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異世界旅行記 ~異文化交流って大変だね~  作者: えろいむえっさいむ
資料【異世界の文化または人物と交流があった者の変化について記録】
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閑話・大人たちの会話

2カ月のかなり後半、3章が始まるちょっと前です。

「……こちらが押収した品物でございます」


「そうか、手にとっても?」


「基本的に罠の類はありませんでした。刃物の類にだけはご注意ください」


 ルーイン護衛騎士団長はそう言うと、予め検査と分類をしておいた異世界の品々を机の上に並べる。ファルヌス皇帝陛下はそれを物珍しそうに眺めていた。


 すぐに机の上に3つの山が出来上がる。ルーインは左の山から指差して説明をした。


「予めわかりやすいように分類をしておきました。こちらの一番小さな山はすでにこちらの世界であるもの。この中央の山は、恐らくですが、使い道がなんとか判明したものです。そしてこの右の山が使い道が全くわからなかったものです。すべて一応確認しましたが、下手に触ると何かが起こるかもしれません。十分ご注意を」


「わかった……ふむ、こちらは見慣れたものが多いな。ずいぶんと綺麗だが……」


 ファルヌス皇帝は一番小さな左の山からクギを一本取ってしげしげと眺める。どこからどう見ても普通の鉄のクギだ。全てのクギが全く同じ形なのは素晴らしいと思うが、この程度はちょっと土の魔術に精通したものなら簡単に量産できる。そこまで珍しい物ではない。


 ただ、クギそのものよりもっと違う物に目が行く。クギを覆っている透明な袋を摘まんで、ファルヌスは問いかけた。


「この透明な袋は……なんだ? 何の材質でできている? とても不思議な触り心地なのだが……」


「ええ、異世界の品物の大半はその透明な袋に包まれていました。想像ですが、異世界で簡単に取れる魔獣の素材か何かではないかと思われます。ここまでの品質の物ではありませんが、海で取れる魔獣の一部にこういう透明な皮質が取れる個体がいます」


 ルーインの説明を聞きながら、クギを覆っている透明な袋をいろいろな方向で眺める。まるでそこに存在しないかのように向う側の景色が透けて見える袋であるため、中身のクギがはっきりと見える。他の代物も、全部ではないが、同じく透明な袋に入ってる物が多いため、袋を開けることなく中身を知ることができている。これは商品流通などで使えるのではないか、とファルヌスはこの袋の量産方法に興味を持った。


「皇帝陛下、もしよろしければこちらにある異世界の包丁をごらんください。対してこちらは帝国の一流料理人が使っている包丁です。刃先を見比べてください」


 そう言ってルーインが包丁を刃先を自分に向けて皇帝に渡してきた。ファルヌスはそれを受け取り、左の山に置いてあった包丁の一本を手に取る。


「……なるほど、見比べるとわかりやすいな」


 宮廷料理人が使っている包丁は鈍く光っていて、刃先は鋭くなっているが、厚みにムラがある。それに対して異世界の包丁はその輝きからして違う。刃先には流紋状の美しい模様があり、その切っ先はどこまでも鋭利で、根元から先端まで整って鋭い。


「……これは、製法が違うのか?」


「さすが皇帝陛下、ご慧眼です。どのような製法なのかまではわかりませんでしたが、このような物は帝都広しと言えどありえません」


「切れ味は?」


「料理人は『素晴らしい』と何度も繰り返して言ってました。よろしければ後ほど下賜されると喜ばれるでしょう……ただ問題はそこではないのです」


「……武器だな」


「……さすがです、皇帝陛下」


 剣や槍、矢の鏃などは鉄でできている。だがそれは「敵を斬る」ための物ではなく、どちらかと言えば「敵を殴り殺す」ための代物だ。鏃は魔術などの強化で鋭さを増すことができるが、もちろん元の性能が高ければさらなる強化が可能だ。


 ……つまり、この異世界の包丁と同じ切れ味の剣を用意することができれば、我が帝国軍隊の戦力は簡単に上がるということだ。


 たった一つの包丁だけで異世界の技術の有用性がわかる。そして恐ろしい話だが、これはまだ一つ目の山なのだ。残り二つ山がある。ファルヌス皇帝は次の山を見る。


「……これはなんだ?」


「はい、それは万年筆のようなものです。この尖ってる方で書くのですが、その前にこう、この反対側を押すと……」


 カチ、カチ、カチ。


「ほう、これは面白いカラクリだな」


 ファルヌスが「シャープペン」のお尻の部分を押すと、先端からシャー芯が少しずつ出てくる。面白がってどんどん出してると、指と同じくらいの長さの黒い棒が出てきて、最終的にポトリと落ちる。


「はい、その黒くて細い芯で文字が書けるようです。あまり羊皮紙では書きづらいのですが、面白い代物だと思います」


「そうか……あれ、もう先程の黒い芯は出なくなったぞ? 中身がなくなったのか?」


「あ、あれ、そうなのですか? おかしいですな。私が使ったときは何回か出たのですが……」


 そう言ってルーインがシャーペンを受け取って色々触る。だがどうしても新しい芯が出ないので、諦めて机に置く。


「どうやら使用限界があるようですな。申し訳ありません、何度も使えるものかと思いこんでました。これはもう使えませんな」


「良い、他には?」


「はい、是非見てもらいたいものが、こちらになります」


 ルーインは黒くて丸いドーナツ状の物を手にとって皇帝に渡した。皇帝はなんなのか全く分からずぐるぐる見渡す。


「これはなんだ? 文鎮にしか見えないのだが」


「これは磁石になります。しかもとても強力なものです。ご覧ください」


 そう言ってルーインは先程使った料理長の包丁を取り出すと、皇帝の手からその黒い磁石を受け取り、くっつけてみた。カチッと金属が当たる音がして磁石が包丁にくっつく。「ほほぅ」と皇帝は興味深げにそれを見て、触り出す。


「……全然取れないな」


「はい、とても強力なんです。製鉄所で作れる磁石では、さっきのクギ一本くっつけるのが精いっぱいですが、これなら……」


 そう言って先程の釘に磁石を近づける。すると、磁石を近づける前にクギの方から浮き上がって磁石にくっついてきた。そのあまりの光景に驚きつつ、ファルヌス皇帝はいろいろ触ってちゃんとくっついているか確かめる。


「……この透明な袋越しでも磁石はくっつくのだな」


「……え、ええ、そうですね。それはまあ、はい……」


 磁石がどんなものにくっつくか色々確認しながら、ファルヌス皇帝は考える。磁石は棒状の鉄を熱して急に冷やすと簡単に作れると聞いたが、ここまで強力な磁性を帯びたものが作れるとは聞いたことがない。円形なのがいいのだろうか、そもそもこの黒いのは鉄なのだろうか、と色々考えるが、何も思いつかない。高度な製鉄技術のある者に聞けばわかるだろうか。


 ……とはいえ、ここまで強力な磁石があったところで何に使えるというわけでもない。もしかしたら異世界では使える道具なのかもしれないが、こちらでは使い道がわからない。


 他にもいろいろ触ってみるが、ルーインの説明を受けながら確認していく。「こちらは上手く切り離すとくっつきます。とても接着力が強くて梱包等に使えるかもしれません。人を縛るのにも使えそうです」とガムテープを指差し、「こちらは透明な袋です。先程の包装の物とは違いますが、利便性はこちらの方が高そうです」とビニール袋を開いて見せて、「こちらはクギに似ていますが、正確な用途はわかりません。もしかしたら拷問用なのかもしれません」とプラス字ネジを手に取る。


「なんというか、どれも不思議な材質を使っているな。これは異世界の特産品か何かなのだろうか」


 ハンドタイプのモップの先端をもふもふしながらファルヌス皇帝が尋ねる。ルーインは首をかしげながら答える。


「かもしれません。どれも触ったことのない材質の物ばかりで、どうやって作るのかすらわかりません。どう見ても魔獣の皮でもありませんし、もちろん木材ですらありません。鉄や銅でももちろんありませんし……」


 プラスチックの手触りが物凄く珍しいらしく、二人とも興味深く調べている。だが、いくら見たところでなんなのかわかるわけがない。諦めて最後の山を見る。


「こちらは……まったくわかりません。どう言った用途なのかわからないのはもちろん、そもそも分解したりすることすらできない品物です。高度な魔術回路による封印がなされているようにも思えないのですが……」


「異世界には魔術が存在しないという。単純に構造が複雑なだけだろう……持ちこんできた当人に聞くことができればわかるのだろうが」


「……そうですな。いろいろ見ているうちに、私も異世界の品々に興味が沸いてきております」


 そう言って何やら容器のようなものをルーインは持っている。ファルヌス皇帝も興味が沸いたのか、聞いてみる。


「それはなんだ?」


「これは、いえ、わかりません。ただ、この頭の部分を押すと、何やらドロっとした液体が出るのですが……」


 そう言って試しにルーインが一回頭の部分を押してみる。すると鶴の口のようなところから白いドロリとした液体が垂れてくる。ルーインがもう片方の手でそれをすくい取る。


「……なにやら良い匂いがするのですが、全くよくわかりません」


「ん? これはもしかしたら……"しゃんぷー"ではないか?」


「"しゃんぷー"ですか? これが何かご存じなので?」


 まさか知っているとは思わず、ルーインは驚いてファルヌス皇帝に聞き返す。ファルヌスはルーインの手のひらにある液体を指先で少し受け取りつつ、答える。


「ああ、我が子の婚約者がこのようなものを異世界からの土産として貰ったと聞いている。これを使うと髪が綺麗になるというが……後ほど実践してみようか」


「そうですか。つまり石鹸の一種ですか。にしても異世界では、このような不思議な入れ物に入ってるのですね……」


 そして皇帝は何かに気付いたようにシャンプーの入れ物を手に取ってくるくると回す。中身は見えないが、中にあるドロリとした液体が動く感触が外側からでもわかる。


 ファルヌス皇帝は驚いたように呟く。


「この素材、水が染みないぞ」


「む!? ほ、本当ですな。これは凄い」


 そう言ってルーインはプラスチック製の代物の数々を凝視する。(ロウ)(なめ)した革袋か、土を焼いた壺やコップならいざしらず、このような不思議な素材で水が染みないと言うのはとても不思議だ。まさか、と思って先程のビニール袋を手にする。


「もしかしてこれも水漏れしないのでしょうか?」


「わからぬ。あとで試してみよ」


「はい」


 異世界の品々は、どう作ってるのか全く分からないが、かなり品質が高い物が多い。どれもこれも目を引くものばかりだ。ルーインは右の未知の品物に目を向けながらため息をついて呟く。


「……できればこれらの品物について持ってきた本人に聞いてみたいですな。今は難しそうですが」


「……そうだな。すでに問題を起こしてしまってるからなぁ……」


 ファルヌス皇帝もため息をつきながら同意する。己が立場に固執した短慮な大臣どもが異世界人を拘束したせいで、せっかく宮廷魔術師として受け入れたにも関わらず、直接命令できる手元に置けなかった。昔馴染みのディートにも苦言を呈されて、彼を帝城に誘うのも難しい。聞きたいことは山ほどあるし、頼みたいことも山ほどあるのに、そのほぼ全てがシャットアウトされている。


「一応監視員も影に潜んでおいておいてあるが、彼の生活の基本は異世界にあるらしい。5日に一度こちらの世界にフラリと遊びに来るだけらしい。長期休暇が取れたら例のワープホール設置計画に協力してほしいと頼んでおいてあるし、もし交流が図れるのなら私たちも異世界に連れて行ってほしいのだが、まったくいつになることやら……」


「……でしたら、皇帝陛下。一つ提案が……」


「なんだ?」


 そしてルーインは一つの案をあげる。皇帝は「なるほど」と呟いて、さっそくそれを採用してルーインに命じた。完璧とは言えないが、まあ妥当な案である。ルーインが退出すると、ファルヌス皇帝は再度深いため息をついた。

そ、そろそろ閑話ネタ尽きてきた。三章始めなきゃあかんか……ツライ

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