったばかりの下着と服に着替える。
そして買ったリュックをそれぞれのタンス代わりに使う事を説明し、洗濯する衣類をまとめて手に抱える。
僕が部屋で待っているように言うが、当然のようについてくる。
「主様、洗濯なら私がやります。」
「ミアもやるにゃ。」
そういってくれるのだが、散々着こした自分の臭いのキツクなった衣類を洗わせるのは気恥ずかしい。
なので、やんわり断るのだが、聞いてくれる気配がないので、手伝ってもらう事にした。
3人で洗濯するのだが、僕はこの世界の洗剤に驚いてしまう。
大した事をしてないのだが、泡立ちもよく、衣類を揉み洗いしているとみるみると汚れが落ち、綺麗になっていくのだ。
僕は、洗剤の効力に感動していると、ミアとルナが変な顔をして、僕が洗濯した物を見ている。 何かおかしいのだろうか?
「ご主人様の洗濯、おかしいにゃ。」
「はい、こんなに綺麗になるわけないです。 何か洗濯のコツがあるんですか?」
「えっと、普通にこう、洗ってるだけだけど、洗剤が凄いんじゃないの? めっちゃ綺麗に落ちる。」
僕が洗っている衣類を手に見せると、ルナは、僕の手を握ってきた。
「どうしたにゃ?」
「いえ。 なんとなく魔力を感じました。」
「え? 魔力?」
魔力と言われて、僕は自分の手を見るが、確かに綺麗になるよう念じると効果がありそうな気がしてきた。
「私、洗濯に魔力を付与してやるなんて初めて知りました。 凄いです、主様。」
「さすがご主人様にゃ。」
なるほど、どうやら洗剤が凄いんでは無く、洗う時に魔力を知らずに使っていたようだ。 いや、魔法のある世界はやはり便利。
洗濯した物は取り合えず宿の人がいつも干している場所を貸してもらい、夕方には部屋に回収して届けてくれるとの事で、取り合えずの準備は終えたと思う。
という訳ではないが、いよいよ僕の冒険者の一歩を踏み出す事としよう。
僕は新しく買った服を、2人もお洒落な服という感じで、冒険者ギルドの入り口へと向かった。
冒険者ギルドの中は、奥の方が受け付け。 その脇にあるボード。 そして、二階へ向かう階段。 二階は用途が分らない部屋がいくつか。 そして、手前は結構広くスペースを取っており、テーブル席がかなりあり、そこでいくつかのパーティーがくつろいでいるようだ。
テーブル席に座っている客の手には飲み物と、ギルド内に漂う酒気の感じでどうやら酒場として併用しているように見える。 食べ物をつまんでいる席もあるので、食事もできるのかもしれない。
しかし、そのパーティーを組んでいるであろう冒険者達は、僕が考えていた様相とはちょっと違った。
まず、女性の冒険者が目につく所だろう。
後衛であろう装備はともかく、前衛とみられる装備者もわりといて、女性部を強調させたデザインの装備という感じなので、男性とは区別がつきやすい。
そして、ここで獣人の人もちらほらと見る事ができた。
まあ、僕は獣人だらけの村からこっちに来たわけで、この町に居てもおかしくは無いのだけど、町で今のところ見かけなかったので、なんだかほっとする。
とはいえ、僕がギルドに入ってあまり立ち止まっていては、ミアとルナは余計に不安にさせてしまうだろう。 2人はやはり、僕にピッタリと離れないように僕の服の裾を掴んでいたりする。
僕は2人を連れて、受け付けがある奥へ向かおうとした。
「おいおい。 ここは、子供がくるような所じゃないぜ?」
そう言って、座っている椅子から足を出して僕達の行く手を遮る男がいた。
みたところ、30代とまではいってないだろうが、顔だけは厳めしいおっさんだ。 もしかしたら20代かもしれないが、僕よりはかなり歳上に見える。
「えっと、すいませんが邪魔をしないで頂きたい。」
僕が笑顔でそう言うと、周りの男達は、何が可笑しいのか笑いだし、傍にいた女性は、呆れたような顔で僕らを見ていた。
勝手に受けている男達を無視して、邪魔をした男を避けて奥へ向かおうとする。
「おい。 ガキが調子に乗るなよ。」
そういって、何にイラついたのか、男が僕に殴りかかってきた。
しかし、僕にとっては遅い。 簡単に躱すことはできる。 けれど、避けて男がバランスを崩して後ろの2人に倒れ込まれても困る。
僕は、男の拳が僕に伸び切る前に、手のひらで受けた。
ガトの攻撃を受けた時に感じた衝撃に比べると、男の攻撃はまるで子供のパンチである。
僕に拳を遮られた男は顔を真っ赤にして力を踏ん張っているようだが、僕はビクともしない。
「この、クソ!」
男が、空いた反対側の腕で攻撃するが、僕は攻撃を止めていた手で、それを止める。
すると、今度は、また空いた腕をと、僕にバシバシと殴りかかるが、僕はそれを片手で止め続けて、というか、なんだか僕がムカついてきたので、僕が攻撃をしかけようとした時。
「いい加減にしろ!」
そう言って、男の首根っこを掴んで下がらせる。
男を下がらせた人は、女戦士だろうか、女性を強調させた装備をしてる。
「すまない、ちょっと悪酔いしているようだ。 私から言っておくので。」
「まあ、いいですけど。 ちゃんと躾てくださいね。」
僕は女性が連れているパーティーを少し馬鹿にするような口ぶりでそう言った。
しかし、僕と男の悶着を見た後では、他のパーティーも大人しくなったようではある。
僕は後ろの2人に「行こう」と声をかけ、奥の受け付けに向かった。
僕は、自分が若いと認識されているのを自覚したので、受け付けの子も一番若そうな子を選んだ。 それでも僕よりか年上だと思う。
「あの。」
「ひゃい!」
僕が声をかけると凄く怯えられてしまった。 周りの冒険者達からの注目を集めてしまったようだ。
「冒険者登録をお願いしたいんですけど。」
「冒険者登録ですね。 それでは、このエントリーシートに、記入をお願いします。」
受付の若い人は、上ずった声と、微かに震える手で、僕に記入用の紙を渡してくれる。
しかし、僕は文字が分らない。
昨日の事があるので、もらった紙をミアとルナに見せるが、どうやら2人にも分からなそうだ。
「あの、僕ら文字が読めないので代筆をお願いできますか?」
僕の言葉に後ろで飲んだくれていた男達が大袈裟に笑う。 それをまた女戦士の人が窘めてはいた。
「では、私が代わりに記入しますね。」
「ちょっと、横からいいですか?」
若い人が代筆をしようとした矢先に、傍にいた明らかに年上のお姉さんな感じの人が、僕に話かけて来た。
「あなた、先ほどの身のこなしからして、モンクでしょうか?」
なるほど、僕は何も装備していないので、モンクと勘違いしたのか。
僕は手に村正を出し、受け付けの人に見せる。
「僕の武器はこいつです。 モンクじゃありません。」
「あなた、ストレージ持ちなの!?」
「はい。」
僕が笑顔で答えると、受け付けの人はともかく、後ろで僕達を笑っていた人も静まり、違ったどよめきを感じる。
「だったら、簡単で便利な手を使えるわ。 基礎魔法を使うと良いのよ。 手のひらは魔力をイメージしやすいから、慣れるまではこうやって目に手を当てて、見たいものを見たいと念じてみて。」
僕は言われた通りに、いないないばあみたいな恰好で、文字を理解したいと念じてみた。
そして、記入用紙をみると、普通に日本語で文字が見えていた。
「えっと、なんで、これは!?」
「凄いでしょ。 魔法って割と便利なのよ。 地味だけど、こういう基礎って大事なんだから。」
「あっ。 でも文字を書くには?」
「そのまま、あなたが知ってる文字で記入したら、文字が見えている間は、魔法の自動手記で元の文字を書いてくれるから。」
僕は、少し感動して、そのまま名前と、年齢、性別、ジョブを記入していった。
「はい、これでいいですか?」
僕が渡したシートを見て困り顔をする、お姉さん。
「名前は、この国の人じゃないとは理解はしたんだけど、ジョブのサムライって何?」
「侍はですね。 刀という専用の武器を扱える職業でして、攻撃はもちろん、ファンタジックな世界観では核撃魔法も使える凄いジョブなんですよ。」
もちろん、実際の侍には魔法なんて使えないのは知ってるが、ここは魔法のある世界だし、ゲームでは魔法が使える設定だってある、なので、僕は話を盛ってみた。 もちろん僕は魔法を使いたい。
「あの、一応、エントリーシートに書けたとしても、人物ログに認識されないと意味はないから、魔法戦士とかでいいんじゃないかな?」
「いえ、ここは侍でお願いいたします。」
「じゃあ、はい。 サムライ。 ‥‥、登録できた。 こんなジョブあったんだ。」
エントリーシートを手に、金属製のプレートで何やら操作をしていたお姉さんは、驚いている。
僕としては、これで晴れて侍として認められたという事で、嬉しかった。 やりましたよ、武者小路さん。
僕の登録は終わったので、ミアとルナの方を見ると、戸惑っているようだ。
「ご主人様の名前、わかんにゃい~。」
どうやら、僕の苗字を書き加えようとしているようだけど、番だと加えるルールがあるんだろうか?
空白の覧をお姉さんが見て、それと指摘してくれる。
「えっと、ジョブはどういったものを目指す感じかな?」
僕は、二人のエントリーシートを受け取ると、そのまま空いてる所を埋める。
「僕の苗字は、後ろに書くんですかね。 あと、2人は魔法を使えるので、もちろん魔法使いです。」
僕はミアとルナのそれぞれに、水巴と付け加え、ジョブに魔法使いと書き込む。
ちなみに、ミアが12才でルナが11才だった。 確かに背の高さはミアのが少し高いけど、色々とルナのがミアより年上に見えてただけにちょっとびっくりした。
「ファミリーネームは、この国で決まった事ならこの国の並びで間違いないのだけど、あなたと、この子達の関係って?」
「えっと、2人とも僕の番なんですよ。」
そう言うと、受け付けの人は驚いたのだが、後ろで僕らを見ていた冒険者達も驚く。 特に獣人のお姉さん方が、なんか声出てた。
人間が獣人を飼うってやっぱ珍しいのかな? なんだか、ちょっと気恥ずかしい。
2人は、僕がそう言うと、嬉しそうに肯定して抱きつく。
「ちょ、ちょっと、待ってくださいね。 失礼ですけど、2人の人物ログを確認させて貰います。」
そう言って、ミアとルナにそれぞれプレートを手に、何やら呪文を唱えてプレートを確認している。
「どうやら、本当に2人ともあなたの番で間違いないみたいです。」
少しぎこちない笑顔でお姉さんに僕は言われたが、何か周りの視線が痛い。 特に、獣人のお姉さん方からの圧が凄い。
やはり、子供の獣人を飼うのは常識的ではなかったか、なんか村でも一人前のような祝福されたし。
「それでは、登録は完了しましたけど、魔法を使うジョブという事で、規則としての説明をしますので別室に移動しますが、よろしいですか?」
僕はそれに頷くと、2人を連れて、お姉さんについて行き、2階にある1室へと移動した。
部屋の中には色々と、棚と書類が積まれていたが、その目立つところにある机の上の水晶。
お姉さんは、僕らの向かい側へと、水晶に手を添え、話し出した。
「この水晶は、魔力の測定に使う装置です。 それぞれ得意な素養を理解して、それを高めるのが魔法の醍醐味と言えるでしょう。」
「得意じゃない魔法は使わないんですか?」
「はい。 得意や使える魔法はこの装置で示されます。 けれど、そもそも素養が無い場合は使えない事が多いんですよ。 魔法の素養自体が無い人も多いので、もし、少しばかり他の素養があったとしても、得意な素養を伸ばす時間に充てる方が有用だとするケースが多いですね。」
説明を聞く限り、魔法は熟練度があり、元々才能が無ければ使えず、高位の魔法を使う為にも、1つの系統を伸ばす事が主流と言う事らしい。
僕としては色んな系統の魔法を使える方が便利だとは思うけど、どうなんだろうな。
「基礎魔法と言うのは?」
「基礎魔法は、魔力操作の効果なので、全ての系統に通ずるものがありますので、魔法が使えれば使用できるんですよ。」
「あと、先にストレージについての注意を話たいんですが。 使えるのは。」
「はい、僕だけ使えます。」
「まあ、そうよね。 ストレージは、便利なんですが、気を付けないと犯罪に巻き込まれやすいんです。」
お姉さんの説明では、ストレージは本人が自分で価値があると認めた物を収納でき、さらに自分が気を許した仲間や家族の物を扱う事ができる。
しかし、それを敢えて利用して、仲間として近づき他人の物を収納させてくる者もいるらしく、そうやって、犯罪の共犯や、罪をなすって貶める人もいるらしい。
「わざと罪を付けさせる理由って何でしょう?」
「誤ってストレージを使った所で大した罪ではないんだけど、個人ログにはしっかり罪が残るので、もしすでにアライメント判定がイビルだった場合、そこで殺害されても罪にならないケースがあるの。」
アライメント判定がイビルで何らかの罪があった場合、殺されたとしても、相手のペナルティはほぼないらしい。 まあ、殺された人の親しい人から訴訟があれば別らしく、そういった足がつきやすいケースは問題ではなくて、殺された後に、死亡した人のストレージされた物がドロップとして全てその場に出されるのが目的らしい。
「だから、常に誰の物か分からない物はストレージしないって心がけてね。」
僕は、コクコクと素直に頷いた。
「じゃあ、魔力測定しましょうか。」
まずは、ルナから。
「私は、冷気系が少し使えます。」
「えっと、冷気系って一応元素系の上位系に当たるんだけど、じゃあ、水晶に魔力を込めてみて。」
ルナが水晶に手をかざすと、水晶は白っぽい青、水色と青い粒で輝いてはいるが、少々光は弱い。
「はい。 確かに冷気の素養がありますが、ちょっと水も混じってる感じでしょうか、ただ、魔力自体は弱くて、初級クラスの魔力なんですが。」
どうやら、ルナは上位系の冷気系で間違いなく、そして水の素養もあるようだ。
次に、ミア。
「じゃあ、いくにゃ。」
ミアが水晶に手をかざすと、水晶は赤く光るが、弱い。 ルナの光より弱い。
「火は攻撃魔法としてはとても優秀な魔法なんですが、魔力は、初級と呼べるものなんですかね。」
なんだか、不安そうな事を言っているが、そんなの熟練度をあげればバンバン使えるようになるはずだ。 むしろ使える事が偉い!
そして僕。
僕が水晶に手をかざすと、紫色に、そしてその光がどんどん眩しくなっていく。
「あぁぁぁっ!! もういいです、手を離して! 水晶が壊れます!」
まあ、眩しくて目が痛かったので、素直に手をのけると、水晶は元の透明なものへ戻る。
「えっと、僕の紫は?」
「ん~~。 大変珍しいんですが、元素の素養が全く無いんです。 ですが、基礎のベースの魔力が桁違いにあります。」
「つまり、僕は何ができるんですか?」
お姉さんは、指に小さな炎を灯すと、それをふわりと僕らの前へ浮かせてみせた。
「炎を発現させるには火の素養が必要です。 そして、それを思い通りに動かすのが、基礎の部分にはなりますが、魔力の操作という事になります。 なので、私はこの程度の操作しかできないんですが、あなたはもっと色々操作できると思います。」
なるほど、僕の力は魔力操作ね。 まあ、元素が使えないってのは、自分であれこれ試してダメだった事を思い出すと納得できた。
そこで、ミアに向かって僕は魔力を使ってみる。
ミアの着ている服が風もないのにふわっと浮き上がっていく。
「あぁ! 一応、説明! 生体は魔法抵抗が備わっているので、基本的には無機質な物を動かせると思って下さい。 生体にかけるならそれに対応させた風の魔法とかの方が効果がありますし、魔力の消費が全然違うはずです。」
僕がやろうとした事をお姉さんは咄嗟に理解したようだ。 つまり人の身体を持ち上げたり浮かせたりするのは風魔法にあるのだろう。 フライとかレビテトみたいな奴。
「なんか思ったより地味ですね。」
「でも、ある意味全ての魔法を使えるって事ですよ? 離れたところで火打ち石で火をつけるとか、水を運んでぶつけて消火とか、風向きを変えてとか、土は~、なんだろ?」
説明を貰っても、地味だ。 間接的に出来るは果たしてできるといえるのか。
だが、僕はひとつの利点を理解したのだ。 魔力操作ができ、そして魔力は桁違い。 これが分れば今は十分だろう。
僕はこれからの冒険の目的をここで決める。
僕の企みを知る事も無く、僕とお姉さんのやり取りを他人ごとのように見つめるミアとルナ。
冒険者ギルドの登録は無事終わった。
後は、素材の買い取りでお金待ちといった所だろう。 その後に、装備を整え、今回思いついた事に取り掛かる。
僕は、後2日がとても待ち遠しくなったのだった。




